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機械と人力を融合した翻訳サービス「Unbabel」

自動翻訳ツールで翻訳された海外サイトのページを目にしていて、その精度の低さにため息をつくことがある。高度なテクノロジーが次々と開発されている現在においてもなお、機械翻訳という分野は、その複雑さゆえになかなかユーザーにとって満足できる体験が得られないのが現状だ。

人の手にかかればほんの些細な修正で済むことも、機械翻訳ではその微妙な加減が難しい。今や世界中の人と簡単につながることができる時代だけに、よりスムーズなコミュニケーションが求められるのはごく当然のことだ。だからこそ、語学、翻訳の分野にはまだまだ大きな潜在的市場が広がっているともいえる。

今回ご紹介するのは、機械翻訳されたものに人間のニュアンスを加えることで、スピーディーかつより伝わりやすい翻訳サービスを提供している「Unbabel」だ。

2013年、ポルトガルのリスボンを拠点に創業し、翻訳の大部分を機械翻訳に委ねることで価格を通常の5分の1に抑え、世界最高のスピードと精度を目指し、新しい翻訳の仕組みを打ち出した。また今年7月には、約150万ドル(約1億5000万円)の資金調達に成功している。

機械翻訳のスペシャリストとチームワークが最大の武器

まずはUnbabelの創業メンバーをご紹介しよう。CEOのVasco Pedro(写真上左、以下ペドロ)氏、デザイナー兼UX(ユーザーエクスペリエンス)担当のBruno Silva(写真上中央、以下ブルーノ)氏、CMOのSofia Pessanha(写真上右、以下ペッサーニャ)氏、ヘッドディベロッパーのHugo Silva(写真下左、以下ユーゴ)氏、CTOのJoao Graca(写真下右、以下グラサ)氏だ。

この5人の中でペドロ氏とグラサ氏は自然言語処理の博士号をもっている。自然言語処理とは、まさに機械翻訳ソフトのような言語をコンピュータに処理させるための一連の技術やソフトウェア開発のことをさす。

Unbabelを立ち上げるきっかけが生まれたのはペドロ氏の友人が家を外国観光客に貸す際に意思疎通に困ったエピソードが原因だった。友人はすっかり外国語ができなくなってしまっており、不完全でもいいから、オンラインで翻訳を行ってくれる人がいれば良いのに、と思ったという。

ペドロ氏は、友人の話を聞いて、機械翻訳がまだ不完全なのであれば、そこに人間の力を加えれば良いのではないか、と閃いた。人の手が加わることで、機械翻訳をロボット的でない自然な言葉にすることができるし、より多くの間違いを防げると考えたのだ。

機械と人力を融合させたプラットフォームのアイディアを得たペドロ氏はさっそく試作品を作り、ランディングページで試してみることにした。

Unbabelの創業メンバーとなった5人はYコンビネーター出身だ。当時は3ヶ月間、カリフォルニアの同じ家で共に生活したこともあったという。そうした気心が知れた仲であったことも大きかった。5人は週10%の成長を目標とし、目標を達成できなかった週は、全員で意見を出し合いながら挑戦を続けた。

こうして過酷な3ヵ月を乗り切り、プレゼンテーションに成功したペドロ氏らは、シリーズA投資として約40万ドル(約4000万円)を獲得し、サイトを成長させていったのである。

機械と人力の融合するプラットフォーム

現在Unbabelでオーダー出来る翻訳元の言語は、英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、ポルトガル語(ブラジル)の6言語。

翻訳可能な言語は、英語からアラビア語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、トルコ語、ロシア語、中国語、イタリア語、フランス語、日本語、ルーマニア語など19言語と豊富だ。

また、同じスペイン語でもアルゼンチンのスペイン語、メキシコのスペイン語というように地域で細かく区別されているのものもある。

個人の他、英会話レッスンアプリの「Cambly」や世界中の料理レシピを扱う「Yammly」などの法人も同サービスを利用しているという。

同サイトの翻訳プロセスは以下のような流れだ。顧客からオンライン上のフォームやメールなどで注文を受け取ると、まずは原文の機械翻訳を行う。

機械翻訳された文章はUnbabelに登録している複数の翻訳者に自動的に届けられ、彼らによってあいまいな言葉や文法の間違いなどが修正され、約数分後という早さで自然な文章となって顧客に納品される。

翻訳の料金は文字数により決定される。ツイートや簡単なコメントなど50文字以内であれば1.5ドル(約150円)、メールなど150文字以内なら4.5ドル(約450円)、ウェブサイト上の「よくある質問」の翻訳など250文字程度の文章であれば7.5ドル(約750円)だ。

また扱う翻訳物のジャンルを「政治」「ゴシップ」「スポーツ」「スタートアップ」などの中から選択する「トピックの選択」、「フォーマル」「ビジネス」「フレンドリー」などから希望する文体を選択する「希望するトーン」、どのような点に注意してほしいかを翻訳者に伝えるメモ機能も用意されている。

現時点では、メールからの注文ではこうした指示を行うことはできないが、リーズナブルな価格でありながら、翻訳に求めているニュアンスを伝えられるのは、機械翻訳と人力翻訳を掛け合わせた同サイトならではの機能だろう。

Unbabelを見ていて気になるのは、どのようにして翻訳の品質を判断しているかだが、1件の仕事に対して複数のエディターを必ずあてることと、エディターのそれぞれの仕事についてのフィードバックを収集し、それらをアルゴリズムが測定することでより質の高い翻訳を確保しているようだ。

現在、同サイトに登録しているエディターは約1万人以上。採用条件は2言語以上の知識および語学力があることで、無給の仕事をこなして一定の成績を収めたエディターが有給の翻訳にアクセスできるようになる。

有給エディターが受け取ることのできる報酬は時給8ドルから。顧客に納品されるのはエディターが行った仕事の中で、もっとも早く質が高いと判断されたものとなるという。

フィードバックされる評価が良ければ点数が加算されてゆき、上限10ドルまでアップする。なお、平均よりも仕事が遅いと判断された場合はサイトより警告が入り、必要以上に遅い場合は仕事を中断されてしまうようだ。そのためエディターは、常にスピーディーかつ確実な翻訳が求められる。

また、有給エディターにはスマートフォンやタブレットでも簡単に仕事を行える環境が用意されており、タスクがメールで届けられ、翻訳した文章の送信や新しいタスクのチェックも携帯端末から行える。近い将来、ZendeskやGmail、Salesforceのように、アプリとプラットフォームを統合させる予定もあるそうだ。


(出典:YouTube「Email to Unbabel」)

言語の壁をなくし、eコマース市場をより地球規模に

"翻訳はテクノロジーによって効率的に解決されるべきで、残ったクリエイティブな部分を人間が担うべき。それがキーとなる価値なのさ"

ペドロ氏がこう話すとおり、Unbabelの翻訳は95%を機械翻訳、残りの5%を人力で行うことで、通常よりも価格を抑え、スピードを早めることに成功している。またエディターが迅速かつ丁寧な翻訳を行う環境を構築していることも、Unbabelの仕事の質とスピードに大きく貢献していると言えるだろう。

翻訳市場はeコマースの爆発的な増加により、従来の法律、特許、仕様書などの人力でされるべき翻訳の分野に留まらず、サイトのFAQ、ニュースレター、ツイート、メール、ブログ、コメントなどにまで広がっている。本来ウェブに国境は存在しないにも拘わらず、ネット利用者の大半が英語のネイティブではないからだ。

そうしたウェブを、すべての人々が言語に縛られることなく使えるものにすることがUnbabelの現在の目標だ。それも、翻訳が行われたことさえ気付かせないような、よりスピーディでシームレスなサービスをめざしていると言う。

テクノロジーの開発と人との融合で言語の壁を取り払い、本物のバベルの塔を築きたいと語るペドロ氏。eコマースの発展と共に成長する同サイトによって言語の壁が崩壊する日もそう遠くないかもしれない。

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