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カジノ議連、カジノ法案は誰に利用されているのか

カジノ運営の解禁を目指す超党派の「国際観光産業振興議員連盟」(通称カジノ議連)は、10日、幹部会合を開き、カジノを含む統合型リゾート(IR)の解禁に向けた第一歩となる「カジノ推進法案」について、一部で報道されたような「日本人除外」の規定は盛り込まないことを確認した。
(10/10 ロイター通信)

総勢135名もの国家議員を擁するIR議連が推進する「カジノ推進法案」が成立するのは時間の問題だとみられるが、この複雑な巨大利権の在り様を可能な限りわかりやすく書き出してみたい。

①虚像

IR議連がしばしば持ち出すカジノ収入の「年1.5兆円」は、アメリカ「シティ・グループ」が昨年8月に発表したレポート、東京・大阪・沖縄の3ヶ所にカジノができた場合の収入見積額年134億ドル~150億ドル、を根拠にしている。
ただし、同レポートに書かれる収入の内訳は外国人客からの収入は約33億ドルに過ぎず、残りの8割近くは国内の客からの収入とされている。

この見積はかなり甘い。

シティは日本では1260万人のパチンコ愛好者が平均で23万円負けていることを参考に、カジノに年690万人の日本人が訪れ、一人につき17万負けると試算しているが、各駅前にネオンをきらめかせるパチンコと全国数か所しかないカジノではアクセスと敷居の高さがまるで違う。

外国人客のおとす33億ドルも甘い。
これは日本のカジノで年830万人もの外国人が遊び、400ドルを負けてくれてやと達成できる数字だが、訪日外国人が1千万強の日本では半数以上の観光客がギャンブルに入り浸る計算になる。

(因みにゴールドマン・サックスの見積もりも年1.5兆円だが、投資銀行のCLSAなどは日本全国12ヶ所で4兆円と試算している。)
※1

IR議連はカジノ単体の収入の他、飲食や宿泊への波及効果を期待しているが、これも甘い。
(例えば、大阪商大アミューズメント産業研究所の試算では大阪府の税収が83億1千万円とされている。)

2010年に発表されたアメリカ・ニューハンプシャー州の「ゲーミング調査委員会報告書」によると、カジノ周辺地域から購買力が奪われ、既存産業の淘汰と税収減をもたらす「カニバリゼーション」の発生が認められるとし、カジノを開業すれば周辺地域から40%から60%の「消費の置き換え」が起きると推計している。
※2

さて、こういった甘い見積もりを逆転させる手段がないことはない。

ターゲットを富裕中国人に絞る方法だ。

現状、世界大手の米系カジノ企業「ラスベガス・サンズ」や「ウィン・リゾーツ」はラスベガスに本社を置くものの、収益の約85%はマカオとシンガポールから上げている。
米国内ではカジノライセンスの乱発、オンラインカジノの隆盛により、カジノ市場が縮小する一方、アジア、特に富裕中国人をターゲットにしているマカオは絶好調で、カジノ全35軒の昨年の収入は日本円で約4.5兆円に達する。(一方、ラスベガスは約40軒で6000億円に過ぎない。)

彼らは日本を第二のマカオ、「ラスト・フロンティア」と見立て、参入の機会をうかがっている。
そして、彼らの参入とともにプロジェクト・ファイナンスなどで投資銀行が絡んでくるのも間違いない。
その投資銀行の試算を「経済効果」の根拠にしているIR議連はこのあたりの思惑を承知しているのか、どうか。

富裕中国人をターゲットにする商法は、しかし、思いがけないリスクを伴う。

②リスク

マカオやシンガポールのカジノの驚異的な収益は、中国本土から押し寄せる大口顧客による。
大口顧客の定義は、例えばシンガポールのマリーナベイサンズではディポジット約8千万円、最低でもその2~3%を一晩で賭けること、としている。
こうした大口客からの収入がシンガポールのカジノでは半分以上、マカオでは7割に達するとみられる。※1

「世界のギャンブル市場で一人勝ちしているマカオは、その3分の2を大口客に頼っている」
(ブルームバーグ Vincy Chan 2013/6/10)

ここで、気を付けなければいけないのは、全ての大口客が毎晩200万円程度を負けるためにカジノに来ているわけではない、という点である。

一部の大口客の真の目的は、中国本土から海外へのマネーロンダリングだと言われる。

中国本土の大口客をカジノに引き込むためには「ジャンケット」という仲介専門業者を利用しなければならない。
「ジャンケット」は中国から富裕層を呼び込み、信用枠を与えて遊ばせる。
「ジャンケット」は大口客専門のVIPルームを取り仕切り、総ベット額の4割を手に入れる。
カジノ運営企業もここにはタッチできない。

米系のカジノ運営企業はマカオに参入当初、「ジャンケット」を排除しようとした。
だが、自前の営業では大口客は集まらず、負け分の回収もできないことから、結局「ジャンケット」を頼ることとなった。

「ジャンケット」のマネーロンダリングの手法はよく分かっていないが、チップと現金の交換をうまくごまかして、勝ち分を香港系の銀行に送金しているらしい。

日本のカジノが見込み通りに収益を上げるには、「ジャンケット」を頼って富裕中国人を引き込み、マネーロンダリングを黙認するか、国内の小金持ちにせっせと負けてもらう他に方法はない。

「ジャンケット」の導入は中国マフィアの侵入リスクを高めるし、国内客のギャンブラー化は依存症増加のリスクを高める。

カジノが実現された場合の現実的な可能性としては、韓国のケースが妥当するだろう。

韓国のカジノも中国各地に事務所を構え、中国富裕層の引き込みに力を入れたが、金融規制が緩く、中国語の通じるマカオやシンガポールには勝てずに、17軒のカジノは国内客向けの「江原」以外は閑古鳥が鳴いている。(昨年の収入は2450億円でその半分が「江原」。)

このように、日本のカジノが試算通りの収益を上げる可能性は決して高くはない。

③パチンコ・ホールの上場

IR議連がカジノ導入とともにもう一つ実現を目指している政策に「パチンコの換金合法化」がある。

優良企業であるパチンコ・ホールがこれまで日本で上場できなかったのは、パチンコの換金が合法ではなく、グレーゾーンとして扱われていたためだが、この「くびき」が外されれば、桁違いの上場益が見込める。

国内の3大ホールを支える三菱東京(マルハン)、みずほ(ダイナム)、三井住友(ガイア)、特に大手以外への融資も積極的で三菱東京の3倍以上、みずほの2倍の残高を有する三井住友には上場の利益が大きいとみられる。※3

安倍総理の幼少時の家庭教師役だった平沢勝栄氏は、その主導役で、警察庁の保安課長時代にパチンコ業界の最大利権であるプリペイドカード方式を導入するなど、業界との付き合いは長く、深い。

パチンコ・ホール「GION」などを経営する七洋物産は先代の吉本省治氏(韓国から帰化した在日社会の大物)の時代から安倍家の重要なスポンサーを務めている。
※4

米系カジノ運営会社に伍して日本のカジノへの参入を狙う(パチンコ台メーカーでもある)セガ・サミーの里見会長は、自民党が下野した当時から安倍晋三氏に接近しており、政権交代後も複数回は会合を持ったとされている。※4

さて、以上のように皮算用すればIR議連の活動により利益を得る人たち(カジノ企業、ジャンケット、マネロン中国人、投資銀行、銀行、パチンコ・ホール、政治家、天下り官僚)は多岐にわたる。

それに比べ、損をする人たちは一様だ。

カジノに足を踏み入れ、必ず負ける人たちである。

※1「亡国のカジノ解禁」出井康博(新潮45 9月号)
※2「成立に突き進むカジノ法案への疑問」鳥畑与一(ウェッジ 10月号)
※3(選択 2011年9月号)
※4(選択 2013年9月号)

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