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社員食堂を持たない会社にバーチャル食堂を提供する「EAT Club」

あなたは社員食堂を利用したことはあるだろうか? 社員食堂と一口に言っても、会社によってその実態はさまざまだが、基本的にコストが低めに抑えられるのが大きな利点だ。福利厚生の一環として無料にしているすごい会社もある。

社員にとっては経済的なメリットの大きい社員食堂だが、企業側にとってみれば、社員食堂の維持にかかるコストはバカにならない。規模が小さめの企業やスタートアップには、社員食堂の効用を承知しつつも作れないでいるケースも多くあるだろう。

今回ご紹介する「EAT Club」は、そうした企業の悩みに応える法人向けの食事宅配サービスだ。同サービスは社員食堂と同程度の価格で15種類程度の日替わりメニューをオフィスに宅配してくれることが特長となっている。

2010年に米国カリフォルニア州のパロアルトを拠点にサービスを開始。現在はシリコンバレーまで宅配地域を広げている。これまでに総額約1600万ドルの投資を受けている人気のサービスだ。

研究者からフードビジネスの起業家へと

創業者のKevin Yang(以下ヤン)氏は、元々はハーバード大学で生物物理学を専攻していた人物だ。学生生活のほとんどの時間を研究に費やしていたが、学生生活も終わりに近づいたころには、自分自身の一生を研究に費やせる気がしないと感じるようになっていたという。

「もっと自分自身の人生をコントロールできるようになりたい、運命を自分で切り開きたい」

そう考えたヤン氏が次に目指したのは、起業家として活躍することだった。しかし、何をするのかのアイデアがなかったためビジネスを学ぶことができ、自分自身の専攻領域に近いコンサルタント会社に就職。2008年からはスタンフォード大学でMBAの勉強をはじめ、さまざまなビジネスモデルやビジネスアイディアを学びながら、自分が関わりたいと思えるビジネスを見出していった。

ヤン氏が最終的に目標と定めたのはフードビジネスだ。もともと食べることが好きで、フードインダストリーのマーケットを常日頃から調べていたケビン氏は、多くのオフィスワーカーの食事が満足いくものでないと感じていたという。

米国のオフィスワーカーの75%は、週に2~3回自分のデスクで食事をとっているんだ。そしてその傾向は日々強まっている。生産性をもっと高めろと言う圧力があって、従業員は長く働かざるを得ないんだよ」(ヤン氏)

彼らはオフィスの近くにある栄養的によくないファーストフードや美味しくない惣菜などを買ってきて、社内で食事を済ませている場合が多い。周りに良いレストランがあったとしても、値段が高く、手続きも面倒なためになかなか頻繁に利用できない。

そこでヤン氏は、会社の生産性と従業員の満足度を両立させられるようなサービスを提供したいと考え、2010年に米国カリフォルニア州のパロアルトを拠点に「EAT Club」をロンチする。

これは法人が利用できるランチサービスで、手頃な価格で利用できる上、レストランのように味の良い法人向けの食事をオフィスに宅配してくれるというものだった。

はじめのうちは顧客の確保に苦労した。提携レストランのことを考えると顧客から20食のオーダーが入る必要があったが、1食しかオーダーがなく、仕方なく自分たちで注文して食べていたこともあったそうだ。それでも会社を訪問してサービスを利用してもらうよう営業をして顧客を獲得するなどして、次第に口コミを得、顧客の数を増やしていったという。

企業の生産性の向上に貢献し、社員の満足度をあげる「バーチャル食堂」

EAT Clubは現在、5~500人規模の法人に対し、自前のランチや提携レストランのランチを宅配している。

宅配されるランチの種類は15種類ほどあり、毎日日替わりメニューとなっている。価格はおおよそ8~10ドル(約800~1000円)で、レストランに近いレベルの食事が楽しめるようだ。米国のレストランで外食するとなるとチップ含め少なくとも1500~2500円はかかると思われるので、良心的な価格設定と言えるだろう。また配送料も無料だ。

サービスの利用時には会社のオフィスの住所や会社名など、その法人の情報を入力してアカウントを取得しておく必要がある。注文はPCかスマートフォンでほしいメニューと数を選択してオンライン上で注文。宅配当日の10時30分まで(初回のみ、前日の午後4時30分まで)にオーダーすれば、12時30分までに宅配されるというしくみだだ。なお、注文は5食以上から受け付けている。

このサービスを利用するメリットは、オフィスを離れることなく良質な食事を取れることにある。企業は社員の生産性を確保でき、社員はわざわざ外に足を運ぶことなく、レストランのような質の高い食事を格安で得ることができる。また副次的な効果として、みんなで一緒に食事をすることで連帯感を高め、共同作業や意識を保ちやすくなることがある、と指摘する記事も見られた。

これらの効果は社員食堂によく似ている。そのためEAT Clubは「バーチャル食堂」と呼ばれることもあるようだ。料金も割安で気軽に利用できるため、上記のような効果を期待して社員食堂を持ちたいと考えているが、それだけの余裕がない企業が簡易的に導入できるサービスとなっている。

なお、社員食堂を持つ会社に勤務していると思われる社員が敢えてEAT Clubを利用しているもあった。サービスが社員食堂と同程度かより安く利用できる上、メニューの種類も豊富なので、社員食堂よりもこのサービスをよく利用しているのだそうだ。

EATClubが社員食堂と同等かそれ以上に安い値段で良質なメニューを提供できている背景には、ランチだけに絞って営業時間を短くし、効率化することで余計な人件費等がかからないようにしているところが挙げられる。

また、外部メニューをレストランに依頼している点も見逃せない要素だ。レストランから提供してもらっているメニューは自前のものと同価格帯なので、レストラン側からすると損にも思えるが、ここには隙間時間に食事を提供できるという価値がある。

EAT clubのメニューのオーダーは、すべて10時30分までに入ったものだ。そのためこのメニューを作る時間帯が、レストランにとっては朝食と昼食のちょうど「隙間」にあたる。こうした時間もうまく有効活用できるのは、レストランにとっても大きいだろう。

「凡人でも現状にある些細な顧客の不満を解決するビジネスを作ることはできる」

EAT Clubの価値は、企業が簡易的に利用でき、その効果を期待できる「バーチャル食堂」とも言えるサービスを提供していることにある。格安のケータリングサービスは他にも多く見られるが、個人向けのサービスでなく、法人に対してサービスを打ち出し、そのメリットを提示できたことがこのサイトの強みだろう。

また、ランチの供給にあたって、レストランと提携し、時間の隙間をうまく利用したのも巧みな点だ。

「僕はスティーブ・ジョブスやマーク・サッカバーグのような革新者にはなれない凡人だけど、現状にある些細な顧客の不満を解決するビジネスを作ることはできる」(ヤン氏)

ハーバード大卒のヤン氏をして「自分は凡人」と言われてしまうと、僕達は一体何者だろうか...。いや、そこは悩んでも仕方ない。ヤン氏が言いたかったことは、あなたにも解決可能な「消費者の小さな不満」は、そこら中に転がっている、ということだろう。

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