記事

被災地の民間人活用、ギャップを乗り越えモデルケースとなれるか?

民間人の力を東北の復興に役立てようとする試みが進んでいます。日本財団と復興庁が実施している「WORK FOR 東北」では、企業や個人の人材を、被災地の行政や民間団体に派遣。2013年度から事業を開始し、これまで約50人の就労を実現しました。現地で産業振興、広報、まちづくり、コミュニティ支援などの事業に携わっています。

民間人の持っているさまざまなノウハウや“外部の目”などを活用できれば、「もとに戻す」という意味の復興ではなく、東北の新たな価値創造に繋がる活性化が期待できます。しかし、現実は当然そう簡単にはいきません。被災地の状況は日々変化しているし、人々の気持ちやモチベーションも被災当初とは別のものになってきているからです。

「WORK FOR 東北」では、就労した民間人の生の声を聞こうと、初めての集合研修会を9月26日に仙台市内で開催しました。赴任前のイメージと赴任後の状況にはどのようなギャップがあり、現地ではどのような課題が浮き彫りになっているでしょうか。

「行政はハンコで会話が進んでいく」 官民のギャップに苦しむ参加者

現地で顕在化している課題は、それぞれの地域の特性によって無数にあります。そのなかでも、すべての地域に共通する課題として言えるのは、「官と民のギャップ」です。

研修に出席した復興庁の統括官・岡本全勝氏は、「官と民における仕事の進め方の違いには驚く部分が多いと思う。行政はこれまで決められた仕事しかしていなかったため、新しい課題を見つけて解決するという経験はほとんどしていない。しかし、1000年に1度の危機がやってきて、これまでやったことがない仕事が降り掛かってきた。なにから手を付けていいのかわからない状態になっている」と現地の状況を表現します。

意思決定や連絡手段、ハンコをもらわなければいけない書類の数、ミーティングの方法に至るまで、民間と行政では仕事の進め方がまったく異なります。いわゆる“お役所仕事”的な対応が現地で目に付き、歯がゆい思いをしている参加者も多いようです。

なかには、「行政はハンコで会話が進んでいく文化。印鑑と印鑑の間になにがあったのか読み取らなければいけない高度なコミュニケーション能力が要求される」との声も。

ただ、これは被災地に限ったことではありません。霞ヶ関から過疎化が進む村に至るまで、ありとあらゆる地域で起こっている問題だと言えます。しかし、被災地がほかの地域と違うところは、解決しなければ行けない目下の課題が山積みな上、民間の力を借りなければ人手不足になってしまうということです。つまり状況が切迫している。

こうした状況を逆手にとることができれば、官と民が連携して課題解決を図るモデルケースを被災地でたくさん作ることができる可能性があります。そして、上手くいけばそのノウハウを日本中に適応することができる。今後、少子高齢化や過疎化が大きな問題になる日本にとって、被災地での先進的な取り組みは大いに役立つと先例となるでしょう。

参加者たちからは、
「私たちは行政の組織を変えることができない。しかし、私たち自身が変わることはできる。自分を変えて背中を見せていくことから始めることが必要だと感じている」
「『なんでこんなに書類が多いんだ』、『なぜ時間が掛かるんだ』ということを責めても仕方ない。どうしてそうなっているのかを理解し、改善案を提示するしかないと思う」
などの意見が聞かれました。

外部からの刺激で、内部(行政組織)を動かすというアプローチが大切になるのは言うまでもありませんが、内部のことを理解しなければ人を動かすことができません。

さらに、「改善したことや新たに作った事業などを、自分がいなくなった後の組織にどう残していくか。限られた派遣期間の中で、どう定着させていくかが課題になる」との声も。モチベーションの高い若手現地職員を巻き込み、共に新しい仕組みを作っていく、そして若手の中に“民間イズム”を植え付けていくという意識が必要になりそうです。

“復興モチベーション”のその後で

筆者がもう一つ気になった課題は、「コミュニケーションギャップ」とも言うべきものです。被災者同士、被災者と行政、行政の復興関連セクションとそれ以外のセクション、被災地の人と外部の人など、さまざまな人たちのコミュニケーションが円滑化してこそ、きめ細やかなニーズに対応した復興や、新しい価値創造が可能になります。

しかし研修会を傍聴してわかったのが、現地ではそれらのコミュニケーションが上手くいっていない場合があるということです。その背景について、「WORK FOR 東北」の事務局で事業を統括している日本財団の青柳光昌氏は、以下のように説明します。

「外から応援で入っている『WORK FOR 東北』の民間人たちは、モチベーションが高い状態で派遣されます。被災直後ならば“災害ユートピア”という言葉がある通り、誰もが同じ方向を向いて復興に邁進できました。しかし、3年以上も経つとそれぞれの置かれている状況にも差が出てきますし、日常が生活を覆う時間が長くなってきます。“復興モチベーション”だけで一致団結できる段階は、もう過ぎ去っています」

「官と民のギャップ」も、被災直後の超法規的な状態が一段落して、縦割りの行政体質が戻ってきた結果だと言えるでしょう。しかし、だからといって『WORK FOR 東北』で派遣された民間人たちにできることがないかといったら、そうではありません。

研修の参加者たちからは、
「我々は復興するために派遣された“触媒”。外からの人材である故に、内部の人同士や、内部と外部を結ぶ触媒的な役割を求められる」
「外から入ってきた鈍感力を生かすことができるのは、我々の強み。プライベートを含めた関係強化を図りながら、復興推進関係のセクションと、それ以外のセクションを巻き込んだ仕事をしていかなければいけない」
などの意見が聞かれました。

“復興モチベーション”だけで目の前の危機的な状況を乗り越える時期はすでに終わりました。しかし、だからこそ内部のしがらみや利害関係に絡めとられない、外部から来た“触媒”たちが果たせる役目は、今後も一層に強まっていくように思います。

復興から得られる知見を最大化しなければならない

そのほか、参加者からは、以下のような“ギャップ”が報告されていました。
「福島に与えられたマイナスのイメージを払拭する仕事がメインになるのかと思ったが、実際にはPRをしなくても、どんどん人が来てくれる。ただし、それを数年後に向けてブラッシュアップし、地域の産業に育てていくように試行錯誤をしていく余裕がない。来ていただける人をさばくだけで、その次につながる仕事ができないでいる」
「観光に来てもらっても、地元には作業員が長期滞在しているので、宿泊先がない」
「建設が専門だが、実際には仮設住宅の入退居に関係して被災者と接することが多い。(被災地の細やかなニーズに対応するため)専門外の仕事をする機会が増えている」
「自分たちが働けば働くほど、プロパー(現地職員)の仕事が減ってしまっている」
これらのギャップは現地に直接赴任したからこそ見えてきた実態だと言えそうです。「思ったより閉鎖的ではなく、オープンだった」「エネルギーがある若い人が現地にもたくさんいる」など、プラス面でのギャップを報告する参加者もたくさんいました。

今回の研修には、「被災地でさまざまな課題に直面している参加者たちを一堂に集めて、横のつながりを構築してもらいたい」(前出の青柳氏)という目的もありました。一人ひとりの力では変わらなくても、現地で得た知見やノウハウを共有し合い、小さな火を灯していく。そして、それを横につないでいけば大きな変化のうねりとなる可能性があるのです。

“1000年に1度”を経験しているのは、官のみならず民、ひいては社会全体も同じこと。大きな犠牲者を出した震災を経て、復興という大事業に取りかかっている今、そこから得られる知見を最大化することは、我々に課せられた使命だとも言えます。

(取材協力:日本財団)

■関連記事
復興、そして未来へとつなぐために、「WORK FOR 東北」が行うプロフェッショナルな人材を派遣する持続可能な人材マッチング - 江口晋太郎
国と民間の距離を縮める「WORK FOR 東北」で、“ソフト”の充実した復興を目指す - 鳥井弘文
あの日から3年半、東京と被災地をマッチングする“覚悟が必要な自分探し”実践編「WORK FOR 東北」 - 安藤光展

あわせて読みたい

「ブロガーが見たソーシャルイノベーションのいま」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    沙也加結婚 聖子はライバル視?

    渡邉裕二

  2. 2

    米国の「正恩斬首」作戦は不可能

    PRESIDENT Online

  3. 3

    大企業特有の考えずに働く人たち

    城繁幸

  4. 4

    鳩山氏が民進OB会から入会拒否

    文春オンライン

  5. 5

    武藤貴也議員 また男性持ち帰る

    文春オンライン

  6. 6

    民進の現状は共産党の責任でない

    紙屋高雪

  7. 7

    無意味に足掻く籠池氏と民進党

    和田政宗

  8. 8

    ミスしたときはひたすら謝るべき

    かさこ

  9. 9

    メールがSNSより優れている理由

    フォーブス ジャパン

  10. 10

    結婚69年 夫婦は手を繋ぎ天国へ

    BBCニュース

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。