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原子力から去りゆく日本のエンジニア 迫りくる中国依存の日 - Wedge編集部

隆盛を誇る中国の原子力業界(参考:「原発建設計画270基超 日本を凌駕する中国の原子力に依存する日」)とは対照的に、日本は福島第一原発事故後、停滞を続ける。原子力エンジニアの本音から垣間見える日本の未来は決して明るいものではない─。

 「地震発生、地震発生」。原子炉は自動的に停止したものの、鉄塔が倒れて外部電源を喪失。非常用ディーゼル発電機が起動するも津波により発電機能を失う。運転員はポケットから懐中電灯を取り出して計器類を照らし、必死に復旧作業に立ち向かう─。


福島第二原発敷地内にあるシュミレータ室で行われた訓練。東日本大震災時と類似する想定で行われた

 上の写真は福島第二原発を訪れた際に見た、シミュレーション訓練の様子を捉えたものである。緊張感溢れる訓練だったが、福島第二原発は、このまま廃炉となる可能性が高い。先の見通しがつかない訓練に、運転員のモチベーションが気になった。東京電力は「福島第二原発の今後については未定です」と説明する。

日本人エンジニアの悲痛な叫び

 「事故前だったら一切考えなかったですが、今だったら……正直悩みますね……」

 つい最近まで東京電力に勤めていた原子力エンジニアに対して、「中国からオファーがあったらどうしますか?」という質問を投げかけたところ、先の答えが返ってきた。「あれだけの規模で建設や研究開発を進めていることは魅力です。日本にいて、この先自分の人生を廃炉に捧げていくのかと思うと、それはやはりやりたいことと違うと思い、退職を決意しました」。

 聞けば発電事業に携わり、世の中に貢献したかったのだという。彼は原子力とは無縁の業界に転職した。

 今、こうしたエンジニアが後を絶たない。「最盛期は月に1回ぐらいの割合で送別会をしていましたね。次は誰が辞めるのだろうと思いながら……」。転職しやすい若い世代は、よりその動きが顕著である。「同期の原子力エンジニアの過半が退社を決意し、原子力とは無縁の仕事に就いています」。

 今回、退職者を含め、電力会社、メーカー、研究機関など原子力エンジニア20人以上に接触して、話を聞いた。

 「いまもっとも苦労していることの一つが社員のモチベーション維持・向上です」。福島第一廃炉推進カンパニーの増田尚宏プレジデントは言う。


福島第一廃炉推進カンパニーの増田尚宏プレジデント

 同カンパニーは、東京電力の社内カンパニーで、震災当時、福島第二原発の所長だった増田氏がトップを務める。三菱重工から鈴木成光氏、東芝から髙山拓治氏、日立GEニュークリア・エナジーから有馬博氏をバイスプレジデントとして迎え入れるなど、電力会社、メーカーが総力をあげて問題解決に取り組んでいる。

 取材班は福島第一原発を訪れたが、多くの作業員(1日あたり約6000人)が原発本来の業務とは無縁の作業を行っていた。3時間程敷地内に滞在し、浴びた放射線量は0.01mSv(胸部CTスキャンは約6.9mSv、東京とニューヨークの航空機往復は約0.2mSv)と驚くほど低い値であった。作業環境は向上しているといえるだろう。

 はなから廃炉を生業にしたいと思い、社会人生活をスタートしたエンジニアは皆無である。「発電や新設に携わって世の中に貢献したかった。廃炉メインの人生となるとモチベーションを保てなかった」─。東京電力を去った複数の原子力エンジニアがそう話してくれた。

“志”に支えられる廃炉

 会社に踏みとどまって、廃炉に身を捧げる者もいる。「自分がやらなければという思いです」─。一部の人間の「志」に支えられて廃炉は成り立っている、という印象を強くもった。

 日本最大規模のサッカートレーニング施設「Jヴィレッジ」のフィールド上に建てられているプレハブの社員寮は1部屋4畳半、部屋と部屋は薄い板で仕切られ、3室隣のアラームで目が覚めるという環境である。「周りの足音が目覚ましだと思って前向きに解釈しています」と現在廃炉を担当しているエンジニアが教えてくれた。「下がる労働条件にJヴィレッジの寮。あれでは辞める人がいて当然ですよ」(退職したエンジニア)。“志頼み”は脆さと同居している。


Jヴィレッジのフィールド上に建つ東京電力の社員寮。部屋を仕切る壁は薄く、3部屋隣のアラームが聞こえる

 新たに原子力エンジニアになろうと思う学生が減少していることも無視できない。「事故後、専攻を決めることになりました。資源のない日本に絶対に原子力は必要だと思い、専攻を決めましたが、事故前と比べ原子力を志望する学生は激減していました」(若手の現役エンジニア)。

 「廃炉がメインと分かって、あえて原子力エンジニアの職を選ぶ学生は少ないと思います」。多くの原子力エンジニアがそう答えた。上位校のトップ層が、原子力を志望する中国とは対極の構図である。

 原子力学科の低迷は、事故前から言われていたことであったが、最近はそれに拍車がかかっている。実は原子力エンジニアの過半は学生時代、化学、機械、電気などを専攻し、原子力を専門にしていない。「原子力学科が衰退しても、エンジニアの多くは元々原子力を専攻していないので、日本の原子力技術が衰退するわけではない」という意見もあるが、最先端の技術開発など、原子力のコアな部分は原子力専攻出身のエンジニアに頼るところが大きい。原子力学科が衰え、志望する学生が減れば、原子力の技術レベル低下は避けられないだろう。

 また、あるエンジニアは「新設の見通しがつかないので、辞める決意をしました」と打ち明けた。新プラントの立ち上げはノウハウ、知識が蓄積する。原子力エンジニアからは新設プラントの建設に関わることを熱望する声を実によく聞いた。世界一原発を造っている中国では、日々、ノウハウや知識が蓄積されているということだ。

 なお、「廃炉を新たな産業に」という声もあるが、福島第一原発で行われている廃炉は、事故処理のための特殊な廃炉であり、通常の廃炉とは大きく異なるためビジネスにはなりづらい。

 かつて世界で原子力産業のトップを走っていたアメリカは、1979年のスリーマイル島事故の後、競争力を失った。しかし、軍事部門がエンジニアを吸収し、原子力空母や原子力潜水艦などを建造することで、技術力を保った。それが日本ではできないため、原子力の行く末は非常に厳しいといえる。

 太陽光発電など再生可能エネルギーの技術は未成熟で、化石燃料依存には様々なリスクも伴うことから、まだまだ原子力が必要な技術であることは多くの識者が指摘する通りである。仮に脱原発を決め、廃炉を進めていくにしても、原子力技術は必要である。

迫りくる中国依存の日

 昨年、イギリスはヒンクリーポイントに新設する原発に、中国の資金と技術を導入することを決断した。イギリスでは「安全保障上の問題」として懸念する声があがっているが、国の根幹であるエネルギーの安定供給という重要ミッションを前に、背に腹はかえられない。

 東京大学の岡本孝司教授は「このままでは日本でも中国の原発を使う日がくるでしょう」と話す。コスト面で中国を上回ることは難しい。技術を衰退させていけば、日本でも中国の原子力技術に依存する日がこないとも限らない。むしろその兆候は見え始めているといっても過言ではないだろう。

 数十年後に「やはり原発が必要だ」と気付いたときにはもう手遅れ、という状況は避けるべきである。日本は、事故を起こしたから、原発を諦めるのではなく、事故から得られる知見をもって、より安全な原子炉を造っていくべきである。
(写真・井上智幸)


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