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STAP幹細胞が本当に有っても、社会的インパクトは大きく無い。

今日の笹井さんの会見、アイドルタイムに少しだけ見て、会見の為に用意されたペーパーも読んだ。責任逃れだとか官僚答弁だとか色々な意見がある様だが、正直僕には枝葉末節に聞こえる。重要なのは、

1)多能性と増殖能を併せ持つSTAP幹細胞は本当にあるのか
2)またそれは社会に多大なインパクトを与える様なものか

この二点だ。小保方さんの採用・任命責任も含めて、組織人としての態度みたいなものは、仮にその批判が正しかったとしても、大した価値は生み出さない言いがかりみたいなもので、こういうのは週刊誌にでも任せておけばよろしい。ちなみに、2)については殆ど答えは出ている。STAP幹細胞が仮にあったとしても、iPS細胞にインパクト的に及ぶものでは無さそうだ。iPS細胞の山中さんが3月に出したステートメントにそれは端的に表れている。要約すれば、こんな感じだ。

  • iPS細胞と比べてSTAP幹細胞が有利とされたのは二点で、それは発がん性が低いことと、誘導効率が高いこと
  • しかし、遺伝子導入方法の改善によりiPS細胞の発がん性は低下している
  • 誘導効率も当初は0.1%だったが2009年段階で20%にまで向上した上、昨年には100%に成功した報告まで出ており、10-20%とされるSTAP幹細胞に劣るものではない
  • iPS細胞は30年の歴史があるES細胞と互換性が高く、臨床研究や治験への応用性が高い

出典:iPS細胞とSTAP幹細胞に関する考察

つまり、仮にSTAP幹細胞が存在したとしても、先行するiPS細胞を覆す様なインパクトがあるものでない。ただ、山中ステートメントの最後にあるが、「未来の医療、たとえば移植に頼らない体内での臓器の再生、失われた四肢の再生などにつながる大きな可能性のある技術」ではある。後段については、STAP現象そのものがイモリが刺激によって欠損部分を再生させる能力を持つことから着想された研究であることを皮肉っている様にしか思えないが、iPS細胞とは違う、限定された分野への応用可能性を持つに過ぎない、と理解すれば良いだろう。

その上で、1)だが、今回の笹井さんの会見は二点を除き極めて明瞭で、良く理解出来た。STAP幹細胞懐疑派の主な根拠は、

  • 多能性マーカーとされるOCT4-GFPの発現をもって小保方さんはSTAP細胞作成に成功しているとしているが、これは死細胞の自家蛍光か、あるいは単にOCT4-GFPが発現するだけで、多能性の獲得はしていないのではないか
  • ES細胞が意図的かは別として混入していたのではないか
  • 分化したT細胞がリプログラミングされた証拠であるTCR再構成がSTAP幹細胞には見られないから、STAP幹細胞は多能性が無いのではないか
  • STAP細胞は分化した細胞が多能性を獲得したのでなく、もともと体内に含まれている多能性を持つ幹細胞を選別したに過ぎないのではないか
  • 多能性だけを持つSTAP細胞が増殖能まで併せ持つSTAP幹細胞にうまくコンバージョンされないと、実際の医療応用の可能性は低いのではないか

といったものだったが、最後の二点を除けば、それなりにしっかりとした回答が成されていた。

まず一点目は、OCT4-GFP発現については死細胞の自家蛍光ではないことはデータ操作不能なライブ・セル・イメージング他で確認され、かつ胚盤胞の細胞注入実験によりES細胞では起こりえない特徴的な多能性の表現型が示されていることから否定していた。二点目は、STAP細胞はES細胞よりかなり小型の特徴的な細胞であるから誤認は有り得ず、かつ前述の通り多能性の表現型も異なる為、混入はないことから同様に否定。三点目の、TCR再構成が見られないことについては、生後すぐの脾臓由来の細胞にT細胞が含まれる可能性は元来低く、TCR再構成が見られなかったとしてもこの論文では重要ではない(!)とのことである。よって、今の実験結果からして、STAP現象があったという仮説が最も合理的、というのが笹井さんの会見の趣旨であって、これは高校の生物は得意中の得意だった程度の素人にも極めて良く判る説明であった。

一方、四点目についての是非は良く判らなかった。だが、多能性獲得でも選別でも、結果として成功すれば多能性を持つ細胞のそこそこ効率的な獲得方法を見つけたとは言えるのだとは思う。そして最後の五点目はペーパーに触れられず、会見でも良く判らなかった上に、STAP幹細胞でなく"STAP現象"という言葉を笹井さんが使っていたことからして、STAP細胞からSTAP幹細胞へのコンバージョンの難しさと、それに伴う実際の医療応用の可能性の低さは大きな弱点なのかもしれない。

あと、もう一つ今回知った中で重要だと思ったのは、生後3週齢以降のマウス細胞ではSTAP細胞にならない場合が多いということだ。若い個体の細胞なら多能性を獲得する確率が高いが、成熟した個体はそうでは無い。これがもしヒトにとっても同じだとしたら、臨床医療への応用可能性は低くなるだろう。ごく若い個体の細胞でしか多能性が獲得できないのだとしたら、上に述べた様な社会的インパクトは更に小さくなる。

そんな訳で、STAP現象があるという仮説には大変ワクワクしたし、笹井さんを初めとした理研のチームには是非その謎を解き明かして欲しいとも思ったが、それを解き明かしたからと言って社会的インパクトが大きいかと言うとそうでも無い研究だという思いはますます強くなった。とはいえ研究ってのは社会的インパクト(≒カネ)と必ずしも直結しないものだから、企業的な発想で、儲からないからそれをもってダメだとぶった切る話ではない。

また、冒頭に少し触れたが、同じく企業的な発想で、二度と小保方さんの様な人が出ないように、コンプラとかダブルチェックとかの強化や採用・昇進の厳格化を行うのは愚の骨頂だと思う。研究者はワクワクする謎を解くのが仕事なのであって、ミスやチートに目を光らせるのが仕事なのでは無い。無謬性を問う余り、雑用をより増やしてしまうのは、角を矯めて牛を殺す様なものだ。ここは、大胆な仮説の過ちは許容しつつも、小保方さんの様なチートは判り次第きっちり一発退場させて自浄作用を働かせるということで良いんでは無かろうか。少しでも人事に携わったことのある方なら判ると思うが、どんなにスクリーニングしても、採用とか昇進ってのは一定確率で間違えるので、その責任を問いだしたら組織から責任者が消えて無くなる。大事なのは、ゴミを見つけたら直ちに掃除する自浄プロセスなのである。そして採用とか昇進の間違えを減らそうとすると、大人しい優等生が増えて、とんがった人材を扱いにくくなる。その意味で、大胆に若手を登用して、競わせるという笹井さんの方針が使い捨てだと批判されていたが、僕はこれあんまり違和感無くて、機会を与えてみてダメだったら取っ替えるのが結局成果を出すには一番良いと思う。残念ながら、今回はたまたま凄いババを掴んじゃったけれども、その実は若い頃から頭角を現した優秀な研究者だったと聞く笹井さんらしい若手への機会の与え方だと思う。

STAP現象は有力な仮説に戻った。若手が機会を掴みかけて、その未熟さなのか、邪悪さなのかで自滅した。でも、何にも出てこないよりはマシだ。理研チームは、沽券にかけても是非この仮説をもう一度理論にまで再構築し、今回明らかになった多能性を取り戻す為の若さの壁をも飛び越え、凍傷で指を失った登山家の傷口を酸処理して、うまく誘導したら指が生えてきたレベルの臨床応用にまで至って欲しいものである。

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