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懲役3年執行猶予4年|覚せい剤をやめる

12日、ASKAさんの覚せい剤事件の判決公判で、東京地裁は、懲役3年執行猶予4年(求刑懲役3年)を言い渡しました。

起訴状によると、被告人は覚せい剤と合成麻薬MDMAを使用。また、目黒区内の自宅で覚せい剤0.432グラムと合成麻薬MDMAなどの錠剤計約26グラムを所持したとされています。

●懲役3年の意味

そもそも、先に行われた第1回公判で検察官は、懲役3年を求刑していました。それに対しては、初犯の末端乱用者としては重いという意見が聞かれました。
しかし、薬物事件では、求刑においても、判決においても、刑を決める最も重要な要素は薬物の量で、多量を所持しているほど刑事責任は重いと判断されます。薬物の量が多ければ、社会に及ぼす危害が大きくなるので、制裁も厳しいものになるわけです。
よく、覚せい剤事件では、初犯は懲役1年6か月といわれますが、それは末端乱用者の事件では、所持量が1グラム内外のケースが多いからです。

この事件では、被告人が自宅で所持した覚せい剤は約0.4グラムと、末端乱用者の所持量としては多いとまではいえない量ですが、問題はMDMAの量が約26グラムと極めて多量だという点です。MDMA錠剤は、平均的な1錠が0.3グラムといわれますから、被告人の所持した錠剤の数は80~90錠くらいでしょうか。検察官の論告では、被告人の使い方(1回当り1錠半)で約60回分とされていたと記憶しています。

密売人の所持量に匹敵するほどのMDMAを所持していた被告人に対して、その所持量に相応した、重い刑が言い渡されたということになります。

ちなみに、覚せい剤所持の法定刑はMDMA(通常麻薬)所持よりも重いので、覚せい剤でしたら、所持量が10グラム程度でも、懲役3年の求刑・判決ということもあります。

●執行猶予4年の意味

今回の判決は「懲役3年、執行猶予4年」だったと報じられています。被告人は3年の懲役刑を宣告されたのですが、現実に刑事施設に収容することが猶予され、社会内での更生の機会を与えられたのです。執行猶予期間は4年間、この期間を無事に満了すれば、刑の宣告そのものが効力を失い、有罪判決を受けなかった状態に戻ることになります。ただし、猶予期間中に有罪判決を受けるなどして、執行猶予を取り消されれば、猶予されていた宣告刑を現実に受けなければなりません。

執行猶予は、前科がない者などについて、3年以下の懲役、禁錮又は50万円以下の罰金を言い渡すときに付けることができます(刑法25条1項)。営利目的のない薬物事件では、初犯者の多くが3年以下の懲役刑が求刑されるので、被告人にとっては、執行猶予が付くかどうかが重大な関心事になります。

執行猶予は「情状により」付されるものとされていて(刑法25条1項)、被告人に対して執行猶予を言い渡すかどうかの判断は裁判所に委ねられています。刑事裁判で言う情状とは、量刑判断にあたって斟酌される事情のことで、被告人の性格や境遇、犯行の動機や態様などとともに、犯行後の状況も重要な要素とされています。

一般に、被害弁償などによって犯罪被害の回復に努めたことは、被告人にとって有利な情状として評価されますが、薬物事件のように直接の被害者がない犯罪では、被告人に再犯のおそれがないことが、とくに重要な情状となります。

さて、実際の公判では、ほとんどの被告人が真剣な表情で反省の言葉を述べ、「もう二度と薬物にかかわりません」と誓いますが、これだけでは再犯のおそれがなくなったとはいえないでしょう。

生活態度、交友関係、時間の使い方・・・いろんなことを変えないといけないのです。なぜ薬物を使ってきたのか、なぜやめられなかったのか、これまでの自分に欠けていたことを直視し、生活を変えてこそ、薬物と縁を切ることができるのです。

専門家による指導や、やめ続けている仲間の支えなども有効です。入院治療を受けたり、回復者施設に入所するなど、これまでと違う環境を選ぶことも努力を確かなものにする近道でしょう。ASKAさんのように、保釈を得て専門医による治療のスタートを切ることもよい方法だと思います。

しかし、何と言っても家族の支えが欠かせません。気がゆるんだり、嫌気がさしたりするときも、そばにいて、時には叱咤する家族の存在は、覚せい剤をやめる長い戦いを乗り越える最大の力なのです。

覚せい剤事犯にとって、家族などの監督者の存在がどれほど大きいか、如実に示すデータがあります。

下のグラフは、覚せい剤事件で執行猶予判決を受けた519人について、判決から4年以内の再犯状況を調べた調査結果(平成21年版犯罪白書より)のうち、裁判の際に家族などが今後の指導監督を約束した人がいたかどうかを調べたものですが、指導監督を約束した人がいたケースでは、猶予判決を受けた後の覚せい剤再犯はわずか18.9%。いっぽう裁判時に監督を約束してくれる人がいなかったケースでは、44.8%が覚せい剤再犯に及び、その他の罪名による再犯も含めると、およそ2人に1人が再犯に及んでいるのです。
画像
↑覚せい剤事犯者の執行猶予判決後の再犯状況(監督誓約の有無別)
 平成21年版犯罪白書249頁より転載


刑事裁判に関わる法曹関係者は、家族など身近な監督者の大切さを実感しているだけに、長年にわたる乱用で家族を裏切り、苦しめてきた被告人が、家族と和解し、執行猶予後の生活を共に分かち合える状態になっているかどうかが気になります。被告人が家族の監督に従うか、家族の側に被告人を監督する意欲があるか、こうした点を見極めることが重要なのです。

私が弁護人として事件を担当する際には、被告人本人よりも、むしろ家族に対してより多くの時間を割くことさえあります。

こうした具体的な解決策を丹念に仕上げたとき、公判の席上で、被告人は胸を張って「過去の自分と決別し、再出発します」と誓い、弁護人は「被告人に再犯のおそれはない」と言い切ることができるのです。

もしも、再犯のおそれが強いと判断されれば、執行猶予期間が4年や5年と長く定められたり、ときには執行猶予が付かずに実刑が言い渡されることもあります。

[参照]
グラフを引用した、覚せい剤事犯者の執行猶予判決後の再犯状況(再犯ありは154人で29.7%、うち覚せい剤取締法違反による再犯は128人で24.7%)の詳細は下記で読むことができます。

平成21年版犯罪白書 第3章 第1節
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/56/nfm/n_56_2_7_3_1_1.html

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