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学位論文

数日前に本学医工学研究科の修士課程学生さん3人が訪れて、STAP細胞論文等についてお話しました。来週、インタラクティブな講義でディスカッションをする予定とのことで、「そもそも<再現性>とは?」「科学と社会の関係」などについて話しました。

「再現性」は科学を生業とする誰もが重要と思っていますが、それは「どの程度」のことなのかは、もしかするとラボによって基準が異なるかもしれないことを指摘しました。例えば「100回の試行」をして、「2回再現」されたらば、それは「再現性があった」と言って良いことなのかどうか? 100回行わなくて「10回の中で2回成功」したら? じゃぁ、「5回のうち2回」だったら???

もしかすると、話が具体的になると、ラボによって基準が異なるかもしれないと話しました。あるいは「コピペ」の問題も、「メソッド(材料・方法)」のパートではどこまで許されるか、分野によっては「イントロ」にはオリジナリティーが無いので、前任の方のものとかなり似ていてもOKとみなされる分野もあること、結果のパートでも、修士論文くらいであれば、前の学年の方や同じラボの同級生の文章とかなり似ている可能性もあるのではないか、などについて指摘しました。このあたり、本当に分野によって、実際、ラボによって異なる可能性があります。

さて、本日、早稲田大学理工学研究科の学位論文について発表がありました。以下、引用します。
理化学研究所の小保方晴子研究ユニットリーダーが3年前に早稲田大学に提出した博士論文について、大学の調査委員会は「内容の信ぴょう性が低く、学位が授与されることは到底考えられない」としながらも、これは小保方リーダーが誤って下書き段階の論文を提出した過失によるもので、完成した論文は別にあったなどとして、博士号の学位取り消しには当たらない判断しました。
このことは見過ごしてはならない大きな問題だと思います。

「学位論文」は、研究職というキャリアを目指す人達にとって、大事な通過点の最初の1つであり、「どんな学位論文を書いたか」はその後の研究者としての評価に少なからぬ影響を与えるものであると思います。現時点において、日本でも世界的にも、学位の審査は、学位を与えるに足ると認定された研究機関がその任に当たり、その評価はいわゆる「学位論文」と呼ばれる書面とそれを元にした面接で評価されます。つまり「学位論文」は、研究者のキャリアにとって大事な最初の「作品」であり、その「出来」が次の職を得るのに重要な「手形」になるわけです。

ただし、「学位」は例えば「医師免許」のような国家試験ではなく、それぞれの大学院が授与するので、日本全体での統一基準が1つの「モノサシ」で測られる訳ではありません。それは、学問がとても多様であり、価値判断に多様性があることによります。つまり、「国家試験」やあるいは「センター試験」のような統一性を求めることは難しいのです。

しかしながら、今回の早稲田大学の発表は、同大学の学位認定基準について、大きな疑問を持たせる結果になったことはとても残念です。例えて言うならば、スキーのバッジテストで「どのゲレンデなら取りやすい」というようなことをあからさまにしてしまった、という解釈になってしまうのではないでしょうか? あるいは、学位申請の時点で基準に達していなくても後から修正すれば良い、ということになってしまうと、何のための学位審査かということになります。学位審査は、万難を排して準備して臨んで、その過程において切磋琢磨されることもまた博士としての資質に重要であるとみなされています。

今回の決定は、皆さん、おかしいと思いませんか? これは当該大学のみならず、全国の学位取得者や、これから学位を取得しようとする方々が提起すべき大きな問題だと思います。さらに言えば、日本の「博士号」という資格が世界でどのようにみなされるかという質保証の問題です。

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