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障害者と健常者を、"分断"から"交じり合い"へと導くアートの力

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みんなと同じだけど、ちょっと違う存在

小学生の頃、クラスに「たっくん」という、知的障害をもった男の子がいた。たっくんは一見、他の子たちと変わらない。体育のときは、みんなと同じように授業を受ける。でも、算数や国語の時間はいない。いつもニコニコ楽しそうだけど、時々、幼稚園児のような甲高い声を上げる。でも、クラスのみんなからは「たっくん、たっくん」と人気者で、誰も彼を“特別視”はしていない。

転校してきた私は、前の小学校ではそういう子と出会う機会がなかったので、率直に「あの子は何者だ??」と驚いた。先生に「たっくんって何者?」と尋ねたところ、担任の教師は、その素朴すぎる疑問に「わははは!」と大笑いした。「何者?って、あなた、面白い表現ね~!たっくんは、みんなと同じだけど、みんなと一緒にできないこともある。そういうときだけ、特別支援学級で、別のお勉強をしているのよ」。たっくんとの出会いが、私にとっては「障害者」との初めての出会いだった。

『五体不満足』と「バリアフリーブーム」

その数年後、乙武洋匡さんの『五体不満足』が大ベストセラーになった。「障害を個性のひとつ」と捉える作者の、前向きな生き方は衝撃を持って受け止められ、社会全体で「バリアフリー」や「心のバリアフリー」について考えることがブームになった。

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ただ、乙武さんがヒーローになっても、現実の「障害をもった人たち」は、相変わらず、都会のど真ん中というよりは、郊外など、ちょっと人里離れた所(というと語弊があるが、実際、施設があるのは、地方の自然に囲まれた地域が多い)で、地道な生活を送っている。そんな、「ごく普通の障害者」たちによるアートが、日本でも注目されるようになって、約20年が経つ。「障害者アート」という人もいるが、正確にはこう呼ぶそうだ。「アール・ブリュット」「アウトサイダー・アート」「生の芸術」(※1) 。施設関係者たちの活動などを通して、地道に広がってきた(※2) 彼らのアート作品は、この社会で「普通に生きる」とは何か、「普通ではない者」とカテゴライズされて生きるとはどういうことか、そもそもアートとは何か等々、様々な問いを投げかけ、私たちの「当たり前」を揺さぶる。

2014年11月8日(土)、日本では初めての試みとなるアール・ブリュットの合同展覧会が始まった。展覧会のコンセプトは、「TURN/陸から海へ~ひとがはじめからもっている力~」。東京藝術大学教授の日比野克彦氏が監修し、全国4つの美術館を巡回する。オープニングイベントを見てきたのだが、帰宅した当日は知恵熱が出るほど考えこんでしまった。

「ひとがはじめからもっている力」って何だ?

合同企画展のポスター
同企画展に先立ち、日比野克彦氏は、入所者の方々と「時間を共有するため」、全国4つの障害者支援施設で「ショートステイ」をしている。日比野氏は、施設への滞在を通して、障害を持った人たちの創作意欲や独特のキャラクターを目の当たりにした。「健常者」である彼が、入所者とともに寝泊まりし、同じように作業をする。することが何もない時は、日がな一日ぼんやりすごす。滞在中、日比野氏は、「アート(美術)のアートたるゆえんは何か」、「表現とは何か」「そもそも『美』とは何か」など、様々に思いを巡らせたそうだ。考えぬいて見えたものが、今回の展覧会のコンセプトとなった。いわく、「ひとがはじめからもっている力」

「良い意味で、分かりやすいコンセプトだなぁ」と、はじめは思った。「障害を持った人たちのアート作品を通して感じられる、普遍的な『生のパワー』みたいなものかな……?」と思っていた。だが、現実はもっと複雑だった。その「複雑さ」をレポートするのが、このブログの目的です。ちょっと長くなりますが、時間の許す限り、お付き合い下さい。

障害者、マルセル・デュシャン、岡本太郎の作品が並列に並ぶ

合同企画展のスタート地点は、京都府亀岡市の障害者支援施設「みずのきえん」が運営する「みずのき美術館」。京都駅から電車で20分あまりの、亀岡駅で下車する。町中にある「みずのき美術館」まで、てくてくと歩く。

商店街の古い家屋がたちならぶ中に、ぬっと、真っ白な、でも不思議と町並みに溶け込んだ建物が姿を現す。

みずのき美術館の入り口。大正期に建てられた理髪店をリノベーションした建物 (みずのき美術館の入り口。大正期に建てられた理髪店をリノベーションした建物)

中に入ると、障害を持った人たちの作品から、マルセル・デュシャンの有名なアート作品「泉」、岡本太郎が全国行脚して、地方に生きる人々の生活を撮影、文章とともに著した「藝術風土記」、最近の現代アート作家たちの作品、演出家の野田秀樹さんの作品までが、“対等に”並んでいる。

館内の様子
当日は、日比野克彦氏と、キュレーターの奥山理子氏による作品の解説があるということで、かなりの人出だ。100人くらいは集まっている。取材陣も多数。

いよいよ、作品解説が始まる。1作品目は、島袋道浩さんの「輪ゴムをくぐりぬける」。無造作に置かれた輪ゴムが、人々の行為を誘発する。日比野氏が、文字通り「輪ゴムをくぐり抜け」るパフォーマンスをし、会場はどっと湧く。

輪ゴムをくぐり抜ける日比野克彦氏 これも、日常にありふれたモノからコミュニケーションを生み出すアートだ。

※1厳密には「障害者」だけでなく、犯罪を犯した人や、市井の人々による作品も含まれる。
※2日本のアール・ブリュットは近年、海外でも評価されている。2010年から11年にかけては、パリで「アール・ブリュット ジャポネ展」が開催された。

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