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12月に施行される“特定秘密保護法” 政府と国会の準備は万全なのか? - 南部義典

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。
憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」
そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、
「憲法」の観点から検証していきます。

法施行を控えた、最後の国会会期

 9月29日、臨時国会が召集されました。会期は11月30日まで、わずか2か月間です。12月上旬には特定秘密保護法が施行される予定で、法が施行される前の最後の国会ということになります。

 安倍首相の所信表明演説では、施行を控えた特定秘密保護法についてまったく言及がありませんでした。政治全体がいま、このテーマに関心が及んでいない状況です。昨年、法案を審査していた衆議院と参議院の特別委員会は廃止されています。法制度の行く末はどうなるのでしょうか。政府と国会の施行準備は万全なのか、改めて検証すべきタイミングです。

法律の肉付けと内部・外部のチェックの仕組みづくり

 昨年12月、特定秘密保護法が成立し、公布されました。しかし、制定された法律は“骨組み”にとどまり、この状態で施行しても実際に運用することはできません。特定秘密の指定と解除の手続き、特定秘密に講ぜられる措置の内容(取扱い方)、特定秘密を取扱う担当者に課される適正評価の実施内容など、肝心要の細則にあたる部分は、この法律とは別の、「政令」という内閣が定めるルール(命令)に委ねることになっています。特定秘密保護法が施行される日も、政令で定められます。既存の「防衛秘密」という制度を特定秘密保護法の下に一元化すること(移行措置)も、政令が定める手続きによります。特定秘密の指定(解除)は、該当する行政機関の長が行うことになりますが、その運用が行政機関ごとにバラバラにならないよう、政府部内で統一的な基準をつくることも、特定秘密保護法は具体的に定めておらず、検討課題として残されています。
 このように政府は、特定秘密保護法が施行されるまでの間(ことし12月12日までに施行日は到来する)、これらの政令や統一基準を、いわば法律の肉付けとして定める必要があるのです。

 また、特定秘密保護行政に対するチェックのあり方も、昨年の法案審議で問題となりました。例えば、特定秘密の要件を満たさないのにかかわらず違法に指定したり、無関係な情報を付随させて指定したり、公文書館に移管するなど正規の手続きを経ることなく恣意的に廃棄したりなど、国民の知る権利を侵害する違法・不当な運用をどのように防止するか、これらを可及的に防止する策をあらかじめ企てておくことが立法の要諦です。

 この点は、政府内部で違法・不当な運用を監察する仕組みを講ずることのほか、国会(国民代表機関として、国政調査権等の行使を通じて政府を監視する)による外部チェックの仕組みを万全にする必要があり、これらのルールづくりも、法施行までの宿題となっています。同様に、内部通報により、特定秘密の指定(解除)に関する非違不正が明らかになり、是正されていくというプロセスも重要で、内部通報者の保護等、必要な措置を講ずることも不可欠です。何重にも、実効性あるチェックシステムを講ずるというのがこの法律の立場です。

 法律の肉付け、特定秘密の運用に対する内部・外部のチェックシステムに関するルールづくりが、この10か月間、政府と国会でどのように行われてきたのか、(表)をご覧下さい。※クリックで拡大します

 (表)左側は、政府の動き(法律の肉付け+内部チェックの仕組みづくり)です。

 (会議体の名称はすべて無視していただくとして、)政府ではこの7月まで、細則の内容を詰める作業が行われてきました。正式には、①特定秘密の保護に関する法律施行令(政令)(案)、②特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準(仮称)(案)、③内閣府本府組織令の一部を改正する政令(案)の三つを策定したところです。①の政令案は、まさに法律の肉付けに関する部分、②の統一基準案は読んで字のごとくです。③の政令案は、政府内部で独立して、特定秘密を指定する行政機関をチェックする「独立公文書管理監」を内閣府に置くための、既存の「内閣府本府組織令」という政令を一部改正するものです。

 ことしの夏、これら三点セットに関しパブリックコメントが実施されました(7/24~8/24)。新聞報道等を通じ、三点セットの概略はご存知の方も多いと思います。パブリックコメントはやりっぱなしではなく、改善の方向で意見の一部を反映させた上で(例えば、適性評価の対象から宗教、市民活動を除外すること、「内閣府独立公文書管理監は、各行政機関に是正を求めたときは、その内容を内閣保全監視委員会へ通知するものとする。」との規定を新設することなど)、省庁間調整をさらに行い、10月上旬に正式決定する運びです。いまはちょうど、最終調整段階にあるといえます。

 しかし、三点セットの整備を以て、法制上、懸念される問題点がすべてクリアになったわけではありません。今回、詳細な規定が一応揃ったものの、パブリックコメントでも、政令(案)、統一基準(案)の規定上の文言の不明確さを指摘する意見が多く寄せられています。また、法律本体の話をぶり返すようですが、特定秘密漏洩罪の構成要件、共謀・煽動の意義等、基本的には行政・司法の運用に任せられるものでも、国民の知る権利、取材の自由等を保障する観点から、刑罰法規をより厳格(明確)なものに改めていく、立法技術的な手直しをする必要性は残っています。さらに、適性評価には個人のプライバシーが関わることから、政令ないし運用に全面的に任せておくのは妥当ではありません。

 これらの問題については、臨時国会でも委員会質疑や質問主意書の提出を通じて議論が深化するとは思いますが、政府解釈を質し確認するだけでは、立法府の役割としては十分ではありません。より効果的な策としては、政令で定める事項を国会の権限で法律事項に格上げし(特定秘密保護法を改正して、条文に細かく書き込む)、法令解釈を縛り、政府に対して法律の厳格な運用を命じることが考えられます。三点セットの整備で幕引きとするのではなく、特定秘密保護法制全般に関して引き続き、たとえ「あら探し」と思われるようなことでも、粘り強く行っていく必要があります。国会こそ、国民の代表機関としてこのような責任を負っている(国民の負託を受けている)のです。

 開かれた政府を徹底するためには、本来、情報公開、公文書管理の機能強化を図るべきだったところ、結果として、特定秘密保護法制の整備を追いかけるような形で両者の議論が進められており、議論の順番が交錯してしまっているわけです。立法過程を振り返れば反省点が尽きません。国会には法制度を再度作り直すくらいの気合と覚悟が必要です。

 (表)右側は、国会の動き(外部チェックの仕組みづくり)です。

 国会は立法機関である以上に、政府(行政)を監視することが重要な権限であり、責務です。特定秘密保護法が制定されようとなかろうと、国会(各議院)は憲法上、政府に対する国政調査権を有し、国会議員も個々の立場で事実上の国政調査権を行使できるのが実態です。

 国会が国政調査権という外部チェック機能を果たすのは、政府自身が行う内部チェックとの関係で、相対的に、意味合いが低くなるわけではありません。例えば、内閣府に独立公文書管理監が置かれる予定で、各行政機関から「独立」して権限を行使することが強調されて説明されますが、「独立」といっても実際には「別組織」くらいの意味しかありません。内閣総理大臣は憲法上、行政各部を指揮監督する権限を有していますが、政府部内において第三者的地位でチェックを全うできるわけではありません。政府内部のチェックだけに期待を寄せるのは、自動車を停止させるのにサイドブレーキとエンジンブレーキさえあればいいという発想と変わりません。外部系統から働く、本物のブレーキが必要なのです。

 特定秘密保護法が施行されたとしても、すべての特定秘密が国会(各議院)の国政調査の対象になることに変わりはありません。しかし、政府側が資料提出要求に素直に応じた結果、国会ルートで特定秘密が外部に漏洩するような事態が生じては、そもそもの立法趣旨を損ねます。こうした事態が容易に起こりうることを考えると、政府はとくに、野党からの提出要求を警戒するでしょう。

 ここに、「ほこ×たて」のように、「情報を出せ」という国会と、「出したくない」とする政府との間で緊張関係が生まれます。両者の調整を図るために、政府から特定秘密の提供・開示を受けるための法律的、物理的な条件(必要な保護措置)を国会の側において整備しなければなりません。

 前回の通常国会の会期末が押し迫ったところで(6月下旬)、衆参両院に「情報監視審査会」という新たな機関を設ける法整備が行われました。世間的には当時、集団的自衛権行使の限定容認に関わる憲法解釈の変更問題がクローズアップされており、関心が広がったとは決していえませんが、特定秘密が国会ルートで漏洩することがないようにする前記の保護措置や、機関の名称等が定められました。構造面から「シールドルーム」と呼ばれ、音が室外に漏れず、電波・通信が遮断される特殊な構造を持つ委員会室として設けられることになります。当然、院内の一室をリフォームする必要が生じます。衆議院、参議院の来年度予算の概算要求には、このための予算が計上されています。

 情報監視審査会は、特定秘密保護法の施行と同時に設置されますが、これは法律上の建前の話です。実際にはリフォームが終わり、担当する国会職員の適性評価を踏まえ、事務局体制が整い、審査会委員の選任が終わったところで運用が始まります。

 言うまでもなく、情報監視審査会の運用が後手に回ると、情報監視という看板が泣き、ただのお飾りになってしまいます。どれほどの議員が、情報監視審査会の意義・目的を理解しているのでしょうか。

政府と国会の施行準備は万全か?

 ここまで、(表)をご覧いただきながら、特定秘密保護法の施行準備に向けた、政府・国会の検討状況を概説してきました。情報を総合するに、特定秘密保護法の運用の適正を確保するため、次(図)のような仕組みが講ぜられようとしています。

 特定秘密をめぐる政府と国会の関係が、およそご理解いただけると思います。また、懸案となっていた内部通報の窓口は、内閣府独立公文書管理監と、19の行政機関にそれぞれ設けられることになります。(図)のスキームは理想に終わらせるわけにはいきません。さらに主権者・国民が一人ひとりの立場で、特定秘密保護法制に今後どのように対峙していけばいいのか、例えば特定秘密の指定解除に係る実体法上の請求権を認めるべきかどうかという点も含めて、制度のヴァージョンアップとしての議論が深まることに望みを繋げます。

 政府と国会の施行準備は万全か? という問いに対する、私の問題意識を縷々述べてきました。政治・行政は国民のものであり、情報は共有財産です。この、国民主権、民主主義の原理原則を守りぬく本気度が問われます。 

(参考URL) 内閣官房・特定秘密保護法関連

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