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サービス業における、接客マニュアルとの正しい向き合い方 - 福谷恭治

複数の人に、一定の基準で作業をしてもらう為に用意される「マニュアル」というツール。
どんな家電にも取り扱い説明書というマニュアルはついてますし、複数の従業員を擁する技術職や事務職には作業マニュアル、接客業にはサービスマニュアルが存在します。職場におけるマニュアルは、従業員の行動を規定する為、言い換えれば企業や事業所が「人を取り扱う為」に用いますが、マニュアルを使用する対象がお客様である接客業の場合「マニュアルを使う企業」と「マニュアルに使われる企業」の差が明確に表れます。

■いつのまにか接客マニュアルの位置付けが変わる「怪現象」

そもそも接客マニュアルが何故用いられるのかというと、以下の理由を挙げる事ができます。

・そこに書かれた手順通りに行動すれば、誰でも一定のレベルで同じ手順で作業ができるようになる
・リスト化されている為、トレーナーの教え忘れや漏れが無いなど、教える側の知識や教育技術の高低に左右されにくい
・トレーナーが新人にベッタリ付かなくても自習が可能
・マニュアルに記載された内容は、明文化されたルールとして周知される

確かに接客において「人の動き方」をマニュアル化すれば、このようなメリットはあります。ところが、接客マニュアルを採用する会社の多くは、マニュアル運用開始の時点から、ある大きな過ちを犯します。それは、接客マニュアルを「バイブル化」してしまうという事です。お店の決まり事として明文化した接客マニュアルが理解実践できているかどうかを、仕事の評価基準の「全て」だと錯覚してしまう事業所が現れるんです。

接客マニュアルを「バイブル化」する事業所は、例えば働き出して三ヶ月の人にも三年の人にも、「マニュアルを守っているか」という基準を、同じウェイトで判断しようとします。かといって、マニュアル以上のフレキシブルなサービスを提供しても、そのアクションを「具体的に」評価する基準は用意されていません。本来は守るべき最低限の「基本手順」だけを書いているはずの接客マニュアルが、いつの間にか「そこに書かれた内容が全て」にすり替わるという現象が起こるわけです。

■マニュアルは、所詮「チェックリスト」でしかない

接客マニュアルってのは、結局のところは「チェックリスト」と同じです。よく目にするところでは、ショッピングセンターやスーパーのトイレになんか貼ってある、時間割りされて担当者が清掃したらサインする清掃一覧表みたいなアレです。鏡は綺麗か、便器は汚れてないか、ロールペーパーは切れていないか、こういった最低限の項目に「レ点」を入れて手順通りに清掃していく事を「仕事の全て」だと認識してしまうと、いったいどういう事になるのでしょうか。

それ以外の事をしなくなります。チェックリストに載ってないから配管のつまり具合は見ない、匂いの変化を気にしない、小便器でお客様がおしっこをしてても挨拶もしない、それどころかその横に立って平気でウォッシャー液を補充しようとする。仕事のボーダーラインを規定したはずのものが、いつのまにかアッパーラインに摩り替えられる。これがマニュアルに「使われている」会社で働く従業員の姿です。

接客で起こり得る現象パターン全てを書き出してマニュアルにするのは不可能です、書ききれるわけがありません。ブリタニカ百科事典くらいの厚みにしていいのなら可能かもしれませんが、厚すぎて誰も読む気になりませんよね。ですので、接客マニュアルには「最低限の作業手順やルール、ガイドラインの紹介」以上の意味を持たせてはいけませんし、実際その程度の事しか盛り込まれてはいないはずです。それが出来れば満点なのではなく、それすら出来ないのなら働くべきでは無い、という認識になる程度の事しか書いてはいないはずなんです。

ところが、いざ接客マニュアルを使い出すと、いつのまにか一人歩きして「それが全て」だという認識に変わっていってしまう傾向が非常に強いんですね。接客には常に「イレギュラー」が存在する事を大前提に、骨格となる最低限の手順だけが明文化されているという事を、新人には最初に充分伝えておく必要がありますし、それ以前に教える側が接客マニュアルのこうした「位置付け」を充分に理解し、それ以上の価値をマニュアルに求めないように周知徹底する必要があります。

■はじめにゴールありき

「接客」という業務は何の為に行うのか?理由はすべて一つ残らず「お客様に、また利用して頂く為」のはずです。次回も買って頂く必要が無いのなら、大抵のタブーは無くなりますよね。お客様を怒らせるようなひどい接客をしたって、最終的にお金さえ払ってもらう所までこぎつければ仕事は成立するという事になってしまいます。

私達商売人がバイブル化しないといけないのは、最低限の事しか書いていない接客マニュアルでは無く、そのマニュアルが出来たバックボーン、すなわち「何をゴールに私達が仕事をしているのか」という事です。目標、ビジョン、ミッション、理念、言い方は何だっていいのですが、新人に教えるべきは正にその部分で、接客を介してそれらを実現する為に、自分達には何が出来るかを考えながら仕事をする「習慣」を作る事なんです。

マニュアルで組織を機能させるのではなく、ビジョンやミッションで機能させましょう。
接客マニュアルにマニュアル以上の意味を持たせると、組織はそれに自らが縛られ動きが硬直化します。元々が不完全なマニュアルの遵守に重きを置くと、それに使われる人間の動きや発想は狭められ貧困になります。ビジョンやミッションの実現に軸足を置くと、従業員の動きも発想もよりフレキシブルなものになります。

あなたの職場にある接客マニュアルが、従業員が五感を働かせて仕事をする事を制限するような位置付けになっていないか、ぜひ一度確認してみてください。

経営に関しては以下の記事も参考になります
■プロセスを評価する仕組みを持とう
http://www.impact-m.net/?p=390
■お客様との「体温」を合わせよう
http://www.impact-m.net/?p=516
■「詐欺師」と「詐欺師的商売人」の微妙なスタンスの違い 福谷恭治
http://sharescafe.net/39680230-20140704.html
■アットホームな印象をお客様に与える、商売人にとってのイメージ戦略 福谷恭治
http://sharescafe.net/39384971-20140616.html
■マクドナルド業績悪化に見られるフランチャイズ化の功罪 中泉拓也(関東学院大学 経済学部 教授)
http://sharescafe.net/37379568-20140228.html

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