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口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.4―

木村盛世

2010年06月04日 15:55

誤解招く表示やめて=口蹄疫で食品業界に要望−消費者庁

宮崎県で家畜への口蹄(こうてい)疫感染が拡大している問題で、消費者庁は17日、食品業界や流通業界などに対し、販売の際に非感染を売り文句にするなど、消費者に誤解を与える不適切な表示を慎むよう要請した。

 同庁などによると、口蹄疫にかかった家畜の肉や牛乳は市場に出回っておらず、また摂取しても人体に影響はない。しかし問題発生後、量販店やインターネット上で、「宮崎県産は使用していません」「口蹄疫の恐れのない産地の肉です」などの表現で食肉や加工品を販売している例が数例確認されたという。(2010/05/18-01:50) 時事ドットコム

この記事をみて皆さん、どう思われますか。明らかに、宮崎県と言うだけで避けられる、というstigmatizationが生じています。これは当初から私が恐れていた事態です。なぜこんなことが起こるのでしょうか?それはFMDという病気は家畜が感染したらとんでもないことになる恐ろしい病気、という概念にとどまらず、人体にも悪影響をおよぼし、食べたら感染して死んでしまう、という誤った認識が広がり、日本中が不安と恐れの真っただ中にいるせいではないでしょうか。

それでは、FMDとはどんな病気なのでしょうか。それはFMDウイルスによって生じる動物の感染症で、蹄が2つ以上に割れている動物が罹ります。代表例として、牛、豚、羊等があります。感染力(他の個体に広げる力)は強いのですが、成体では死にいたる確率は5%以下です。症状は口や蹄の付け根などにできるぶつぶつ(水疱)と熱などです。大体1〜2週間で回復します。

人に対する影響ですが、人に感染することは極めて稀で、感染した動物の肉を食べてFMDに罹ることはありません。

え?そうなの?と意外に思われる方もいらっしゃるでしょうが、これらの情報は「口蹄疫問題を考えるvol.1」に全部書いてあります。

FMDは症状をみると人間の手足口病によく似ています。また感染力と致死率ということに関しては、はしか(麻疹)と比較できる病気でしょう。麻疹は麻疹後脳炎など重篤な後遺症が残る可能性がありますから、重症度に関しては麻疹の方が高いでしょう。FMDの後遺症としては、乳が出にくい、肉質が落ちる、等がいわれています。しかし、麻疹は有効なワクチンがありますから予防可能という意味ではFMDと違います。

このようなFMDに対して必要以上に過敏になっている私たちは既にパニック状態になっているのです。

それではFMDの広がりをどうやって抑えたらよいのでしょうか。というよりもFMDを封じ込めることは出来るのでしょうか。残念ながら封じ込めは不可能に近い感染症の一つだといえるでしょう。まず、潜伏期があり、症状がないうちから感染させることがあります。治療法はなく、予防に使われるワクチンは100%の効果はありません。となれば、FMDは封じ込め不可能な病気と言わざるをえません。

封じ込め不可能な病気の対策の基本は、「入ったら広がる」ことを前提に、被害を最小限に抑えることです。

我が国のFMD対策は、「疑わしきは殺す」というイギリス流のやり方です。しかし、これはどれだけ効果があるかは議論の分かれるところです(「口蹄疫問題を考える vol.2」参照)。FMDの感染源は病気に罹った動物以外にもcarrierと呼ばれる生物です。人間等FMDに罹る動物以外もcarrierになる可能性があると言われています。このため、感染した肉を食べると危険だ!というメッセージが出てしまうのでしょう。

このような過敏反応は、かつて緒方洪庵が天然痘ワクチンを打ち始めたころ、「(ワクチンを)打たれると牛になってしまう」という風評被害が立ったことと似ています。それはワクチンが牛の天然痘から作られたからですが、当然牛になってしまうわけではありません。

FMDは動物の間ではごくありふれた感染症です。実際、日本や韓国、中国以外にもブラジルで発生していますし、ネパールにも疑い例が報告されています。病気に罹った動物の他にcarrierが感染源となることは前にも書きましたが、牛や豚の集団でも15〜50%のcarrierが存在すると報告されています。となればFMDは何時、どんな所で起こっても不思議ではないのです。それ故、清浄国(FMDfree)という概念自体がおかしいのです。

今のままの政策を続けてゆけば、「抑え込み可能の危険な病気」という「空気」を信じている国民は、不安がいらだちと怒りに変わり、政府や地方自治体を非難し始めます。しかしそうしたところで誰も救われないのです。最後には多大なる被害と、憎しみだけが残ります。

この負の連鎖を断ち切るには発想の転換が必要です。発生してから今までの経過をみれば、今回のウイルスが突然変異を起こしたsupper killerウイルスではありません。となれば、FMDに感染しても危険はないのですから、殺すこともやめて、通常の正肉として販売すれば良いのです。感染した肉がさらなる感染経路になるのではないか、という人もいますが、蔓延した状況では不特定多数の感染経路が様々に絡み合って、どれか一つを遮断してもあまり意味がありません。

また、流通を全て止めろ、という極論もありますが、経済効率の極めて悪い畜産産物を科学的根拠もないまま処分する経済損失に対する責任は誰がとるのか、という意見もあります。

さらに、今回のように「口蹄疫が出た」というだけで風評被害が大きくなってしまえば、違う地域で発生したとしても、非難を恐れるあまり、発生したことを隠してしまう、といったことも出てこないとは限りません。こうしたことが起こると、どれだけ今回のFMDが広がりを見せたか、どんなところに流行したか、という疫学情報が不正確になり、今後の対策に活かせなくなることが考えられます。

実際、ウイルスでもその存在が分かってない方が分かっているものより断然多いのですから、人体に影響のないFMDをこれ以上、モンスターとして扱うことはまったく理にかなわないことです。イギリスは政治不安を引き起こしたために、多量処分をしました。そうであれば、根拠に基づいた「殺さない」対策をし、その成功を世界に示すべきだと思います。

FMDウイルスがありふれたウイルスである以上、再び日本を襲うことも十分考えられます。今回のFMDウイルスよりも感染力が強いtypeが来て、もっと大きな広がり方をするかもしれません。だからといってそのたびに家畜を殺していては、経済損失も大きくなるばかりです。これらの費用はすべて私たちの税金から支出される事も考えてみては如何でしょうか。

今までやってきたやり方と違ったことをすると始めは強い反応があることでしょう。しかし、正しいことをやり遂げることは、結果として、世界に尊敬される日本を創ってゆくのではないでしょうか。

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