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「原発」は「原爆」だったのかもしれない − 鈴木耕

 我が義母は90歳になった。頭はしっかりしているし、時々ハッとさせられるようなことを言う。でも、たまに言葉を間違える。どうも、発音しにくい言葉があるらしい。パピプペポの破裂音が苦手みたいだ。その義母がこう言った。

 「"原爆"が爆発したのよねえ。あんな怖いもの造って、よくみんな平気でいたわねえ、今まで」

 「あれは原爆じゃない、原発だよ」と言おうとして、ハタと考えた。そうか、あれは実は「原爆」だったのかもしれない…。


 日本はかつて、アメリカによって2発の原爆を落とされた。数十万人が死んだ。さらに放射能の後遺症で、ずいぶん長い間、人々が苦しんだ。いや、今でも苦しんでいる人たちがいる。確かにあの「原爆」は、アメリカが日本へ投下したものだった。

 だが、今度の「原爆」は、日本が日本へ落としてしまった…。

 我々は、かつて投下された原爆のように、「相手国」を恨むことはできない。恨むとするなら、そんな危険なものを「安全」と言いくるめて、この狭い地震国の海岸線に54基も並べ立てた電力会社と、それをろくな安全審査もせずに、言いなりに認めてきた政府や原子力安全委員会などという最低の組織を"怨む"しかない。

 そしてそれはまた、そんな宣伝に安易に乗っかって、深く考えもせずに華美な生活を享受してきた我々日本国民(ことに首都圏の住民)に跳ね返ってくる。まるで、あの東京電力の不気味なCM(ブーメランが手許へ返ってきて「燃料が再生産されるんだね」とかノー天気に言い合う親子)のように、我々国民に戻ってくる。

 我々自身が、この国を汚してしまったのだ。広島の原爆死没者慰霊碑には、こう刻まれている。

 「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」

 だが、我々は、過ちを繰り返してしまった。それも、全世界への取り返しのつかない巨大な過ちを…。安らかになど、眠れない。

 鎌田慧さんと電話で話した。

 「僕らはずっと原発に反対してきた。でも、事故は起こると思っていたけど、こんな終末的な大事故までとは…。そこが僕らの甘さ、残念だなあ…」

 鎌田さんは、少し暗い声でそう言った。

 僕もそう思った。鎌田さんたちと一緒に本も作った。雑誌や本の編集で、懸命に原発の危険性を訴えてきた。しかしそんな僕でさえ、心の底のどこかで、ここまでの大事故は起こるまいと高を括っていたような気がする。いや、起こっては欲しくないから、起こるまいと思い込もうとしていたのかもしれない。

 余震というにはあまりに大きな地震が続いている。4月7日には、最大震度6強の地震があった。

 この地震で、青森の東通原発、宮城の女川原発に大きな被害が出た。東通原発では外部電力の供給が2系統とも遮断、非常用ディーゼル発電機での冷却を開始した。ところが今度はその非常用発電機で燃料漏れが発覚、運転を止めざるを得なかった。

 外部電源が復旧したのでなんとか難を免れたが、かなり危険な事態だったことは間違いない。冷却に失敗すれば、福島原発の二の舞になる可能性すらあったのだ。しかも、のちに判明したところでは、燃料洩れは配管のパッキンを逆に閉めたという作業ミスだったという。

 どんなに精密で正確な機械やシステムであろうとも、作業手順ミスという人為的過ちは必ず起こる。人間が関わる限り「絶対的な安全」などあり得ない。

 女川原発では、非常用ディーゼル発電機2機のうち、1機は3月11日の地震で壊れたままだった。それが7日の余震のために外部電源3系統のうち2系統が途絶。ほとんど綱渡り状態の運転を続けなければならなかった。下に安全網が張られていないサーカスの綱渡り。

 震災からちょうど1ヵ月目の4月11日には、またしても震度6弱の大きな揺れが福島などを襲った。そして、またも福島第一原発の外部電源が喪失した。なんとか50分後には回復したというが、もはや原発の脆弱性は、誰の目にも明らかだ。

 今回の福島原発事故について、東京電力も原子力委員会も原子力安全委員会も原子力安全・保安院も(それにしても、なんでこんな似たような組織が乱立しているのか!)政府も、口を揃えて「想定外の大津波のせい」と言うのだが、7日の余震の際には津波など起きていない。それなのに、東通と女川の原発が、ここまで危機的事態に陥っていた。「津波のせい」との言い訳はもはや通用しない。

 福島原発が津波によって破壊された、と一般的には思われている。そのように、政府も東電も発表してきた。しかし、実は最初の大地震で格納容器や圧力容器がかなり損傷していた疑いも指摘されている。つまり、津波以前にすでに原発の核心部分が相当程度破壊されていたのではないか、ということだ。そこへ津波が押し寄せたことで、破壊が増幅されたのではないか、そう分析する技術者や研究者もいるのだ。

 もしそうだとすれば、日本国内の全原子力発電所を根底から見直さなければならない事態になる。

 今回の「原発震災」を受けて全国の原子力発電所は、津波対策として防潮壁を設置するとか非常用電源設備を小高い丘の上に設置する、などの対策を打ち出すという。だが、津波以前に大きな揺れで原子炉破壊が起きていたとするなら、そんな対策は役に立たない。すべての原発の「耐震基準」を、根底から見直すしか方法はない。

 実は、原子力発電所の「耐震基準」は、1981年に定められたのだが、これはあまりに規定が緩すぎるとして、2006年に「新基準」として改定されたものだった。しかし、それすら御用学者たちの暗躍で厳しい地震対策は骨抜きにされたのだ。

 もし、これ以降も原発を運転するという"狂った政策"を続けるというのなら、最低でも「新基準」ならぬ厳格な「新々基準」を早急に策定し、それにしたがって、徹底的な耐震設計のやり直しと補強工事が必要となるはずだ。御用学者たちの徹底的排除を行った上で新しい「安全委員会」を組織し直し、その委員会の提言にしたがった厳しい「新々耐震基準」の策定が求められる。

 だが、そんな厳しい「耐震基準」を実行するには、莫大な費用がかかる。電力会社としては、どうしても避けたい。徹底的な補強工事などに膨大な費用をつぎ込めば、「原子力発電は安価な電力供給のため」というこれまでのPRがウソだったことがバレテしまう。もはやそれは、東京電力だけの問題ではない。全国すべての(沖縄には原発はないが)電力会社に重くのしかかる課題なのだ。


 7日の余震による東通原発の事態を受けて、原子力安全・保安院は「全原発を対象に、非常用電源の複数確保を指示した」という。何を今更、と思う。そんな小手先の見直しで、なお原発の延命を図ろうというのか。心の底から腹が立つ。

 原子力安全・保安院とは、経済産業省の管轄下にある。つまり、国策として原発を推進するための組織だ。対して、原子力安全委員会は主に学者(!)たちを集め、国家からは独立して原発の安全性を考慮し、保安院や電力会社を指導チェックする機関(のはず)だ。

 さらに、内閣府(政府)直属の原子力委員会というのがある。これは、国家の原子力政策大綱を定め、エネルギー政策全般を定めていく機関ということになっている。つまり、この3つの原子力に関する機関は、それぞれに役割が違うはずだった。だが、果たしてそうか?

 原発をチェックする役目の原子力安全委員会の現在の委員長は、斑目(まだらめ)春樹という元東芝社員で元東大教授だ。東芝は、原発メーカーである。

 この人物、実は浜岡原発差し止め訴訟の裁判で中部電力側の証人として出廷、「さまざまなことをすべて考慮していたら、原発の設計なんかできません」とうそぶいていた男だ。彼が在籍していた東大工学部原子力工学研究科が、東京電力から莫大な研究費を貰っていたことも判明している。つまり、この斑目という人物は、かつて在籍した会社に利益をもたらし、東電からの現金を大学へ運び、原発の安全性なるものをろくに審査もせずにすべて肯定してしまうという、原発利権のあらゆる場面に顔を出す男だったのだ。

 そういう人物に、原発の安全性チェックなどできるものか。これが実に、原子力"安全"委員会なるものの正体なのだ。歴代の安全委員会の委員長を調べても、ほとんど同じような経歴だ。こんな機関がまともに機能するわけがない。


 東京電力が膨大な「研究費」を東大や東工大などの原子力関連の教授たちにばら撒いているのは、もはや周知の事実。大阪芸大の純丘曜彰教授のブログ(3月27日)によれば、最近でも、東大大学院工学研究科には、寄附講座という名目で5億円が渡っているという。

 原発震災後に、テレビに出まくって「楽観論」を述べ立てた学者(と称する者)たちの多くが、その恩恵にあずかってきたのだ。顔と名前を憶えておいてほしい。アイツらだ。


 「サンデー毎日」(4月24日号)は「亡国の『原子力村』A級戦犯5人の実名」という記事を掲載している。

 その5人として、記事で取り上げているのは、まず前述の斑目春樹、2人目が鈴木篤之・前原子力安全委員会委員長(元東大工学部教授で、現・日本原子力研究開発機構理事長に天下り)、3人目は保安院院長の寺坂信昭(東大経済学部卒の通産省官僚)、残るふたりは、東電の勝俣恒久会長と清水正孝社長。慶應大卒の清水を除けば、あとの4人は東大卒。東電が東大に金をつぎ込むのも無理はない。

 他にも、弾劾しなければならない人物はたくさんいるのだが、ここはとりあえず「サンデー毎日」に従っておく。


 この中でも、特に清水社長の醜態は目に余る。事態が深刻化すると、汚職疑惑の政治家のように病院へ逃げ込んだ。ようやく1ヵ月ぶりに姿を現すと、お供を大勢引き連れて福島へ。しかし、謝罪は県の幹部へのみで、実際の被害者たちの前には出向かなかった。しかも、佐藤雄平知事には面会すら拒否される始末。

 「いつ、被害者に謝罪するのか!」と記者たちに強い口調で質問されたが、「いずれ時期をみて」とボソボソと呟いただけで、ついにはっきりと謝罪の意向を示さなかった。さらに1〜4号機の廃炉は認めたものの5、6号機について口を濁した。この期に及んで、まだ会社の利益と自己保身に汲々とする。巨大独占企業の経営者の、これが真の姿だった。


 その東京電力のCMを、あなたは見たか? 最新ヴァージョンは、こんな具合だ。文字だけのテレビCM。
東京電力からのお知らせです。

節電と計画停電へのご協力、まことにありがとうございます。皆様のご協力により、電気の使用量は抑えられておりますが、依然として電気の供給量は、十分とは言えません。

エアコンや照明などの電気のご使用は極力控え、より一層の節電にご協力いただきますようお願い申し上げます。 東京電力株式会社
 これが全文である。僕の知る限り、この東電のテレビにおける文字CMは、3回、変っている。

 最初は「今回の東日本大地震の影響により、皆様に多大なご迷惑をおかけしております…」と、まるで東京電力には責任がないような文章だった。呆れた。さすがに批判があったのか、2度目は少し変えた。

 「福島第一原子力発電所の事故により、皆様に…」という文句が入った。だが、今回の3度目から、また原発の文字が消えた。姑息なやり方だ。それより何より、まだテレビCMを流し続ける東京電力の厚顔無恥さに呆然とする。そんな金があるなら、被災者対策へ1円でも多く振り向けるのが当たり前の感覚だろう。

 もうそんな感覚さえ失ったか。


 河野太郎衆院議員のブログ(4月5日)に、2007年の東電の広告費が286億円であると載っていた。そこに、次のような説明があった。
東京電力が供給量では電力全体の約三分の一なので、広告費を3倍すると電力会社全体では858億円、それに電事連などを足すと1000億円になると推計する研究者もいる。(略)地域独占している電力会社がこんな量の広告宣伝を必要としているのだろうか。
 まさに、指摘どおりだと思う。競争相手はいない。誰もが宣伝などされなくても電気を使わざるを得ない。それなのに、こんな莫大な広告費をなぜつぎ込むのか。

 答えは自明だ。原発の宣伝が主なのだ。何がなんでも「原発は安全」を国民に刷り込もうとしてきたのだ。そして、それは今回の事故が起こるまでは、見事に成功していた。

 特に、民放キイ局のニュース番組やワイドショーなどはほぼ全部といっていいほど、東京電力がスポンサーになっている。事故前だが、僕はある会合で、某大型報道番組のディレクターが「かなり自由に批判報道をやる番組ですが、こと原発に関しては、まず不可能です」と発言したのを、実際に聞いている。

 その後遺症は、多分いまでも残っているのだろう。なぜテレビ局は、東京電力のCMをいまだに流し続けるのか。まだ東電からのカネが欲しいというのか。このCMを断る勇気を持つテレビ局は、この国には存在しないのか。

 そして、この原発宣伝に積極的に手を貸してギャラを得てきた文化人や芸能人たちをも、僕は決して許さない。


 3月29日、福島県須賀川市で、ひとりの農業者が自殺した。有機野菜栽培に熱心に取り組んできた方だったが、放射能汚染に絶望したことが原因だという。4月9日、千葉県市原市では、原発事故以来やや精神的に不安定になっていたという42歳の男性が、自宅に放火して自殺した。

 哀しい推測だけれど、多分、同様の絶望からの自殺や、精神不安、ウツ症状などによる自殺は、これから多発するだろう。

 これらは、国策と東京電力による殺人だと僕は思う。


 むろん、懸命に現場で復旧作業にあたってくれている方々には頭が下がる。しかし、原発の危険性に目をつぶって推進し続けた電力会社経営陣と国の責任は、絶対に追及しなければならない。


 余震ともいえないような大きな地震が続いている。そして、震源が南下している気配も感じられる。
 
 「M9という巨大地震が、日本近海の他のプレートに重大な影響を及ぼしている可能性は否定できない。これから、同規模の巨大地震が起こることを、十分に警戒しなければならない」

 そう警告をしている地震(御用ではない)学者もいる。そして、その警告のもっとも当てはまりそうな震源域の真上にあるのが、静岡県御前崎市にある「浜岡原発」なのだ。

 もし東海地震が浜岡を直撃したら、日本は終わる。

 ついに、原子力災害最悪のレベル7にまで上げざるを得なくなった福島の惨状をこれだけ見ていても、なお「原発」にしがみつく連中がいることを、僕はまったく理解できない。

 切ないほどの思いを込めて、僕は繰り返し書く。

 せめて、終末が来る前に、まず

 浜岡原発を、停止せよ!



 だが、小さな希望もある。

 僕は10日の日曜日、東京・高円寺の「反原発デモ」に参加した。労働組合や政党、あるいは団体の呼びかけもない、ネットで告知しただけのデモだった。ところがそれは、呼びかけた松本哉氏らの予想を超えた人数となった。

 なんと1万5千人。それも圧倒的に若い人たち。

 「まず、浜岡原発を止めることから始めよう」と大きく書かれた横断幕が、目立っていた。

 嬉しかった…。



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