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「原発電力3割」という"洗脳" - 鈴木耕

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 電話があった。編集者の先輩のAさん。かつての上司で、なぜか気が合ってよく一緒に飲んだ仲だ。先日、某所でバッタリ会って、ちょっと酒を飲んだ。久しぶりで嬉しかった。
 そのAさんとの、電話での会話。

「おう、この前は楽しかったな。ところでおめえ、山岸涼子さんっていうマンガ家を知っているか?」。べらんめえ口調である。

「はあ、名前ぐらいなら。でも、読んだことはないですよ。そっち方面は詳しくないもんで…」

「おう、そうか。おめえは少女マンガ向きじゃねえもんな。オレは昔な、少女マンガの編集でな、山岸さんの担当だったんだよ。デビューからずっと編集として付き合ったわけだ」

「はあ、そうでしたね。でも少女マンガ、Aさんにだって、まるっきり似合いませんが」

「うっせえな。とにかくよ、オレは担当だったんだよ、山岸さんの」

「はあ、それで、どういう?…」

「16日の朝日新聞の夕刊、見たか?」

「はあ、突然そう言われても…」

「とにかくそこにな、山岸さんの記事が載ってんだよ。それ、読んでくれって話よ」

「はあ、でも、話の筋が見えないんですが…」

「おめえ、毎週『ブラブラ日記』っての書いてるよな。そこで紹介したらどうかな、と思ったんだよ」

「はあ、『お散歩日記』ですけど。でもあんなもの、読んでくれてるんですか、ありがとうございます。で、それとどうつながるんでしょう?」

「あのな、その山岸さんの『パエトーン』って作品が、ネットで無料配信されて、大人気になってるってことよ」

「はあ、『パエトーン』ですか…」

「おおよ、チェルノブイリの原発事故を扱ったマンガでな、凄いんだよこれが。よく調べてるし、面白いし、コワイし」

「はあ、じゃあさっそくネットで見てみます」

「おお、そうしてくれ。その『ブラブラ日記』でも広めてくれよ。山岸さんの心意気をな」

「はあ、『お散歩日記』なんですけど…」

 というわけで、僕はさっそくネットでこの『パエトーン』を読んだ。そして、すぐにアマゾンで3冊注文した。ふたりの娘に贈るつもりだ。こちらを参照してほしい。

最初のページに、著者・山岸涼子さんからの挨拶文が掲載されている。
東北関東大震災で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。
そして、福島原発の最前線で命を賭して従事している皆様に、深い感謝と尊敬の念を禁じえません。
勇気ある彼らのためにも25年ほど前の作品ですが、全国の皆様に読んでいただき、今一度原発の是非を考えてもらえたらと思っております。
では『パエトーン』をどうぞごらん下さいませ。
2011年3月22日 山岸涼子
 無料配信で、全ページ掲載。ぜひ読んでほしいという著者の想いが伝わってくる。それに値する作品だ。描かれたのは1988年。まさに、チェルノブイリ原発事故の2年後である。

 政府や電力会社、それに原発推進派の学者(と称する人)たちの「あれはソ連だから起きた事故だ。日本の原発の安全性はソ連なんかと比べものにならない」という大合唱に、「そうか、日本の原発は安全なんだ」と国民が思い込まされていた時期に、これほど明確に原発の危険性をマンガで描くという、マンガ家としての職業生命を賭けた人がいたなんて知らなかった。驚いた。
 
 電力会社の強大な圧力は、ひとりのマンガ家の発表の場を奪うことぐらい簡単にやりかねない時代だった。その危険を冒してまで、山岸さんは描いたのだ。
 僕に、そのことを教えてくれたAさんに、感謝する。

 こんな素晴らしい人がいる一方で、首を傾げたくなるような報道もある。たとえば、例の「世論調査」だ。
 朝日新聞(4月18日付)では、こうだ。
◆原子力発電を利用することに賛成ですか。反対ですか。
  賛成 50%(男性62%、女性38%)
  反対 32%(男性27%、女性37%)
◆日本の原子力発電は、今後、どうしたらよいと思いますか。(択一)
  増やすほうがよい 5%
  現状程度にとどめる 51%
  減らすほうがよい 30%
  やめるべきだ 11%
 福島原発の惨状を連日の報道で知りながら、なお「現状維持」「増設」が計56%という数字。
 放射能など、見えないから怖くないというのか。未来の子どもたちに、どんな影響が出るか分からないという恐怖など、感じないというのか。そんな恐怖を承知の上で、なお「原発の電気」が欲しいというのか。

 これがこの国の民意なのか、ほんとうにそうなのか。
 僕がおかしいのか、この数字の人たちがヘンなのか?

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