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特集:第2次安倍改造内閣を考える

この2年近く、本誌が国内政治ネタを取り上げる機会が少なくなるくらい、政治の安定が続いてきました。なにしろ2012年末に発足した政権が、ようやく今週になって初めての内閣改造を行っているのですから。

それだけに今回の「リシャッフル」は、今後の政治動向を占う上で重要な判断材料を提供してくれそうです。たぶんこの改造を機に、「安保モード」だった安倍内閣は再び「経済モード」に立ち返るのではないでしょうか。それは非常に合理的な思考に基づいていて、つくづく安倍首相の本質は”Pragmatic Risk taker”であるように思われます。

この秋に安倍内閣が取り組む課題が何かを考えてみました。

●大臣は重く、改造は控えめに

歴代内閣の呼び方には、分かりやすい数え方がある。首相が国会で首班指名を受けた回数によって、「第×次○○内閣」と呼ばれるのである。 ゆえに2012年12月26日に発足した現在の安倍内閣は、「第2次安倍内閣」である。第1次安倍内閣は、2006年9月26日から2007年9月26日まで存続した。そして今週9月3日に改造された後の内閣は、国会での首班指名とは関係がないので「第2次安倍改造内閣」と呼ばれる。今後、衆議院解散が行われて与党が勝利した場合には、「第3次安倍内閣」が発足するという理屈である。

改造以前の第2次安倍内閣は、617日にわたる期間中、1人の大臣も変わらなかったという点で戦後の最長記録を打ち立てた。それ以前の「6年間に首相が6人」という混乱の時代を思えば、信じられないほどの安定内閣ぶりである。

去るもの日々に疎しの感もあるが、2006年から2012年までの日本政治においては、大臣がコロコロと変わることがめずらしくなかった。なにしろ大臣が辞める理由は、スキャンダル、不適切な国会答弁、メディア向けの失言、閣内不一致、そして事故、病気に至るまでいくらでも考えられる。特に与党が脆弱で野党が強い時には、実に些細な理由で大臣の首が飛んでしまうものである。 その先鞭をつけたのは、ほかならぬ第1次安倍内閣であった。ほんの1年足らずの間に、実に4人もの大臣が次々に入れ替わったのだ1

<犠牲者> <理由> <後任>
*佐田 玄一郎(行革担当相)×事務所経費問題 →渡辺 喜美
*松岡 利勝(農水相) ×自殺 →赤城 徳彦
*久間 章生(防衛相) ×「原爆しょうがない」発言 →小池 百合子
*赤城 徳彦(農水相) ×事務所経費問題&バンソーコー →若林 正俊

こうしてみると、第1次と第2次の安倍内閣はまるで別物のようである。安倍首相が失敗から学習したのか、自民党が下野時代の反省を生かしたのか。それとも当時と今では、野党の勢いがまるで違うし、メディアも大人しくなっているからなのか。あるいは閣僚も「慣れ」が大切であって、長く続けることによって安定感を増すのかもしれない。

これだけうまく行っている内閣を変えるのは、おそらく首相としても気が進まなかったものと拝察する。「どう変えても、前より良くなることは考えにくい」からである。それでも日本政治の基準として、「600日以上」は一内閣の期間として長過ぎる。さすがにこれ以上は引っ張れない、というのが正直なところだったのではないだろうか。

従来の常識に沿って考えると、自民党には「入閣適齢期の議員が衆参で60人もいる」と言われていた。ところが入閣できるのは、最高でも18人までである。どう考えても、喜ぶ人よりも悔しがる人の方が多くなる。ゆえに「首相の権力は解散とともに強まり、改造とともに弱まる」(佐藤栄作)などと言われる。例えば野田佳彦内閣は、1年4か月の任期中に3回も改造を行っている。党内融和のためにやむなく人事を連発したわけだが、後から考えてみるとけっして成功とはいえなかったようである。

他方、過去においてもそうだったように、内閣改造にはある程度、支持率を上昇させる効果がある。すでに9月5日朝時点で、読売新聞+13p(51%→64%)、日経新聞+11p(49%→60%)、共同通信+5.1p(49.8%→54.9%)、毎日新聞±ゼロ(47%→47%)という調査結果が出ている。これらは「久々の改造」のご利益と受け止めるべきであって、頻繁な改造はけっして褒められた話ではないと思うのである。

1 ちなみに「女は産む機械」発言で批判された柳澤厚労相は、なんとか逃げ切っている。また、参院選で大敗した後の安倍首相は8月27日に内閣改造を行い、「第1次安倍改造内閣」が30日間だけ続くのであるが、この間にも遠藤武彦農水相が政治資金問題で辞任し、若林正俊農水相が再登板している。

●内閣支持率低下でも政党は変わらず

あらためて、過去1年8カ月の安倍内閣を振り返ってみよう。

以下に通信社2社の世論調査結果の推移を掲げてみる。電話方式でも面接方式でも、有意な違いは認められない。たぶん時事通信も、9月調査分(12~15日に実施予定)では支持率がやや上昇することになるだろう。

○内閣支持率の推移
8月時点の支持率は、共同通信が49.8%、時事通信が43.5%である。全体のトレンドはなだらかな「右肩下がり」で、今風の言い方をすると、”Tapering”(先細り)といったところか。ただしその中でも、昨年9月のIOC総会で東京五輪招致が決まった直後は上昇している。逆に昨年12月の特定秘密保護法成立、今年7月の集団的自衛権の解釈変更では下落している。安全保障政策は、あまり国民の受けがよろしくないようである。 他方、8月時点において不支持率も4割台に上昇している点に注意が必要である。経験的に言って、一度上がった不支持率はなかなか下がりにくいので、安倍首相としては今後「支持率が不支持率と逆転しないようにする」ことが課題となるだろう。

その一方、自民党への支持は驚くほど安定している。あまりにも野党が尐数かつバラバラなので、安倍不支持層の担い手になれていない。特に野党第一党で、3年3か月にわたる政権体験を持つ民主党に対し、ほとんど追い風が吹いていないのは問題であろう。

上記のデータは、安倍首相が心配すべきは党内であって、野党ではないことを示唆している。言い換えれば、安倍氏は来年9月の自民党総裁選で再選されることをまず念頭に置くべきで、国政選挙のことはしばらく考えなくて良い。今回の内閣改造が、選挙向けというよりも党内融和を重視するものであったことは、自然な選択であったと言えるだろう。

●安倍首相の2つの顔~「経済」と「安保」

この1年8か月を振り返ってみると、「安倍氏には2つの顔がある」ように思える。ひとつは経済モードの安倍氏であり、その本質は改革者である。もうひとつは安全保障モードの安倍氏であり、その本質は保守政治家である。両者が代わる代わる顔を覗かせる。 コアな安倍支持層は、後者により強く期待をしている。しかし全体としてみると、前者に期待する人の方が多い。はっきり言ってしまうと、安倍氏が本気で考えているのは安全保障の方であって、経済への関心はそれほど高くないと見なされている。

例えば、安倍首相は女性の社会進出を強く打ち出している。あれは意外と本気なのではないかと筆者は受け止めているのだが、真に受けている人はあまり居ない様子である。だから女性の安倍支持者は必ずしも多くない。

政権発足から2013年夏まで、安倍氏はもっぱら経済の人であり、改革者モードであった。そしてこの間は内閣支持率も高かった。日銀総裁に黒田東彦氏を起用したのは冒険であったし、TPP交渉への参加を決めたのも大胆であった。さらに東京五輪の招致活動に惜しみなく政治資源を投入したが、もしもIOC総会で負けていたら目も当てられないところだった。安倍氏は、意外なくらいに「リスクテイカー」なのである。

そして2013年秋以降、安倍氏は安保モードに転じる。日本版NSCの創設、特定秘密保護法などの安保関連の法整備に着手し、年末には靖国神社に参拝した。当然のことながら、中国と韓国は態度を硬化させた。内閣支持率もいったん低下する。そして今年7月には、長年の懸案であった集団的自衛権の解釈変更を閣議決定している。

ところが安倍首相は、安全保障法制の改変手続きをあっさりと来年春以降へ先送りしてしまった。おそらく公明党との関係を重視してのことなのだろうが、このあたりは驚くほど「プラグマチスト」である。もとよりタカ派的な保守政治家なのだが、ときおり柔軟なところを見せるのである。

さて、その安倍首相はこの夏、『文芸春秋』9月号に「アベノミクス第2章起動宣言」という手記を寄稿している。地方経済の活性化を目指すとか、人口1億人をキープするといった目標が掲げられているくらいで、中身的にはさほど真新しいことは含まれていない。だが、「経済成長こそ私の政権の最重要課題です」と宣言している点は重要であろう。つまり再び「経済モード」に戻ると言っているのだ。

考えてみれば、集団的自衛権の解釈変更によって、安倍首相は安全保障上の所期の課題を終えてしまっている。「安全保障モード」はしばらく十分というわけだ。

このことは、安倍政権がこれから対中関係の改善に向かうことも示唆している。安全保障モードの際には、中国による海洋進出や防空識別圏設定など一連の強硬姿勢は非常に好都合であった。だが今の安倍首相は、これ以上中国を刺激する必然性は乏しい。たぶん中国側にも、似たような事情が隠れているのではないだろうか。

●改造内閣は経済モードへと回帰する

最初から「経済モードへの再転換」という目的があったと考えると、今回の改造内閣は実に理にかなっている。

* 「3A+S」 はそのまま
――安倍内閣の骨格とも言うべき「麻生財務相、菅官房長官、甘利経済再生相」のトリオを留任させた。消費増税、TPP、成長戦略など「現在進行形」の経済政策が多いことを考えると、「動かせないし、動かしたくない」のであろう。思えば「3A+S」は、2012年の総裁選で逆転勝利を収めたとき以来の「同志的連帯」で結ばれている。

* 谷垣元総裁の幹事長起用
――今回の人事の目玉商品で、党内安定に絶大な効果あり。また自民党内の序列は、高村副総裁、谷垣幹事長、二階総務会長と「親中派」がずらりと並ぶことになった。

――年末の消費増税最終決断については、「予定通り実施」「対策の追加」「延期」「取りやめ」まで様々な選択肢があり得る。あらかじめ「最強の増税派」を党の中心に配しておくことは、安倍内閣がどういう結果を選択するにせよ、党内の意見が割れることを回避する効果がありそうだ。

* 塩崎厚生労働大臣
――「GPIF改革が進む」という思惑から、人事観測だけで株価が上昇した。しかし本誌でも以前に指摘した通り2、「株価だけ上げても仕方がない」。むしろ労働法制の改革や社会保障費の削減を進め、日本企業の生産性を地道に上げていく必要がある。

――安倍内閣が経済モードに戻るためには、厚生労働分野が最大の主戦場となろう。党内でも数尐ない「改革派」として塩崎大臣の腕の見せ所である。

* 小渕経済産業相
――単に女性閣僚を増やすだけでなく、財務、外務と並ぶ重要閣僚に配することの象徴的な意義は大きい。懸案の原発再稼働にもっとも反対しているのは、小渕氏のような子供を持つ女性たち。「日本初の女性首相候補」としては文字通りの試金石となる。

* 石破地方創生担当相
――「人事でゴネて“地方”に飛ばされた」などと揶揄される石破氏だが、来春には統一地方選挙を控え、地方経済の底上げは政権としての最重要課題。火中の栗とも言えるポストだが、地方に顔の利く大物議員でないと務まらない。特に国家戦略特区を進める観点からは、総務省、国交省、農水省、厚労省などの関係官庁に対して「モノが言える」強い大臣であることが必須条件だ。

2 7月11日号「第2次成長戦略の品定め」

●秋の政治課題を3点読み

さて、新内閣が迎えるこの秋の政治課題は何か。主要日程を並べると以下のようになる。外交日程が多く、北朝鮮の拉致問題、プーチン訪日といったワイルドカードもある。さらに福島と沖縄という2つの県知事選挙は、政権にとって重い課題であろう。

○この秋の政治外交日程
9/6-8 安倍首相がバングラデシュ、スリランカを訪問
9/8 第2四半期GDP 2次速報発表 (前期比▲6.8%→?)
9月中? 北朝鮮が拉致被害者再調査報告書を発表
9/23~ 国連総会始まる。安倍首相が一般演説へ
9/29? 秋の臨時国会召集
10/26 福島県知事選挙
11/10-11 APEC首脳会談(北京)
11/15-16 G20首脳会談(ブリスベーン)
11/16 沖縄県知事選挙
11/17 第3四半期GDP 1次速報発表
12月中 消費税増税の最終決断(8%→10% 2015年10月から)

強いて言えば、この秋のポイントは以下の3点である。

まずは11月APEC首脳会議における日中首脳会談。これは実現するものと見る。「靖国」と「尖閣」という日中間の難問をどうやって処理するかは、本誌8月8日号「日中ロ三角関係の行方」の中で種明かしをしている。

次は言わずと知れた消費増税。第3四半期GDPと12月日銀短観を見て最終決定となるだろうが、消費増税法付則18条を使った凍結も十分あり得る。が、その場合は「いつまで延期するか」を明言しなければならず、それが難しい。ゆえに最善手は、「大胆な追加景気対策」を抱き合わせての増税決断ということになるだろう。そこでどんな手を打つべきかは、前号の8月22日号「再考・GDPと景気と消費税」の中でご紹介している。 3番目は、臨時国会の焦点となりそうなIR法案(特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案)の扱いである。日本でカジノを解禁するという法案で、世論の支持が強いとはいえないが、やれば確実に経済効果がある。認められれば、外資による投資額は1件当たり5000億円程度となり、それが大阪、沖縄、横浜(or東京)などで誕生する。税収増や雇用の創出効果は巨大なものになるだろう。「観光立国」の目玉商品ともなる。ただし時間はかかるので、2020年の東京五輪には間に合わないだろう。

臨時国会におけるIR法案は、プラグマチック・リスクテイカーたる安倍首相ならではのギャンブルとなるだろう。これが通せるかどうかは、安倍改造内閣の力量を試す格好のメルクマールとなるのではないだろうか。

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