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第二次安倍内閣がめざす労働の規制緩和、派遣法改悪(その1)

〔以下の論考は、『学習の友』5月号に掲載されたものです。2回に分けてアップします。〕

はじめに

 第2次安倍内閣は労働政策や労働法の概念を全面的に転換しようとしています。それらはこれまで、経営者の専横から労働者を保護し、労働力の維持と再生産を可能にする政治的法的枠組みでした。しかし、これからは経済の成長戦略を加速させることを目的に、経営者が最も活躍しやすくするための手段に変貌させられようとしています。
 そのためには、政策を遂行する官僚などのためらいや、既得権を奪われる労働者の抵抗などが邪魔になります。そのために考え出されたのが、労働者の代表などを排除した戦略的な政策形成機関で大枠を決め、その結果を労働政策審議会や国会審議に押し付けるというやり方です。
 このような方向性と方法は、実は今回が初めてではありません。小泉内閣による新自由主義的な構造改革とその下で強行された労働の規制緩和や労働者派遣法の改悪などの先例があります。小泉内閣の官房長官として近くでそれを学んだ安倍首相は、同じようなやり方で労働の規制緩和や派遣法の改悪を実行しようとしています。

労働規制緩和の再起動

 本来であれば、安倍首相は第1次内閣でこれらの政策を実行したかったでしょう。しかし、その時は参院選で大敗して1年で政権を投げ出す結果となり、時間的な余裕がありませんでした。加えて、小泉構造改革による貧困の増大と格差の拡大によって06年頃から潮目が変わり、そのまま規制緩和政策を継続することができませんでした。
 ところが、一昨年末の総選挙での民主党大敗と自民党の政権復帰によって、再び出番が回ってきたのです。こうして返り咲いた安倍首相は、先ずデフレ不況からの脱却を掲げ、アベノミクスと称されるような経済政策に取り組みました。大胆な金融緩和、大規模な財政出動と並ぶ「三本の矢」の一つに掲げられたのが成長戦略であり、その幹となったのが労働分野を含む規制緩和政策です。
しかし、第一次内閣の失敗に学んだ安倍首相は、7月までは右翼的なタカ派政策や急進的な規制緩和政策などは手控えていました。政策面での「安倍カラー」が全面的に強まってくるのは、参院選で勝利して衆参両院の多数が異なる「ねじれ」現象が解消してからです。こうして、労働分野での規制緩和政策、とりわけ労働者派遣法の改悪に向けた具体的な動きが8月以降に強まっていくことになります。

舞台装置としての戦略的政策形成機関

 労働側の代表を排除して政策の大枠を形成するために、安倍内閣は経済財政諮問会議と規制改革会議を再起動させ、日本経済再生本部と産業競争力会議を新設しました。このうち、小泉構造改革の規制緩和では経済財政諮問会議が大きな役割を演じましたが、今回は産業競争力会議と規制改革会議が主な舞台となっています。
 その理由は、小泉内閣の下で構造改革の旗を振った竹中平蔵元経済財政担当相が経済財政諮問会議の民間議員になることを拒まれ、産業競争力会議の方に回ったからです。竹中氏は人材派遣会社大手のパソナの会長ですから、あまりにも利害関係が露骨だと考えられたのかもしれません。
 もう一つの規制改革会議には、大田弘子政策研究大学院大学教授が議長代理として送り込まれました。第一次安倍内閣と福田内閣時代に竹中氏の後任の経済財政担当相として構造改革の旗を受け継いだ経験が買われたということでしょう。
 こうして、戦略的政策形成機関を舞台に、官邸・経営者・御用学者が一体となって横槍を入れ、政策形成を歪めるという構図ができあがりました。それによってどのような政策変更が狙われているのかについては、規制改革会議の下に設置された雇用ワーキング・グループで提起された「検討すべき事項」(表1)と同グループの「報告書」で提案された「具体的な規制改革項目」(表2)をご覧下さい。

表1 規制改革会議に提案された事項

① 企画業務型裁量労働制にかかる対象業務・対象労働者の拡大
② 企画業務型裁量労働制にかかる手続きの簡素化
③ 事務系や研究開発系の労働者の働き方に適した労働時間制度の創設
④ フレックスタイム制の見直し
⑤ 多様な形態による労働者に係る雇用ルールの整備
⑥ 労働条件の変更規制の合理化
⑦ 専門26業務における「付随的業務」の範囲等の見直し
⑧ 派遣元における無期雇用労働者に関する規制の緩和
⑨ 医療関連業務における労働者派遣の拡大
⑩ 有料職業紹介事業の見直し
⑪ 高卒新卒者採用の仕組みの見直し
⑫ 保育施設の充実等
⑬ 労使双方が納得する解雇規制の在り方

表2 「具体的な規制改革項目」

1 ジョブ型正社員の雇用ルールの整備
2 企画業務型裁量労働制やフレックスタイム制等労働時間法制の見直し
3 有料職業紹介事業の規制改革
4 労働者派遣制度の見直し

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