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エロだけの問題ではないらしい〜東京都の条例改定案をめぐって - どん・わんたろう

 違法な性行為や近親相姦を描いた漫画への規制なんだったら、まあ仕方ないじゃん。漫画家や出版関係者が、なんで強く反対するんだろう──。東京都が先日、「青少年の健全な育成に関する条例」の改定案を都議会に再提出した時、正直に言うとそう思った。

 「新たな改正案では、強姦など刑法に触れるような性行為や近親相姦など著しく社会規範に反する性行為を『不当に賛美、誇張』した漫画やアニメについて、18歳未満への販売規制の対象とする」(11月20日付・朝日新聞朝刊)。都庁の説明垂れ流しの記事だけ読めば、条例改定に反対する人は多くないだろう。

 でも、今月4日の「マガ9学校」で当事者らの話を聞いて、オブラートに内包された危険を認識させられた。条例改定が表現の自由を侵しかねないと懸念する理由が理解でき、考えを改めた。

 漫画家の石坂啓さんは「拡大解釈」を心配していた。「何を基準に判定するのか。どんな風にでも都合の良い解釈ができる。後づけで『引っかけ』ができる」「1ページ、1コマを切り取っただけだと、揚げ足取りをしやすい」と指摘した。

 女性の立場から強姦の被害性を訴えた漫画でも、強姦の場面を描いていれば規制の対象になってしまうかもしれない。その線引きが不明確なことを、石坂さんは強調した。条文が抽象的だから、一つひとつの作品が規制に該当するかどうかを決めるのは、すべて都庁の役人ということになる。政治の圧力を受け、恣意的に判定される可能性だって否定できないだろう。

 そう言われれば、漫画・アニメの設定をいちいち調べて規制対象かどうか決める作業は、冷静に見るとかなりバカバカしい。たとえば、父の再婚相手と息子との性行為を描いた場合。もし再婚相手の女性が父と入籍していない時は「著しく社会規範に反する」のか、同居しているだけでダメなのか。他人だと思ってセックスした男女が、のちのち実は兄妹だと判明したストーリーは? 真面目に判定に取り組む役人さんたちの姿を想像すると、可笑しくなってくる。

 そもそも漫画やアニメって、現実から離れて妄想を楽しむのが目的である。当たり前のことを当たり前に描いたところで、面白くも何ともない。「誇張」して表現するのは当然のことだ。その誇張が「不当」かどうか、どこまで認められるのかなんてことまで、都庁の役人のハラ次第で決められていいのか。

 藤本由香里・明治大准教授(漫画文化論)は、いったん条例が改定されてしまえば「性行為」から適用範囲が広げられていく恐れに言及した。「違法」というところに焦点をあてると、殺人や泥棒だって規制の対象にされかねない。「ルパン三世」や「ONE PIECE」も不健全図書になってしまう。人殺しの請け負いを生業とする「ゴルゴ13」なんて言語道断だろう。

 都は「18歳以上への販売は自由だから、表現の自由は侵害しない」と主張している。でも、規制対象にされてしまえば、その作者には栄えある「変態漫画家」の称号が授与されるに等しい。おそらく、メジャー系出版社のすべての仕事から干されるだろう。実質的に漫画家の生殺与奪につながる規制であり、表現を萎縮させる効果大なのだ。

 すでに「自主規制」も見られる。午前2時、3時にテレビで放映されているアニメ番組では、女子高校生のパンチラシーンにボカシが入ったり、入浴シーンでもうもうの湯気が胸を隠したりしている。18歳未満の登場人物による性行為を規制しようとした、今春の条例改定案(都議会で否決)を意識したものだろう。あまりに不自然で、かえってじっくり見てしまうが。

 2度にわたる条例改定の動きが大きな社会問題になり、規制を求める声があることは漫画家や出版社にしっかり伝わった。都庁にとって、それで十分ではないだろうか。マスコミ各社、同じだと思うが、最近はちょっとでもクレームのつきそうな心配がある作品や記事は、まず掲載されないのだから。それに、良くも悪くもインターネット上に情報が溢れ、青少年が簡単に卑猥な画像にアクセスできる時代に、漫画・アニメの図書の規制にさほど意味があるとも思えない。条例改定に固執する必要はないんじゃないか。

 「転校生」「さびしんぼう」などの著者で児童文学作家の山中恒さんは、マガ9学校で、戦争を賛美する児童書・絵本しか出版できなかった戦時中の統制について語ったうえで、今回の条例改定の動きに触れ、「子どもの本も漫画も、常に『政治』に利用される危険がある」と警鐘を鳴らした。そして、「何も知らないで大人になった方が危険」「自由な魂で判断できる大人になってほしい」と。規制強化の是非を考えるにあたって、一番大事な視点かもしれない。

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