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雇用拡大に繋がらない米国の経済拡大

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米国の「非農業雇用者総数(毎年8月:百万人)」と「2009年価格による実質国内総生産(年次:百億ドル)」の過去50年間の推移をグラフに重ねてみました。そして、非農業雇用者数の長期的な増加傾向を見るために、1963年から毎年2.30%拡大する定率拡大線と、2000年から毎年0.5%拡大する定率拡大線を加えました。また、雇用が減少もしくは拡大しなかった期間(雇用不況期)を灰色で示しています。

1963年から1990年頃までは、非農業雇用者数は2.30%定率拡大線の上側で推移(より大きく拡大)し、実質GDPと概ねパラレルに拡大を続けました。その27年の間に、非農業雇用者数は57百万人から110百万人に拡大し、概ね2倍になりました。

1991年から2000年頃までは、非農業雇用者数は2.30%定率拡大線とほとんど重なるように推移し、実質GDPの拡大よりも緩やかに拡大しました。この10年の間に、非農業雇用者数は110百万人から132百万人に20%拡大しました。

ところが、2001年から2014年まで、非農業雇用者数は2.30%定率拡大線から大きくかい離し、0.5%定率拡大線よりも更に下側で推移しています。2001年以降2014年までの14年間に2回の大きな雇用不況期(雇用減少期)があり、実質GDPの拡大停滞以上に非農業雇用者数には大きな減少が生じました。その結果、非農業雇用者数は過去14年間通算ではほとんど拡大しておらず、2014年8月はようやく2007年8月の水準を上回ったばかりという水準に見えます。

米国は、人口が増加しているので、少なくともその分だけは消費が拡大します。しかし、非農業雇用者数が増えないと、潜在失業が増えます。社会保障番号を持たない不法滞在者はこの統計に乗ってこないと思われますが、2001年以降に、不法滞在者の実質就業数が著しく大きく増えたかどうかは分かりません。

とにかく、統計上、米国の非農業雇用者数は、不況時に過去よりも大きく減少するようになったので、好況時に回復してもなかなか過去の水準には戻らない、という循環に入ったかのように見えます。
そこで、次に、2000年8月と2014年8月(速報)の14年間の産業別雇用者数の増減を詳しく見ていくことにします。

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上のグラフは、米国労働統計の産業分類の中分類産業別雇用者数の変化量(2000年8月と2014年8月速報の増減=14年間の変化量)を雇用増加数の多い産業から順番に並べたものです。上から、ヘルスケア宿泊飲食専門技術サービス民間社会扶助民間教育サービス地方政府の、6つの産業が雇用増加の上位を占めています。また、下から、製造業情報産業建設業3つの産業が雇用減少の太宗を占めています。この14年間に非農業雇用者総数は6,881千人増加していますから、ヘルスケア産業の増加3,896千人だけで全体増加の過半(57%)を占めていることになります。

しかし、この大区分ではあまり実態が把握しきれないので、より細かい産業分類に更にブレークダウンして見ていくことにします。

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雇用増加数の多い6つの中産業分類では、この14年間の全雇用者増加数6,881千人の倍近い11,305千人(25%)の雇用増加がありました。上のグラフは、この6つの中産業分類について米国産業分類の最小分類までブレークダウンして詳細を見ています。中分類毎に雇用者数の多い産業から順に並べ、2000年8月の雇用者数に14年間の雇用者増加数を加えてあります。これによって雇用規模と14年間の増加率が把握できます。

ヘルスケアサービス産業は、雇用増加数の多い順に並べると、病院(852千人・22%増)在宅ケアサービス(656千人・103%増)他の外来医療サービス(723千人・49%増)診療所(661千人・36%増)入居ケア施設(531千人・49%増)外来患者看護センター(335千人・86%増)看護施設(138千人・9%増)となっています。総じて雇用増加率が高く、経済の好不調に関わりなく直線的に雇用拡大を続けています。米国でも高齢者人口増によってさまざまな形態のヘルスケアサービスが増加していること、とりわけ通院・在宅系サービスの増加率が高いことが注目されます。

宿泊・飲食サービス産業は、非常に大きな規模の雇用産業になっています。飲食サービス(2,477千人・30%増)は、11百万人を雇用する大産業になっていて、これが非農業雇用者数全体の増加を支えていることは明らかです。

専門・技術サービス産業は、雇用者数は小さいですが、雇用拡大率が大きい産業です。コンサルティング(558千人・82%増)システム設計(495千人・39%増)などは、企業や役所が外部の専門家に仕事を委ねる傾向が進んでいることを反映していると推定されます。これが、こうした専門性を身につけるための教育ビジネスの拡大にもつながっていると考えられます。

Social assistance は、民間サービス業に分類されているので公的社会扶助ではありませんが、具体的にどんなサービスビジネスが含まれるのかはよく分かりません。児童デイケアサービス以外の Social assistance (1,208千人・93%増)は、この14年間に雇用が倍増しており、全体雇用増加に占める割合も大きくなっています。過去にはあまり大きくなかった社会貢献的仕事の雇用が急激に増えてきていることには興味を惹かれます。

民間教育サービス(981千人・41%増)は、増加数・増加率とも非常に大きくなっています。これは、米国で職を得るには専門性を身につける必要がますます高まっていて、そのための教育機会とそのための教育産業雇用者数の拡大が大きくなってきたものと考えられます。

地方政府は、雇用拡大率は小さいものの、雇用増加数では重要な位置を占めます。地方政府教育(504千人・7%増)教育以外の地方政府(445千人・8%増)の雇用増加は、14年間の人口増加に対応したモデレートなものと理解されます。

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雇用減少数の多い3つの中産業分類では、この間の全雇用者増加数6,881千人にほぼ匹敵する6,712千人(25%減)の雇用減少がありました。上のグラフは、この3つの中産業分類について米国産業分類の最小分類までブレークダウンして詳細を見ています。中分類毎に雇用者数の多い産業から順に並べ、2014年8月の雇用者数と14年間の雇用者減少数をマイナス側に表示してあります。これによって14年前の雇用規模とこの間の減少率をおおよそ把握できます。

製造業の中には、雇用増加のあった産業は一つもありません。食品製造業だけがほぼ雇用を維持してきており、製造業で最大の雇用を有する産業となっています。減少率の高い方から、アパレル(73%減)繊維(69%減)通信機器(60%減)繊維製品(51%減)半導体(47%減)家具(46%減)印刷(46%減)電算機及び周辺機器(44%減)自動車および部品(33%減)などは、雇用が半減から消滅に近づいているように見えます。不況期の雇用減少のほとんどは製造業におけるものです。

情報産業では、電気通信(36%減)インターネット以外の出版(30%減)の雇用減少が大きくなっています。当然、これらはインターネットや電子出版の影響を受けています。

建設業では、住宅建設(18%減)が最も大きく減少していますが、雇用減少率は製造業よりはずっと小さくなっています。これは建設需要は景気の影響は受けるものの長期的に縮小していく分野ではないからです。

さて、以上、細かい産業分類にまでブレークダウンして米国の雇用の動向を見てきました。その上で再び全体像に戻ると、米国の産業全体では、付加価値額(GDP)を拡大しているのに雇用の拡大には結びついてきていない、ということがあらためて浮き彫りになります。医療介護サービスや飲食サービス以外に、雇用拡大を牽引する雇用成長産業は生れないのでしょうか?

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