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中高年の薬物問題

福岡県では57歳の小学校長が、そして神奈川県では40歳の警察官が、覚せい剤事犯として逮捕されたというニュースが相次ぎました。

教職や警察官という、人々の模範とならなければならない立場の人たちが、しかも分別盛りの年代で、覚せい剤などに手を出したことは非難に値します。でも、この年齢まできちんと生活して、社会的な立場も築き上げた人たちが何故・・・と首をかしげる人もあることでしょう。

医師、法律家、国会議員、経営者・・・これまでも、いろんな立場の人たちが薬物事件で逮捕されてきました。人生経験を積み、相応の社会的な立場も手に入れた人たちが、中高年になってふと生きづらさを感じた時、心の空洞に覚せい剤という魔物が入り込んでしまったのでしょうか。そういえば、のぞきや盗撮、痴漢といった犯罪でも、分別盛りの人たちが関わるケースは珍しくありません。

仕事の重圧、体力の衰え、疎外感・・・私も中高年の1人として、その生きづらさは分かるのですが、でも、失うものが大きすぎます。

●覚せい剤乱用は、いまや中高年の問題

薬物乱用といえば、青少年の問題と考える方も多いでしょう。たしかに、薬物に好奇心を抱いてつい手を出してみたくなるのは、青少年期にありがちなことで、かつては、薬物は青少年の問題と言われてきました。

ところが、最近の日本では、覚せい剤乱用は中高年の問題になりつつあるのです。

2000年を過ぎた頃から数年間、日本に流入する覚せい剤が減り、末端での密売価格が高騰した時期があり、覚せい剤乱用者が目に見えて減少したのですが、この時期にとくに著しく減少したのが若年層でした。乱用歴の浅い若者から順に、覚せい剤から離れていったのです。

その後、乱用市場に供給される覚せい剤は増え、密売価格も下落気味ですが、一度覚せい剤離れを起こした青少年層はその後も減り続け、2013(平成25)年の検挙者では、10代・20代の青少年が占める割合はわずか15%。それに代わって増えているのが中高年で、40・50歳代の中高年が検挙者の半数以上を占めるまでになりました。
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↑覚せい剤事犯検挙者の年齢構成
警察庁「平成○年度の薬物・銃器情勢」のデータに基づいて私がグラフ化したもの


●中高年の覚せい剤乱用者とは

警察の検挙者データをみると、年齢が高くなるほど、再犯者(ここでは、何らかの検挙歴のある人をいいます)の割合が増え、50歳以上の年齢層では、検挙者の8割近くが検挙歴のある人で占められています。
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↑覚せい剤検挙者の初犯者・再犯者の割合
データは警察庁「平成25年の薬物銃器情勢」より


中高年の覚せい剤事犯者の多くは、若いときに使い始め、何度か逮捕され、服役もして、それでもまだ覚せい剤と縁が切れないといった人たちです。覚せい剤事件での逮捕・服役を繰り返し、人生の半分ほどを刑務所や留置場で過ごしながら年齢を重ねた人もあります。仕事も、家族も失い、付き合うのは覚せい剤にからんだ仲間だけ。なけなしの生活保護費を覚せい剤に費やしてしまう人たちも少なくないのです。

いっぽう、少数派とはいえ、中高年になって、人生で最初の逮捕に遭遇する人たちもいます。2013(平成25)年の覚せい剤検挙者のうち、40歳代では約30%、50歳以上では約20%の人は、初犯者(これまで警察に検挙されたことのない人)です。しかも、この数年、ごくわずかながら、初犯者の割合が増えているのです。

なかには、長年覚せい剤を使ってきたけれど、たまたま捜査網にひっかからずにいた人もあるでしょう。でも、大半は、中高年になって覚せい剤に深入りするようになってしまった人たちだと思います。

それまでの人生で、まったく薬物と接点のなかった人が、中高年になっていきなり覚せい剤を使い始めることは、めったにないでしょう。若いころ多少経験したことがあったり、友人に薬物を使い慣れた人がいたり、あるいは最近付き合い始めた女性に勧められて、といったケースもありました。ほんのちょっとした接点さえあれば、覚せい剤を手に入れるのは、そう難しいことではありません。まさか地域の密売人から買うわけにいかない場合も、インターネットを探せば密売ルートにたどり着くのは簡単です。

どんなに用心深い人でも、覚せい剤を使った直後は、顔や態度に、明らかに異様な様子が現れることでしょう。だから、使う場所は家人の目の届かないホテルや車の中を選ぶことが多いはずです。数時間から1日程度を過ぎてしまえば、もう普通の状態に戻って、人に気づかれる心配はなくなります。

覚せい剤を使い続ければ、やがては使用を制御できなくなり、生活に影響が出始めるのですが、最初の段階で、家族や周囲の人たちが、覚せい剤使用に気づくことは少ないと言えます。でも、何やら秘密めいた行動や隠し事が増えたという印象を持つことは、けっこうあります。

●問題は薬物よりも、その背景

もしも、社会的な立場のある中高年者に覚せい剤問題が浮上したとすれば、それは、決して好奇心といった軽いものではなく、仕事、健康、家庭、人間関係などに切羽詰った危機が訪れていると受け取るべきでしょう。

若者が好奇心で手を出した覚せい剤なら、厳しく叱ることで解決することもありますが、切羽詰った危機感から使い始めた薬物の場合、叱ったり脅したりで解決するはずはありません。覚せい剤だけに気をとられるのではなく、広い意味で、メンタルヘルスを取り戻すために、思い切った行動が必要です。

でも、覚せい剤問題が露呈してから解決策を求めるよりは、覚せい剤に手を出す前に、心の危機を誰かが読み取って、手をさしのべることができたら、どんなにいいでしょう。中高年のメンタルヘルスについて、職場でも、もっといろんな手だてが必要ですね。人生の崖っぷちに追い詰められた中高年者が、覚せい剤に救いを求めるとしたら、あまりに哀れです。

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