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カミングアウト、慌てず騒がず慎重に

 スティーブ・ジョブズ亡き後、アップルのCEOとして活躍しているティム・クックが、自らが同性愛者であるとカミングアウトをしたそうだ。
 カミングアウトの理由は、同じ同性愛者を励ますことになればということらしい。(*1)

 最初、僕は彼がわざわざ自らの性的指向を公表することの意味がわからなかったが、「なるほど、ノブレス・オブリージュか」と納得した。ノブレス・オブリージュとは、高い地位に立つものの義務という意味である。

 アップルのCEOという高い社会的地位に立つ存在が、自らの性的指向を公表すれば、そのことが世界中に伝達される。その結果として、自らの周囲と異なる性的指向であることに悩む人達が、自分たちと同じ仲間がいるということを感じたり、またそうした指向を持ちながら、社会的地位を保つことも可能であると理解できるということなのだろうと、僕は理解する。その事自体はとても真っ当な考え方だし、僕も賛同するところである。

 しかし一方で、そのことが「アップルという会社が、同性愛に理解のある会社である可能性が高い」というふうに理解されることには、僕は首を捻らざるを得ない。

 例えば、ロイターが「アップルは、同性愛者の優秀な人材を得られる可能性がある」(*2)という論旨の記事を出しているが、では同性愛者を嫌う人たちは、優秀でない技術者であろうか?

 また、直接やり取りをすることが少ないCEOが同性愛者であっても構わないが、仕事で接することが多い、同僚や部下が同性愛者では嫌だという技術者もいるだろう。

 同性愛者への寛容さと優秀な技術者であることには関係がなく、その寛容さにも大きく幅があるにもかかわらず、さも同性愛者や、寛容さを持つ人間が優秀であるという考え方は、性的指向で他者を差別する見方なのではないだろうか。

 また、CEOが同性愛者であることと、社内環境が同性愛者にとって問題の少ない環境か否かも単純に考えることはできない。それは「女性が上に立てば女性に寛容な社会ができる」という考え方が、現在の安倍政権によって完全に否定されているのと同じである。安倍政権批判が気に入らないなら、韓国の朴槿恵政権を考えてもいい。

 労働問題にだって、元ホームレスがホームレスを利用して貧困ビジネスを展開しているような例もあり、同性愛者だからといって、同性愛者に優しいなどとは、誰も断言できない。

 女性にだって同性愛者にだって、そして男性にだって様々な考え方があるのであり、属性をもって「ある属性の人間は、同じ属性の人に優しいはずである」と単純化するべきではない。

 そうではなく、オフィスのトイレや更衣室などに性的少数者に対する配慮が存在するか。また、セクハラなどの対応に対する俊敏さといった面こそ精査されるべきであり、それをしないままの、極めてセンセーショナルな、単にカミングアウトを受けて、アップルという会社を賛美するだけのことは、結果として同性愛者を傷つける可能性がある。

 ティム・クックだって、そんな結果は望んでいないだろう。このことを伝えるのは構わないが、性的指向の問題は、多くの人のプライバシーに関わる話なのだから、できるかぎり慎重かつ多角的視座をもって報じてほしいと思う。
 単に「カミングアウトは素晴らしい!」だけでは、真っ当な報道とは言えないであろう。

*1:米アップルのティム・クックCEO、同性愛を公表(朝日新聞デジタル)
*2:コラム:アップルCEOの「プライド」、優秀な人材獲得に寄与(Reuters)

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