記事

コンテストを勝ち抜いた良質なレシピを本として出版する「Food52」

時折、親戚から食材がたっぷり入った段ボールが送られてくることがある。大変ありがたいのだが、その始末に案外苦労させられる。自分が普段食べ慣れないもの、どうやって調理するのか見当のつかないものもあったりするのだ。

そういうとき、多種多様なレシピを載せた料理サイトは重宝する。これらのサイトには大抵の食材の料理法が載っていて、何度か助けてもらったものだ。

料理法を扱ったサイトでは、レシピの掲載数が多いにこしたことはない。それだけ多くの人に役立つ情報となるからだ。「cookpad」はその代表格で、掲載数は180万以上を誇る。米国にも「Food.com」という料理サイトがあり、こちらの掲載数は50万以上となっている(cookpadすごい!)。

一方、より少ないレシピ数でありながら、独自のシステムを取り入れることで多くの利用者を惹き付けているサイトもある。それが今回ご紹介する米国の「Food52」だ。

レシピ数は3万以上とFood.comに大きく劣る。しかし2009年の立ち上げ以来、投資家からも注目と資金とを集め、独自の発展に成功しているのだ。

同サイトの成功の背景には、コミュニティを生かしたレシピ・コンテストという試みがあったようだ。今回はFood52がどのようにしてコミュニティやECサイトを形作ってきたかを見てみよう。

紙媒体では読者からの反応が伝わってこず、もどかしく思っていた

20141020_b.jpg
(引用元:Culinate「Amanda Hesser and Merrill Stubbs」)

Food52の創業者でCEOのAmanda Hesser(写真右、以下アマンダ)はニューヨーク・タイムズ・マガジンのライター兼編集者として働いていた。主に食に関するコラムや記事などを手掛け、彼女が同誌で執筆した記事は750を超える。

出版業界で着実にキャリアを積んでいたアマンダだったが、内心では別の分野でチャレンジしてみたい、という思いがあった。彼女には既に起業に関するアイディアがあり、それらを実際に行動に移せばどうなるかなど、日々考えをめぐらしていたのだ。

はじめはfacebookやtwitterなど、人々の日常を反映できるSNSサイトの設立を構想。しかし、この構想は少々大きすぎると考え、少しスケールダウンしてユーザーのtwitterのツイートをまとめることのできる「Plodt」というアプリを2008年に開発した。

しかし、Plodtではどうマネタイズを行うかに苦心させられ、結局このアプリを諦めて次なるビジネスへの転換をはかることになった。アマンダの新たなビジネスは、ニューヨーク・タイムズ・マガジンにおいて不満に感じていたことがきっかけに生まれたという。

彼女は会話や交流をすることが大好きだったが、紙媒体の雑誌では読者からの反応がダイレクトでなく、もどかしく感じていた。その点、SNSサイトなどは、ユーザーからの反応がすぐに直接返ってくるし、ユーザー同士の交流も図りやすい。

アマンダはそうしたSNSに見られるような、読者とともに形作っていくコミュニティと自分が携わってきた食に関する情報を掛け合わせたサービスを手掛けたいと考え、食に関するSNSサイト「Food52」を2009年に設立する。

まずはサイトのスタッフたちが地道にレシピを作成してサイト閲覧者を増やすことに専念。その後はサイト内でコンテストを開催し、ユーザーたちとのコミュニティ作りを行うようになった。

毎週のコンテストを勝ち抜いた良質なレシピを本として出版

food52に掲載されているレシピの総数は、3万点を超える程度で、他の大手料理サイトと比較すると、少々心細い数字だ。掲載数が多いとは言えないにも関わらず、同サイトが大きな注目を得ているのは、毎週ユーザーからレシピを募って優勝者を決めるコンテストを開催し、優秀なレシピをまとめて本にするという試みを行っているからだ。

優勝したレシピは、アマンダ氏らが編集する料理本への掲載が約束される。また、最終選考まで勝ち残ったレシピはサイトに掲載され、オリジナルの調理器具がプレゼントされるという。なおレシピを投稿していないユーザーも、ファイナリストに残ったレシピに投票することでコンテストや本作りに参加することができるというしくみだ。

それでは、コンテストの詳しい手順を見てみよう。同サイトのコンテストのページでは毎週月曜日に「鮭のレシピ」と「シーザーサラダ」など、レシピのお題が2つずつ発表される。

ユーザーはお題に従い、翌日の午後6時までに思い思いのレシピを投稿する。1回のコンテストごとに100以上の投稿があるそうだ。

レシピはアマンダ氏らによってふるいにかけられ、最終的に2組ずつ、計4組のファイナリストに絞られる。ファイナリストに残ったレシピに対して、ユーザーたちが投票を行い、その結果によって優勝者が決定する。

コンテストに見事勝利したレシピは、Harper Studio出版の料理の本に掲載される権利を得る。一冊の本にまとめられる分量のレシピを集めるのには1年、コンテストの回数で52回分必要だという。この52回のコンテストが、「food52」のサイト名の由来にもなっているのだそうだ。

20141020_e.jpg
(2011年に出版された第1回の料理本「The Food52 Cookbook: 140 Winning Recipes from Exceptional Home Cooks」)

毎週行われるコンテストは、数多くのユーザーを惹き付けるだけでなく、厳しい審査を通ったレシピがサイトに蓄積されることで、レシピ1点ごとの質をあげる効果も果たしている。

techcrunchの記事にて「総合的な料理サイトというより、編集者によって管理された投稿サイトという趣」と評されているように、同サイトは編集者が料理好きのユーザーたちのレシピを選考し、優秀なレシピを取り上げ、それがサイト作りや書籍に生かされるというやり方をとっている。これが功を奏し、プロの料理研究家、シェフ、料理の先生といった専門家のコストをかけることなく、良質なレシピと利用者を集めることができる。

一方利用者はレシピを通して他の料理好きのユーザーや著名な料理研究家であるアマンダ氏らとともにコミュニティをつくり、レシピ本づくりに参加することができる。またサイト上やアプリにて、料理に関する質問をすると、リアルタイムで他ユーザーからの回答が返ってくるQ&Aサービスも行っている。

2012年にはJames Beard賞も受賞。アマンダ氏らの持つ編集力とSNSとがうまく混ざり合ったコミュニティならではの成功と言えるだろう。

コミュニティをECに結びつける

同サイトでは2013年から、「Provisions by Food52」の名でキッチン用品や食材などの販売を行うようになった。こちらではAmazonなどで取り扱っていない、変わった果物やスパイス、調理器具など質にこだわった製品を取り揃えている。

料理をする人たちに合った製品販売を、という意図だったが、当初アマンダ氏らは、このような料理レシピや調理に関する知見を募りあうサイトで調理器具を販売する形は少なかったもあり、新しいショッピングの形として定着し、利用者数を伸ばしていくのは容易ではない、と考えていたようだ。

しかし、2014年9月時点には、オンラインショップの売上が総売上の3分の2を占めるようになった。これはサイトの登録者数35万人という数字が示すように、コンテストや本の出版といった魅力的なコンテンツなどにより、多くの利用者がサイトに定着していったためだろう。

100万人の「いいね」か? 100人の「熱狂」か?

FORTUNE」にてFOOD52の成功を取り上げたErin Griffith氏は、同サイトは食品関連のオンライン・コミュニティとしては規模が小さいが、他では見られないようなコンテンツとそれに魅了されたユーザーたちによって支えられているとした上で、記事をこのように結んでいる。

"人気のあるスタートアップの格言を借りれば、「100万人が『いいな』と思うものをつくるより、100人が夢中になれるものをつくった方が良い」ということでしょう"

この格言は、僕も仕事でよく使う言葉だ。マスメディア時代は、多くの人に「いいな」と思わせることが、売上にも直結していたが、これはもう昔の話だ。街は広告メッセージは溢れ、店にはずらりと商品がならぶ。ちょっと「いいな」とおもわれたくらいでは、消費者はあなたの商品を取ってくれないのだ。

ソーシャルメディア時代の今は、少ない人数でも熱狂させることが大事だ。熱狂はソーシャルメディアを伝わって知り合いづてに伝搬していくからだ。ソーシャルメディアが導火線となって、人の熱狂を伝えていくということだ。

時代は、マスメディアからソーシャルメディアへシフトしている。
それに合わせて、あなたのマーケティングの思考もシフトさせていかなければならない。

あわせて読みたい

「EC」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    橋下氏"小池都政は大成功だ"

    橋下徹

  2. 2

    報じられない「熊本地震」の現状

    田野幸伸

  3. 3

    創価学会本部のありえない行為

    週刊金曜日編集部

  4. 4

    "安定を求めて公務員"は正しいか

    シェアーズカフェ・オンライン

  5. 5

    "日本死ね"を言葉狩りする曽野氏

    小林よしのり

  6. 6

    椿鬼奴夫妻「お酒がかすがい」

    BLOGOS編集部PR企画

  7. 7

    TVの"つけっぱなし"をやめてみた

    幻冬舎plus

  8. 8

    mixi黒歴史晒しで休眠アカ一掃?

    アクトゼロ ブロガーズ

  9. 9

    "依存症"諸悪の根源はパチンコ

    木走正水(きばしりまさみず)

  10. 10

    依存症対策を批判?共産党の迷走

    木曽崇

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。