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柄谷行人『世界史の構造』

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世界史の構造
世界史の構造

この本は、3年前に読んだ『世界共和国へ資本=ネーション=国家を超えて』(岩波新書)の内容を敷衍しつつ、より詳細に記述したものとなっている。これまでのカント、マルクスについての研究を世界史という視点から肉付けし、いわば「柄谷史観」というべきものの総まとめとしての位置づけを有している。いいかえれば、本書はあくまで「総まとめ」であって、それを超えるような意義をその中からみいだすことはできない。現時点の社会・経済を考えるという視点からは、本書の記述から何らかのリアリティを感じ取ることは、少なくとも現時点ではできなかったように思う。*1

ここでいう「柄谷史観」とは、世界史を「交換」という構造を中心に据えて捉えるものであり、それによって、国家やネーションは、資本主義経済(資本の蓄積過程)とは独立した「上部構造」としてあるのではなく、資本=ネーション=国家というわかちがたく結びついたもの(ボロメオの環)であることが指摘される。

交換には、市場を介した商品交換(交換様式C)のほかに、互酬(交換様式A)、再分配(交換様式B)という二つの形態がある。商品交換は、共同体と共同体の間に成立する。では、共同体の内部に交換はないのかといえばそうではなく、贈与と返礼という互酬がある。ここでいう共同体とは、氏族、血族や、ときにひとつの国家を形成する民族のように、そこに属する構成員が一種の「愛」によって結ばれた関係(メンバーシップ)であると考えることができよう。共同体と共同体の間には、商品交換よりも前に暴力的な略奪が起こる可能性がある。そしてこれが継続的なものである場合、貢納制国家が成立する。そしてこの関係を継続的に続けるためには、さまざまな意味での再分配が必要となる。このように柄谷は、間−共同体的な空間の中に生じる脅迫を起源として再分配という交換の形態が生まれることを指摘している。

柄谷は、国家に先行して再分配という交換様式が存在するとし、国家の成立を共同体と共同体の間といういわば「外部」からの視点から捉えている。実際、国家の本質とは戦争のような「例外状態」において表れる。そうした観点からみると、国家を主権者である市民らの社会契約として捉えるジョン・ロックの国家観はナイーヴである一方、主権を得る方法としては「獲得されたコモンウェルス」という「恐怖に強要された契約」がより根源的であることを主張した点において、トマス・ホッブズが再評価される。

柄谷はさらに、ここに交換の第四の形態として交換様式Dという、いまだ成立し得ていない交換の形態を持ち込む。この交換様式は、再分配という国家の原理とは対極にある。また、個々人が共同体の拘束から解放されているという点では商品交換とは似ているが、同時に、それがもたらす競争や格差に対して互酬的なものを目指している点で異っている。これは理念であって、現実には存在しない。柄谷はこれを「交換様式Aの高次元での回復」であるという。
交換様式Dは、先ず古代帝国の段階で、交換様式BとCの支配を越えるものとして開示された。それはまた、そのような体制を支えるだけの伝統的共同体の拘束を越えるものでもある。ゆえに、交換様式Dは交換様式Aへの回帰ではなく。それを否定しつつ、高次元において回復するものである。交換様式Dを端的に示すのは、キリスト教であれ仏教であれ、普遍宗教の創始期に存在した、共産主義的集団である。それ以後も、社会主義的な運動は宗教的な形態をとってきた。

互酬とは、通常の考えでは、その広がりには限度があり、しょせんは共同体の中の構成員の間にしか成立し得ないものである。しかし柄谷は、マーシャル・サーリンズの理論を援用することで、その可能性をより広く捉えようとする。互酬には、世帯の中でみられるような無償的な善意に満ちたものから、部族間圏域の経済的駆け引きや「血讐」のような否定的な側面を持つものまで、さまざまなものがある。この後者の側面からみると、互酬は必ずしもその広がりに限度があるものとはいえなくなり、それによって、国家のようにハイアラーキカルな構造をもつものとは異なる、より高次の共同体が成立する可能性がみえてくる。互酬は、贈与する義務と、それを受け取り返礼する義務を部族間に生じさせ、それによって諸部族間には強い紐帯が生じる。これは、国家のようにその内側に不平等が生じ得る関係とは異っており、同時に、贈与の力によって不平等が抑制されるような社会的紐帯が形成される。

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