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靖国神社みたままつり

朝から気が重い。靖国神社の「みたままつり」に行かなければならないからだ。

ゼミの一環であり、この行事を行き先に選んだのは学生たちである。ネットで検索したら見つかった、ちょうどお祭りをやっているみたいだから、という理由であった。案の定というべきか、学生たちは靖国について何も知らなかった。

10年ほど前、敬愛するある先生から、やはりこの種の無知について聞いたことがある。その無知の状態のところに(当時流行っていた)復古調のナショナリズム言説が注入されると、学生が簡単に感化されて困ると嘆いておられたのだった。

いまのゼミ生のようすをみていると、それとも少しちがう。そのような偏った知識さえもない。修辞ではなく、文字どおり、なんにも知らない。知らないという自覚もないし、知らないことがまずいことだという意識もうすい。無邪気に無知なのだ。

靖国に行きたいと学生たちが言いだしたとき、ぼくはひとつ条件を出した。あらかじめ靖国について勉強していくのなら、ということであった。当然といえば当然の話である。

そして、学生たちの名誉のためにいっておけば、かれらはこの2週間、よく勉強した。本を探し、読み、発表しあい、いくつかのドキュメンターを見た。たかだか2週間の勉強で得られる知識などしれているし、付け焼き刃であることは否めない。じっさい、この問題がじぶんたちにダイレクトにつながっているという感覚をもつことはできていないだろう。それでも、かれらの努力は認められてよいとおもう。

それにまた、無知の責任をすべて学生に押しつけるのはまちがっている。こうした事柄についてかれらに語ることをしてこなかったのは、大人のほうだからだ。見ず語らず考えず。学生たちの無知は、現代の日本の社会のあり方のひとつの帰結である。

いっぽう、無知であることは、靖国神社の側からみれば、好都合でもある。

「みたままつり」を宣伝するポスターをみれば、一目瞭然だ。このポスターは駅構内など都内のあちこちで見ることができる。


引用元:http://www.yasukuni.or.jp/news_detail.php?article_id=0084

ごらんのように、このポスターには、浴衣を着た若い女性がこちらを向いてにっこり微笑む写真が大きくあしらわれている。あたかも、「ねぶた」か「竿燈」のように、観光化された伝統的な夏祭りのひとつであるかのような描かれ方だ。じっさい「ねぶた」の奉納が催されるし、多数の屋台が出たりもする。何も知らなければ、無邪気に「夏祭り」を愉しむ気分でやってくるであろう。毎年30万の人出があるそうだ。

けれども、こうした伝統的な神社の「夏祭り」をおもわせるような親しみやすさと愉しさの演出は、けっして靖国神社の変質を意味しているのではない。むしろ逆だ。くだんのポスターを見ても、それは明白である。靖国側の主張は明確かつ強烈に折り込まれている。写真に添えられた「英霊(みたま)に感謝と祈りの夏祭り」というコピーを見ればよい。

いうまでもなく、「みたま」とは「英霊」、つまり帝国日本のために亡くなったひとびとのことである。

靖国神社とは、かれらを祀り慰霊するための「国営神社」であり、同時に、帝国主義のために「国民」の生命を動員することを奨励し正当化するための国家宗教装置であり、それゆえに蹂躙された側にとっては侵略の象徴でもあった。「みたままつり」のポスターに添えられたコピーは、そのような戦前・戦中期における靖国の性格が、現在においてもまったく変更されていないことを示している。いや、それは絶対に変更されえない性質のものなのだ。なぜなら、それこそが靖国神社の存在理由なのだから。

もちろん、靖国神社をとりまく社会は、かつてとは大きく異なっている。そのなかで、いかにして靖国の本質を「護持」していくか。そのために戦後の靖国神社がとった戦略は、しばしばいわれるように、国家神道をあたかも伝統的な神道と地続きであるかのように偽装することであった。「みたままつり」とは、そのためのひとつの仕掛けと理解するほかないだろう。

さて、そんなわけで、重いものをかかえるような気持ちで、これから靖国神社に出かけていく。願わくは、この重さの幾ばくかでも、学生たちと共有できるようになってくれることを。

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