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女性看護師が風俗店でバイトしたら懲戒処分を受けるのは当然か? - 榊 裕葵

5月16日付の毎日新聞が以下のように報じている。
大阪府立母子保健総合医療センター(大阪府和泉市)を運営する地方独立行政法人・府立病院機構は15日、風俗店でアルバイトをしていた同センターの女性看護師(24)を停職1カ月の懲戒処分にした。(2014/5/16 毎日新聞)

懲戒処分は本当に当然のことなのか

懲戒処分の理由は、「内部規則で原則禁止している兼業に当たると判断した」とのことであったが、本件は世間一般においても、「懲戒処分されて当然。」と直感的には受け止められているであろう。

しかしながら、日本国憲法は合法な範囲の風俗業に従事することを含め、「経済活動の自由」を認めている。今回はたまたま女性看護師の勤務先が府立病院であり、身分が公務員だったので、地方公務員法38条に定められた公務員の副業禁止違反として、法律上懲戒処分は正当化された。しかし、もし、この女性看護師の勤務先が民間の病院であったとしても、同様に懲戒処分は正当化されるのだろうか、というところが私の問題意識の出発点である。

というのも、報道によると、女性看護師が風俗店のアルバイトをしていたのは「勤務時間外」とのことである。「勤務時間内」にこっそり抜け出して風俗の仕事をしていたと言うならば、職務専念義務違反として完全に懲戒の対象であるが、雇用契約に定められた勤務時間外は本来、何をしようが従業員の自由なはずである。

常に中立性や品位の保持が義務とされる公務員ならばともかく、民間企業が勤務時間外の行為で従業員を処分するのは、従業員の私生活に対する過度の干渉ではないだろうか。雇用契約は1日8時間のはずなのに、なぜ24時間365日、会社の干渉を受けなければならないのか、ということに私は着眼したいのだ。

この点、判例等で確立されてきた考え方として、法的に民間企業が従業員の勤務時間外の副業の制限を正当化できるのは、以下の3つの場合に限られるとされている。

副業禁止理由① 機密保持

第1は、企業機密が漏洩するリスクがある場合である。

例えば、楽天の従業員が、ネットショップを立ち上げた友人をアルバイトで手伝っていたことが発覚したとしよう。これは懲戒処分を受けて当然のケースである。楽天のノウハウが友人のネットショップに流出してしまうリスクがあるからだ。

もし、友人が立ち上げたのがネットショップではなくラーメン屋であれば、基本的には競合関係にないであろうから、それを手伝ったとしても、少なくとも「企業機密の保持」という観点で懲戒処分をすることは許されないであろう。

今回の女性看護師のケースにおいても、病院と風俗店の間には通常、競合やノウハウが流出する関係はないから、機密保持の観点から女性看護師が処分されることは正当化されないと考える。

副業禁止理由② 労務提供の質の維持

第2は、労務提供の質の低下が懸念される場合である。

長時間の副業をした結果、疲労によって集中力を欠いたり、作業効率が落ちたりしたら、会社としては雇用契約の本来の趣旨に沿った労務の提供を受けているとは言えない。会社が雇用契約を結ぶ際に前提としているのは、心身が完全な状態での労務の提供である。

今回問題となった女性看護師の件に関して言えば、病院を退社した後、深夜まで連日連夜風俗店でアルバイトをしていたとなれば、医療過誤などが叫ばれる現在、充分な休養をとらずにアルバイトをし、リスクを発生させているとして懲戒処分は可能であろう。

しかしながら、実際に女性看護師が副業で得た収入は、9ヶ月で160万円ということなので、月当たりにして約18万円である。仮に風俗店からのキャッシュバックが1時間1万円とするならば、月に18時間労働、1日当たり1時間未満であるから、よほど特殊なサービスを提供していたということでない限り、直ちに疲労が蓄積するとまでは言えないであろう。

副業禁止理由③ 名誉・信用の毀損防止

第3は、会社の名誉や信用を傷つけるリスクがある場合である。

従業員がその副業をしていることが社会的に明るみに出た場合、会社が世間的な名誉や信用を失うかどうか、という点である。

例えば、弁護士法人の社員が闇金融の顧問をしていたとしたら、懲戒処分を受けても当然文句は言えないであろう。

この点、今回のような風俗店のアルバイトは非常にデリケートな問題である。私個人は、風俗で働く女性は卑下する気持ちは全くない。

しかしながら、世間一般的な感情として、「風俗店で働いている看護師がいる病院」という評判が立ったら、売上に影響することは避けられないであろう。したがって、今回の事例は、女性看護師の勤務先が民間の病院であったとしても、この第3のケースに該当するものとして、懲戒処分を受けることはやむを得ないというのが法的な結論である。なお、懲戒処分の内容である「停職1ヶ月」も、本業を怠ったわけではないことを考えると、処分の重さとしては妥当な範囲であると考える。

総括

今回は、風俗店でのアルバイトという極端な事例に基づいた話であったが、公務員の場合はともかく、民間企業において副業に関して考える場合、「勤務時間外に従業員は何をしようが自由」というのが大原則である。会社は無制限に副業を禁止することはできず、会社の業務に支障が出たり、会社の利益や信用を損なったりするような場合に限ってのみ、副業禁止規定は適用されるということを覚えておいてほしい。であるから、従業員の視点から言えば、必要以上に副業をすることに及び腰になることは全くないのである。

終身雇用や年功序列が崩壊したこのご時勢、自分や家族の生活を守るため、副業を考える方は少なくないであろう。もはや1つの会社に人生の全てをかけるのは非現実的であるし、会社側にとっても、経営が苦しくなったとき、従業員にテコでも動かないほどしがみつかれるのは不本意であるはずだ。

そうであるならば、お互いの利益のために、会社は副業を頭ごなしに否定せず、また従業員側も無秩序に副業を行うのではなく、それぞれの会社において労使で話し合って、副業のガイドラインを共有していくことが、雇用の多様化が進んだ現在において、副業禁止規定の目指すべき姿ではないだろうか。

《参考記事》
会社は使用者責任のリスクにどのように備えるべきか
中小企業の経営者が知っておきたい有給休暇対応 4つのテクニック
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特定社会保険労務士・CFP
榊 裕葵

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