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関東の看護師が足りない――西高東低と地域活性化

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看護学部の急増

このような状況について、政府も無策を決め込んで来たわけではない。平成以降、看護師養成数を年間約4万人から6万人に増やした。

注目すべきは、大学看護学部の急増だ。図3をご覧いただきたい。平成元年には看護系学部があったのは、11大学(関東に5大学)だったのが、現在では228大学(関東に63大学)に増えている。一方、専門学校の定員はむしろ減少傾向だ。平成以降の看護師養成数の増加は、ほぼ看護大学によると言っても過言ではない。

図3:看護師養成数の推移 日本看護協会の資料より(クリックで拡大)

図3:看護師養成数の推移 日本看護協会の資料より(クリックで拡大)

一部には「粗製濫造」を憂える声もあるが、これでも急増する患者ニーズに応えることは難しい。もし、関東の看護師養成数を、西日本なみに増やそうとすれば、さらに17000人程度、看護師養成数を増やさねばならない。東京だけでも5000人だ。

どうすればいいのだろう。ただ、ニーズがあれば、必ず成長する。図4をご覧いただきたい。この10年間で看護学部の定員は倍増。志望者数は3倍に増えた。この結果、看護学部が大幅に増えても、定員割れは起こしていない。

図4:看護学部の定員、志望者の推移

図4:看護学部の定員、志望者の推移

私立大学の看護学部の授業料は安くない。初年度納付金が200万円を超える大学も珍しくない。それでも看護学部で学びたいという高校生は後を絶たない。

この状況は大学経営者にとってありがたい。看護学部は、医学部のように新設に対する規制がない。看護学部を作りたいという事業者がいれば、基本的には認められている。ボトルネックは教員の確保だ。看護師の多い九州地区ですら、看護大学の教員確保は難しく、年収1000万円以上が普通だという。ポスドクの就職が問題になっているのとは対照的だ。

少子化が進み、大学経営が冬の時代を迎えた昨今、看護学部設立は大学経営者にとっても、教員にとっても魅力的な存在だ。東京や京都など、私立大学が多い地域では、私大がリードして看護師の養成数を増やしている。来春には、関西の名門同志社女子大学も看護学部を新設する。ただ、地方や千葉・埼玉は同じようにはいかない。大学は東京や関西に集中しているため、看護学部を作ろうにも、設立母体となる大学時代が足りないからだ。図5をご覧いただきたい。東京以外の関東地方には大学が少ないことがおわかりいただけるだろう。このままでは関東の看護師不足は緩和されない。

図4:各県の18歳の単位人口あたりの大学数

図5:各県の18歳の単位人口あたりの大学数

食うに困らない看護師人気

話を戻そう。では、なぜ、こんなに多くの高校生が看護学部を目指すのだろうか。もちろん、看護師が「聖職」であることは大きいだろう。国家資格であり、看護師不足の昨今、食うには困らない。

さらに、意外に知られていないのは、看護師の給与が高いことだ。平成25年の平均年収は472万円である。これは、サラリーマンの平均年収(409万円)を上回る。高度な専門知識が求められる看護師なら、その程度の給料を貰うのは当たり前だが、これだけの収入があれば、自立した生活を送ることが出来る。

さらに知人の予備校講師は「医学部や薬学部と比べて、看護学部の偏差値は低い。40台の学校も珍しくない。それでも卒業して、国家資格をとれば、高給が保証されている。こんな仕事はほかにはない」という。おそらく、このことが看護学部人気の最大の理由だろう。かつて「3K」といわれた職業もずいぶんと変わったものだ。

看護大学人気を考えれば、偏差値は急速に上昇するだろう。ただ、その過程で混乱が生じるはずだ。今後、教育の質を担保しながら、さらに看護師養成数を増やさねばならない。

看護師養成が地域経済を活性化する

我が国の医療レベルを維持するには、看護師を増員しなければならない。実は看護師の増員が必要なのは。医療や教育の面だけではない。地方の雇用確保という意味でも重要だ。

地域経済への影響を議論する上で重要なのは、医師より桁違いに数が多いことだ。平成24年度の就業看護師数は137万人で、医師の約4倍だ。関連産業も含めた自動車関連の就業人口が547万人であることを考えれば、その規模がご理解いただけるだろう。

地方都市では、病院は一大産業である。地域の中核産業となっているところもある。例えば、房総半島でもっとも多くの雇用を提供しているのは、鴨川市の亀田総合病院グループだ。グループの売上は、鴨川市の一般会計と特別会計の合計よりも多い。

病院は、給食からリネン類まで、多くの関係者に仕事を提供する。更に病院職員は、地元で消費する。病院職員の中でもっとも多いのが看護師だ。彼らは、地元で子供を産み、地元で消費し、地元で子育てをする。看護師の増員が、地域を活性化させた例は枚挙に暇がない。例えば、栃木県壬生町は「人口あたりの看護師数が全国5位」であることを訴えている[*2]。獨協医大があるためだが、壬生町の関係者は「看護師が増えたことが、町の経済を活性化させ、雰囲気を変えました」という。

[*2] http://www.town.mibu.tochigi.jp/osirase/sogo/kika_kangosi_zenkoku5.html

看護師養成は、安倍政権が推し進める「ウーマノミクス」と「地方再生」の肝になると言っていい。ところが、政府が看護師増員を推し進めているという話は聞かない。看護師不足が深刻な千葉、埼玉、神奈川、栃木、さらに福島、岩手には国立大学の看護学部がない。せめて、これらの地域の国立大学に看護学部を新設すればどうだろう。やれることから、地道にやっていくしかない。

我が国が抱える少子高齢化は深刻だ。国民の命を守るため、さらに地域の経済を活性化するために、地元での看護師養成に力を入れねばならない。大都市圏、特に関東でどうやって看護師の養成数を増やすか、国民的な議論が必要である。

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