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「遅れて」やってくるPTSD−「心の傷は生涯癒えないことがある」

3月11日、東北地方を襲った世界最大級の地震が発生してから、3週間が過ぎました。けが等の目に見える障害とともに忘れてはならないのが、被災を受けた人たちの精神的痛手です。

震災が発生した直後は、自分の住んでいた家を失ったり家族を亡くしたりといった、予期せぬ出来事に対して、あまりのショックで「まさか、嘘だろう」といった、現実を受け入れらない気持ちになります。また、被災者自身も、「今度余震が来たら、今度は自分が命を落とすかもしれない」といった死の恐怖に直面します。

心的外傷(あるいはトラウマとも言います。)という状態です。体だけでなく、「心もけがをすることがある」と言えば分かりやすいかもしれません。

一方で、救助活動が活発になり、物資や寄付が各地から届くようになります。メディアもこぞって報道をします。被災者は、自分の置かれた状況にストレスを感じながらも、こうした援助に対し、感謝の心を抱きます。所謂、“ハネムーン期”と呼ばれる時期です。

しかし、援助に来た人たちも、いつまでも支援活動にたずさわれるわけではありません。ボランティアはいずれ自分たちの仕事場に戻らねばなりませんし、避難所も、永遠の棲家とはなり得ません。また、メディアでも、被災地の報道が徐々に減っていく傾向にあります(特に今回は、原発事故のことがありますから、なおさらです。)。一般に、震災後1か月を経過しようとする時期から始まるのが、“幻滅期”と呼ばれる時期です。(今回は、あまりの被害の大きさのため、ハネムーン期がもう少し長く続くと思いますが。)

みなさんは、PTSD(Post Traumatic Stress Disorder)をご存知でしょうか。「危うく死ぬ、または重症を負うような出来事」を経験した後に起こります。症状としては、強い不安や恐怖、イライラした気持ち、不眠、そして、震災直後の状況がその時の恐怖心とともに生々しく記憶の中で蘇る、フラッシュバックなどがあります。

なぜPTSDが問題かと言うと、震災のような重大な出来事の後、1カ月以上経過してから発症し、人によっては長期化することもあるからです。年単位で症状に苦しむ方もいらっしゃいます。

−「身体の傷は何カ月かで癒えるのに心の傷はどうして癒えないのか。四十年前の傷がなお血を流す」 (ポール・ヴァレリー)

以前にもご紹介した精神科医の中井久夫氏(阪神淡路大震災の当時の神戸大教授)は、その著書で、ポール・ヴァレリーの詩を引用して、次のように述べています。
「心の傷は生涯癒えないことがある」

もうすぐ、大震災から1カ月が過ぎようとしています。阪神淡路大震災の教訓を生かして多くの精神科医たちが被災地に当初から入っています。しかし、実際に現地で活動している精神科医たちからの話では、人手が足りず、3次予防(震災前から治療中の精神科患者さんの悪化の予防)や、2次予防(震災をきっかけに不眠、不安などを発症した患者さんの早期発見、早期治療)に追われていて、1次予防(精神疾患が新たに発症しないよう予防すること。今回は、PTSDなどの発症予防)には、十分に対応できていない、とのことです。

PTSDは、先ほど述べたように、震災後1か月を経過しようとする、まさに今の時期に、顕在化してくる病気です。「遅れて」やってくるのです。的確な対応や治療がされなければ、強いうつ病を引き起こし、場合によっては、自殺等の悲劇的な結果を生むことさえあります。これは、なんとしてでも防ぎたいところです。

しかし、PTSDに対応が出来る人手が絶対的に不足しているのが現状です。

精神科医でなければ、PTSDような重篤な精神疾患を予防できないのでしょうか。予防できないにしても、病気をなるべく軽くすませることはできないのでしょうか。

そんなことはありません。災害時における精神科的なケアや対応については、マニュアルが作成されています。もし、精神科医が身近にいれば、話を聞いて、理解を深めることが得策ですが、そうでなくても、以下のような文書が公開されています。

「心的トラウマの理解とケア 第2版」(じほう)
http://www.japan-medicine.com/jiho/zasshi/35433/k1.pdf
http://www.japan-medicine.com/jiho/zasshi/35433/k2.pdf
http://www.japan-medicine.com/jiho/zasshi/35433/k3.pdf

これをもとに精神科を専門としない医師、あるいは看護師はじめソーシャルワーカーなども、被災者のPTSD予防に役立つ事が出来ます。一般の方においても、被災者の方に接するとき何に注意すればよいのかについて知識を得ることで、PTSDの予防に役立つことができます。

ただし、「いつ精神科医につなぐべきか」だけは、心得ていてください。
例えば、被災者の方が、
「自殺したい気持ちが強い」
「アルコールの量が増えている」
「食べ物を食べられないほど落ち込んでいる」
という事であれば、速やかに精神科医に紹介してください。

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