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“クルマ離れ”“内向き志向”…若者をめぐる言説はどこまで本当か?~ニッセイ基礎研究所准主任研究員・久我尚子氏インタビュー~

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「クルマ離れ」「草食化」「内向き志向」…。若者をめぐっては日々様々な言説がメディアを賑わせている。こうした“若者像”は、本当に実態をとらえているのだろうか。「若者は本当にお金がないのか? 統計データが語る意外な真実」を上梓したばかりのニッセイ基礎研究准主任研究員、久我尚子氏に話を聞いた。【取材:BLOGOS編集部】

海外留学者率は伸びている。「若者内向き論」の実態

―今回、改めて統計データによって、世の中に流通している若者像を是正しようと考えたきっかけはなんなのでしょうか?

久我尚子氏(以下、久我):「はじめに」でも書いたのですが、「クルマ離れ」「高級ブランド品離れ」などが指摘される、今の若者がお金をあまり使わない状況については、「お金がないから、使わないんだ」と分析されることが多いと思います。それに対して、私は「案外あるんじゃないかなぁ」と感じたんです。

東京であれば、コンビニでアルバイトをすれば、月20万円程度稼ぐこともできます。一方で、「今の若者はお金がない」と言っているようなバブル世代の大人たちが新入社員だった時は、手取りでそれほどもらっていたわけではありません。そういう意味では、現在の若者は「案外お金を持っているんじゃないか」と考え、計算をしてみたことがきっかけです。

―序盤で統計やデータを見る際の留意点にも触れていますが、メディアでは企業がマーケティングのために行ったアンケートなどを元に「若者の○○離れ」や「最近は○○女子が増えている」という紙面がつくられるケースが多いと思います。統計を見る際に、まず注意すべき点というのは、どのような部分でしょうか?

久我:「若者」といったときに、年齢や性別、居住地など、どういう定義の調査になっているのかを確認することが重要です。ここが偏っていると出てくるデータも偏ったものになります。

一般的に、「若者」といわれたときに想像するのは、だいたい20代~30代前半ぐらいでしょう。その上で、東京だけではなく、全国が調査対象になっているか。大学生だけではなく、専門学校生などの属性からもデータを取っているのか。このように広い「若者」という定義をきちんとデータがとらえているのか、偏りがないかどうかを見ることが一つポイントと思います。

―ネットメディアなどでは、企業が出したプレスリリースや特定のサービスの利用者にしか聞いていないアンケート結果が大きな見出しで報じられたりみたいなケースも散見するのですが、ご覧になっていて、危うさみたいなものを感じますか?

久我:そうですね。例えば、Yahoo!さんのような比較的利用者数が多いサービスであれば、年齢がそんなに高齢層でなければ、わりと幅広い方の声をとらえていると思います。しかし、ものすごくニッチなサービスであったり、「高齢者の声」といってデータをとっていても、そもそも高齢者のネット利用率がそれほど高くないという問題がありますから、サンプルが自然と偏った人を取ってきてしまうケースがあります。そういうところは注意する必要があると思いますね。

―著書の中では、さまざまな統計を使いながら、メディアで流れている言説と実態のギャップを読み解いていっていますが、一番社会に流布しているイメージと乖離があったものはなんでしょうか?

久我:留学関連のデータですね。よく「若者の内向き志向」などと言われて、「留学しなくなっている」とされていますが、“海外留学者率”でみると、むしろ高くなっているんです。

一方でやはり「日本人の留学生は元気がない」といった話はアメリカのニュースでも聞きます。その一番大きな理由は他の国の状況が変わってきていることなんですね。つまり、インドや中国からの留学生が増えた結果、相対的に日本人の位置が下がったということなんです。また、インドや中国からの留学生は大学院生の割合が多く、アカデミックレベルでも存在感を増していたという状況があるのです。このように、世間でなんとなく言われていることというのは、あながちウソではないんだけれども、そんなに単純な話ではないという印象ですね。

―「若者の内向き化」というのは、日経新聞のような大手メディアでも、さも前提のように書かれていますよね。政府の施策に対して、「内向き志向を改善する狙いだ」「内向きどう解決する?」といった表現をよく見かけます。

久我:“留学者率”で見ると、今お話ししたよう状況なのですが、海外での就労意向、海外で働きたいかどうかについての統計を見ると、二極化しています。そこでは、「働きたくない」の割合が一番多いので、そこだけが注目されやすくなっているのではないでしょうか。実は「働きたい」という意志を持った人も増えているという二極化の状況があるのですが、多数の部分しか注目されていないという部分があると思います。

また、「内向き」の定義による部分もあるでしょう。私は、本の中で、「海外留学をしない」という言説に対しては、「ひと昔前より、している」と書いているのですが、働き方についての志向を見ると、「海外では働きたくない」と言っている若者が増加しているという現状もあります。そういう変化を見ると、内向き志向といわれても仕方がない部分もあると思います。

また、企業選びに関しての統計を分析している部分もあるのですが、かなり保守的で、安定を重視する傾向が見られます。そうした傾向が「内向き」と捉えられている部分もあるので、「『内向き』って具体的になんですか」ということを明確にする必要がありますよね。

―「○○離れ」という言説についても丁寧にデータをひも解いていますね。

久我:「○○離れ」という話をするときに、離れていなかったときの若者が、いつの時代かというと、だいたいバブル時の若者になってくると思います。1990年前後のバブル期と現在では、若者が置かれている状況も、都市の状況も大きく違います。車について言えば、現在の方が昔より公共交通機関がすごく充実していたり、カーシェアリングのようなサービスがあるわけです。

「○○」から離れていなかったときの若者の環境と、その人たち自体の属性がずいぶん変わってきているので、「何と比較しているんですか?」という問題は考えなければいけないと思います。

―「何と比較するか」という定義が重要になってくるということですね。

久我:どこにフォーカスするかの定義をしっかりした上で、データで裏付けをする必要があります。データがしっかりしていないと、そのデータを元に考えられる政策も全然見当違いの方向に走ってしまいます。

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