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その“絆”に障害者は含まれているのか? 震災死亡率2倍の現状を考える

東日本大震災の発生は、私たちに多くの課題と教訓を残しました。そのなかの一つに、「障害者と防災」というテーマがあります。先の震災では、障害者の死亡率が住民全体の約2倍に達したという調査結果があるのです。

そんな現状を改善しようと4月22日、23日に仙台市で開催された「障害者インクルーシブな防災に関するアジア太平洋会議」には18か国から約130人が参加。日本財団と国連アジア太平洋経済社会委員会、国際リハビリテーション協会が主催し、各国の障害者支援団体や政府関係者などが出席しました。

アジア太平洋地域は自然災害が発生するリスクが高いことに加え、6億5000万人もの障害者が生活していると推計されています。こうした方々が「2倍」のリスクに晒されることを防ぐために、各国が連携して国際的な枠組みを作っていく必要があるのです。

会議で議論された課題点は多岐に渡りましたが、今回は主に「災害が起きた際の避難」について取り上げたいと思います。

防災無線が聞こえない聴覚障害者も

日本では東日本大震災以降、防災に対する意識が高まった人は多いと思いますが、地域の防災について考えたとき重要になるのが、障害者や高齢者など要支援者の「避難」をどうサポートするかということです。

しかし、サポートが行き届かず、障害者が逃げ遅れてしまうケースも起こっています。

宮城県女川町に住む聴覚障害者の男性は地震があった後も自宅に残り、部屋に散乱した家具を片付けていました。津波の危険を知らせる防災放送が聞こえなかったからです。

この男性は幸いにも、首まで水に浸った状態のまま割れた窓ガラスから脱出して2階に避難することができたため、一命を取り留めました。

東日本大震災において障害者はどのように避難情報を入手したのでしょうか。日本障害フォーラムと陸前高田市が実施した調査によると、防災行政無線からの割合が20.6%と最も高くなっています。

しかし、女川町の男性の場合は聴覚に障害を持っていたので、無線での避難指示が届くことはありませんでした。「防災無線」というインフラの設計思想に、聴覚障害を持つ人の存在が含まれていなかったのです。

「障害者インクルーシブな防災」を考える上で、象徴的な出来事だったと言えます。

障害者の防災とプライバシー保護の問題

となると重要になってくるのが、「人づて」の情報です。前出の調査でも福祉サービス事業者から避難情報を得た障害者が15.2%もいたほか、近隣住民からが14.3%、家族・親戚からが13.9%と「人」を介した情報入手が高い割合になっています。

歩行ができず自力での避難が困難な障害者も多いため、こうした人的ネットワークを使ったサポートは非常に重要です。

しかし、我が身を振り返ってみて、地域のどこに障害者の方が住んでいるかを把握している人はどれだけいるでしょうか。今後、東海や関東など都市部での地震発生が予測されるなか、いざという時に人的ネットワークが有効に機能するかどうか疑問が残ります。

2013年に改正された災害対策基本法では、避難にサポートが必要な障害者や高齢者などの名簿を作成し、消防や民生委員などに情報提供することが盛り込まれていますが、本人からの同意を得ることが前提となっているため、自治体によって把握状況にばらつきが出ているようです。

一方、会議に出席したフィジー政府の関係者から、同国では障害者の年齢、性別、障害のタイプなどを把握し、マッピングしているという報告がありました。障害者がどこに住んでいて、どのような支援が必要かを共有しようとする試みです。

当然、プライバシー保護の問題もあるため、行政や第三者が介入することに抵抗感を感じる人もいると思います。今後、プライバシー保護と防災の観点にどう折り合いを付けるのかが課題になるでしょう。

また、スマートフォンなどを使い、障害者にも伝わるように避難情報を提供する技術の開発も進めなければなりません。

「幻聴さんも一緒に逃げよう」 北海道浦河町の取り組み

「避難」については、精神障害などをかかえた当事者の地域活動拠点「浦河べてるの家」の取り組みが、北海道浦河町からサテライトで報告されました。

太平洋に面した浦河町はたびたび地震や津波などの災害に見舞われ、東日本大震災が発生した際にも2.8メートルの津波が来襲しました。

そのため「べてるの家」では、災害時に速やかに避難できるよう10年前から訓練を実施。過去の災害記録から、「4分以内に10メートルの高さに避難」を目標としたそうです。

訓練は具体的に、暑い夏、寒い冬、雨の日、雪の日、暗い夜などあらゆる場面を想定して行われました。また、精神薬を含めた避難グッズも事前に準備し、災害に備えました。

訓練の中で課題も浮き彫りになります。精神障害を持つ人のなかには「この地震はお前のせいで起きた地震だ。だから、逃げちゃいけないんだぞ」などの幻聴が聞こえ、動けなくなってしまう人もいることがわかったのです。

そこで考え出されたのが、「幻聴さんも一緒に逃げよう」と呼び掛ける方法。そうした度重なる工夫が功を奏し、東日本大震災発生時には全員が自主的に避難できたと言います。

印象的だったのは、浦河町の担当者が「障害者は支援対象であるだけではない。持てる力を発揮して自分自身を助けることができる。しかし、それは個人の努力だけではなく、自治会が開く防災訓練や働く場、仲間をとおして実現するんです」と話していたこと。

障害と防災について考える際、ともすれば「弱者を助ける」という発想のみに陥ってしまいがちです。しかし、本当の意味での「障害者インクルーシブな防災」を実現するためには、障害者が自主的に避難できる訓練や仕組みづくりに目を向ける必要もあるのです。

また、会議のなかでも指摘がありましたが、今後は障害者や高齢者に関係する施設を高台に作るなどの配慮が必要になるでしょう。

避難所でトラブルになるケースも

さらに、「避難所での生活」も障害者にとって大きな課題になります。障害への理解が得られずトラブルになるケースも実際に起こっているのです。

浦河町からも、「避難ができても幻聴や緊張によって避難所に居続けるのが難しいメンバーが何人かいた」と報告がありました。

また、仙台市の藤本章副市長も「聴覚障害や精神障害、発達障害など見た目には分かりにくい障害がある方は必要な情報が得られず、やむなく自宅に戻らざるを得なかったケースもあった」と明かします。

すでに被災した障害者向けの仮設住宅支援は日本財団などによって行われていますが、障害への理解向上を図ると同時に、こうした取り組みが広がっていくことも期待されます。

今後は、今回の会議で議論された成果を「第3回国連防災世界会議」(2015年3月)で策定される「国際行動枠組」に反映させることを目標に、提言活動を展開していくそうです。

震災から3年。震災直後は「絆」や「つながり」の大切さが叫ばれましたが、そうした「枠組み」のなかに障害者がしっかり含まれているのか。今一度、考え直す必要があると思います。

多くの犠牲のもとに得られた教訓を、未来に受け継いでいかなければなりません。

(取材協力:日本財団)

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