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第2次安倍政権と国民意識の動向(その3)

〔以下の論攷は、月刊『全労連』No.210、2014年8月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップします。〕

(4)最近の世論動向が示すもの
 最近実施された世論調査においても、上に述べたような内閣支持率の傾向的低下や個々の政策課題での反対世論の増大は明瞭に示されている。6月21~22日に実施された共同通信社調査と朝日新聞調査を例に、これらの点を検討してみよう。

 安倍内閣に対する支持率は、共同通信社の調査では52.1%と前回調査から2.6ポイント減少した。第2次安倍内閣発足後では2番目に低い水準である。支持する最も大きな理由では「ほかに適当な人がいない」(25.3%)が一番多くなっている。他方の朝日新聞調査では内閣支持率が43%で、前回5月調査から6ポイント減少して第2次内閣発足以来最低となった。

 また、朝日新聞調査では支持・不支持層に対して気持ちの固さも尋ねている。それによれば、支持層のうち「これからも支持を続ける」は41%で、「支持を続けるとは限らない」は55%であった。他方、不支持層のうち「これからも支持しない」は57%で、「支持するかもしれない」は35%となっている。つまり、今は支持していても支持し続けるとは限らず、今は支持していないしこれからも支持しないという気持ちの方が過半数を超えており、内閣支持率がさらに低下する可能性を示唆している。

 安倍内閣が推進している政策課題について、共同通信社の調査では、集団的自衛権の行使容認への反対が55.4%、憲法改正ではなく解釈変更によって行使を認める考えに反対が57.7%、行使を一度容認すれば、容認の範囲が広がると懸念する回答が62.1%に上った。2015年10月に予定される消費税率10%への引き上げについても反対は59.7%、安全が確認された原発の再稼働に反対は55.2%と、どれについても反対が過半数を超えた。

 朝日新聞調査では、集団的自衛権の行使容認をめぐる政権での議論が「十分ではない」が76%、集団的自衛権を使えるようにすることについて「反対」が56%、集団的自衛権の行使容認に向けて解釈を変更する進め方について「適切ではない」が67%、国連の集団安全保障で日本が武力を使えるようにすることについて「反対」が65%と、いずれも反対が6割前後から7割の高率になっている。経済政策が賃金や雇用が増えることに結びついていると思わないとの回答も55%と過半数を超えた。安倍内閣が実行を目指している個別の政策課題についての異論は増えており、内閣と世論との乖離はますます拡大していることが分かる。

3 若者は右傾化しているのか

(1)都知事選における田母神票の衝撃
 以上に見たような国民の意識状況において、とりわけ注目を浴びているのが若者である。若者の右傾化が大きな注目を集めたのは、2014年2月に実施された東京都知事選挙の結果であった。図表3(省略)(http://www.asahi.com/articles/ASG294JLLG29UZPS001.html)で示されるように、投票した20代の中で、最右翼に位置すると考えられた田母神俊雄候補が、当選した舛添要一候補の36%に次いで2番目の24%という支持を得たからである。これは3番目の宇都宮健児候補の19%、細川護熙候補の11%を上回っていた。

 もう一つ、この選挙で注目を集めたのは家入一真候補の動向である。家入候補はインターネット選挙に取り組み、都知事選の供託金300万円をクラウドファンディングで集めるというこれまでの選挙とは異なる手法を用いた。その結果、8万8936票を獲得して16人中5位という成績を収めた。

 このようなインターネット選挙の手法は田母神候補によっても用いられ、それが若者の支持を集めるうえで功を奏したと見られている。しかし、それだけではない。自衛官出身で元空将、航空幕僚長という経歴や、国防軍の創設を主張し、侵略の歴史を否定する発言によっても、若者に対する影響力を拡大したととらえられている。インターネットなどでは、「田母神閣下」という書き込みも多く見られた。

 このように、選挙に足を運んだ20代の若者の24%が田母神候補に投票し、それは宇都宮候補や細川候補よりも多かった。それが「若者の右傾化」の広がりを裏付けるものとして危惧する声が上がったのも当然である。

 しかし、それを過大評価してはならない。というのは、20代の若者の投票数が極めて少なく、大半は無関心で選挙には行かなかったからである。政治に関心を持ち「田母神閣下を当選させたい」と考えた若者が投票所に足を運んだのだから、その割合が相対的に多くなったのは当然だろう。

 20代の有権者は約157万人であり、田母神候補に投票した20代の有権者は約9万5000人と推定されている(古谷経衡「若者は本当に田母神氏を支持したのか?」HTTP://BYLINES.NEWS.YAHOO.CO.JP/FURUYATSUNEHIRA/20140211-00032569/)。田母神票は20代有権者の6%ほどにすぎず、「若者の右傾化」というほどの割合ではない。20代の若者への右翼的潮流による影響力の拡大は無視できないが、それを過大に評価することも正しくないのである。

(2)多様な形態での不満の噴出と異議申し立て
 若者の意識状況を見るうえで最も重要なことは、若者は多様化しており、その意識は一様ではないということである。このような意識の上での幅の広さが今日の若者の特徴であり、それを一つの傾向でとらえようとすると無理が生ずる。部分をもって全体を論ずる誤りを犯してはならない。

 一方には、民族主義的な偏見や憎悪感情を高め、排外主義に凝り固まったヘイトスピーチやヘイトデモに参加する若者がいる。「ネトウヨ」と言われるようなインターネットを通じて右翼的な言辞を拡散する若者もいる。他方には、東北大震災での復旧・復興支援のボランティア活動に汗を流す若者もいれば、脱原発や原発ゼロ、再稼働反対を掲げて毎週金曜日に官邸前デモや集会に参加している若者も少なくない。学生による特定秘密保護法反対のデモや集団的自衛権行使容認に反対する若者憲法集会も開かれた。

 これらの若者は、いずれも現状を肯定しているわけではない。どちらも現状に対する不満の表出と異議申し立てなのである。在日特権を許さない市民の会「在特会」やヘイトデモへの参加も現状へのプロテストを示すものであり、それは排外主義という回路に不満のはけ口を求めた人々だと言える。

 現状への不満を抱き、何とかそれを打開したいという意欲があるものの、それをどのように実行したらよいのか分からない。そのため、ときには架空のストライキ騒動を引き起こすこともある。深刻な人手不足を招いている「すき家」で、現役のアルバイトがツイッターなどでストライキを呼びかけて話題となったのはその一例だろう。

 『子ども・若者白書』2014年版は、日本、韓国、米国、英国、ドイツ、フランス、スウェーデンの計7カ国で13~29歳を対象に実施したインターネット調査の結果を掲載している。「自国人であることに誇りを持っている」と答えた人は、日本が70%と米国、スウェーデン、英国に次いで高く、「自国のために役立つと思うようなことをしたい」は55%でトップだった。

 他方で、「自分自身に満足している」という回答は46%で最下位である。また、「自分の将来に明るい希望を持っている」(62%)、「うまくいくかわからないことにも意欲的に取り組む」(52%)、「社会をよりよくするため、社会における問題に関与したい」(44%)、「私の参加により、変えてほしい社会現象が少し変えられるかもしれない」(30%)という項目でもすべて日本が最下位であった。これらの調査結果からは、日本の若者の不満と鬱屈した意識をうかがい知ることができるように思われる。

■関連記事
第2次安倍政権と国民意識の動向(その1)
第2次安倍政権と国民意識の動向(その2)

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