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「STAP細胞があるのかないのか」と言う問いの不毛さ

文系脳で、物事は0か1で割り切れると思っている人たちは、こうした問いを立てて、今回のSTAP細胞捏造問題を理解しようとしています。そして、STAP細胞があったら小保方晴子氏の逆転大勝利、みたいな展開を期待していると思います。それは絵的にエキサイティングな展開になるので、多くの科学研究に明るくないテレビ視聴者もテレビ番組の製作者も、そのような期待をするのもうなづけます。しかし、これは正確な表現ではありません。

僕自身も、ブログは一般読者向けに書いているので、時にそういう表現を使って、記事をまとめたりしていますが、現実は0か1の間にあります。現段階では、本当に全くの0である確率はかなり高いと思われます。楽観的に見ても、限りなく0に近いでしょう。ちょっとわかりやすく解説するために、スケールを100倍してこの問題を整理しましょう。

まずは、100点のSTAP細胞というのは何か、というと、それはNatureで発表された通りのSTAP細胞です。つまり、酸に30分程度漬けるだけで簡単に作れる。特殊な培養液に浸せば、自己増殖能力があるSTAP幹細胞になるので、将来の医療への応用も可能である。これらから、既存の多能性幹細胞を作る技術であるES細胞や、iPS細胞より遥かに優れている。

現段階で、すでにこの可能性はゼロです。世界中で、Natureの方法で再現実験を試みましたが失敗しました。3月5日には、小保方氏に理研の共同研究者がヒアリングして詳細なレシピを発表しましたが、このレシピでも、世界中で再現実験に失敗しました。理研でも再現実験に成功しておらず、小保方氏は体調を崩したと言って、ずっと勤務していません。
(世界中で多くの研究者の時間と研究費が浪費され、大量のマウスが実験で犬死にならぬ鼠死にしてしまったと思うと、胸が痛いです)

以前にも書きましたが、つまり、現時点ですでに、万能細胞を作る方法としては、100歩譲って仮にSTAP細胞があったとしても(いまのところ世界中の誰もできない)、それは100点満点中10点以下のSTAP細胞であって、応用を考えると、すでに将来は明るくないことがわかっているわけです。幹細胞を作る方法としては、幹細胞研究者なら興味を持つかもしれませんが、どれほど楽観的に小保方氏を信じても、一般紙が話題にするような研究結果ではすでにないわけです。

現時点で、Nature論文は再現性がゼロで、これ自体がすでにめちゃくちゃ困ったことですが、さらに研究の本質部分の実験データの捏造が発覚しており、Natureの論文にはSTAP細胞が作られたことを示す証拠が何一つ残っていない状況になりました。つまり、科学的には、この論文はすでに死んでいるのであって、共著者全ての同意による撤回が一番いいのですが、時間の問題で、Natureの編集部が撤回するでしょう。

この段階で、科学社会の常識に照らし合わせれば、STAP細胞があろう(>0)がなかろう(=0)が、科学者としての小保方氏の処遇にはほとんど影響を与えないはずです。また、捏造などの研究不正と言っても0か1ではなく、程度問題なんで、まあ、Nature論文は大げさだったけれども、せめて60点のSTAP細胞があったら、まあ、その辺の間違いは大目に見よう、と思っていた科学者たちも3月上旬ぐらいまではいたのですが、その後に発覚した様々な捏造問題で、まともな科学者全員が完全にアウト判定になったと思います。

じつは、再現性が乏しく、質が良くなかったり、自己増殖能力が弱くて、医療への応用が不可能な多能性幹細胞(万能細胞は一般向けの不正確な呼び名)の作り方は以前にもいろいろ報告されており、現段階では、STAP細胞があったとしても、最高でもその程度の話でしょう。我々の税金を注ぐなら、すでにマウスではなく、人間で見つかっている、ミューズ細胞のほうが、遥かに有望です。こちらも我国の東北大学が発見した画期的な「万能細胞」です。

いま理研でやっているSTAP細胞再現プロジェクトと言うのは、そういう話であり、今週、予定されている笹井芳樹氏の会見で、彼はまだSTAP現象があるかもしれない、と言っているわけですが、そう言うレベルの話だと思って聞いた方がいいでしょう。

小保方氏の指導役「STAPは本物の現象」来週会見へ、朝日新聞、2014年4月11日

ふつうの能力がある研究者なら、STAP細胞みたいな博打的なテーマで研究しても、途中でいくつか面白い現象を見つけて、そこそこの論文を何通か書いて、最初の狙い通りには行かなくても、プロジェクトを軟着陸させられます。たとえば、今回の小保方氏のSTAP細胞の研究だったら、万能細胞ができているわけじゃなくても、酸に晒すとOct4-GFPが発現するというなら、その詳細を調べれば地味な論文は書けるし、マウスのミューズ細胞みたいなものを取り出す方法を見つけたら、それはそれでかなりいい論文が書けるはずです。しかし、小保方氏は、最初のひとつかふたつのいい実験結果を見て、後は究極のゴールに、科学者としては職業生命が終わるレベルの捏造をしながら到達してしまったのではないか、というのが僕の推理ですね

理研というのは、ふつうの民間の会社と違って、基本的に自由に研究する主任研究員たちの寄せ集めで、危機に弱いというか、危機が起こるとほとんど何もできない組織なので、あまり今回の捏造事件を調査しよう、という気がありません。そんな後ろ向きな、自分の研究キャリアに役に立たないことを自発的にやりたいという研究者はおらず、会社のように所属研究者に上司が命令して調査に当たらせる、という命令系統みたいな仕組みがそもそもないんじゃないか、と思います。

ということで、いまのままでは、理研が何か、今回の事件を捜査してくれる、と期待するのは無理なような気がします。というのも、理研の新たなSTAP現象を見つけるプロジェクトでは、小保方氏が残しているサンプルのDNA解析(これをすればどこの研究室からパクったES細胞だったかまで同定できるはず)などはやらないそうで、今回の捏造事件の捜査ではなく、研究者の興味に基づく基礎研究をやりたいだけなのでしょう。とほほ。

この問題に早くケジメをつけて、日本は研究不正をする研究者は決して許さない、という態度を世界に示して、日本から出る学術論文の信頼性を早く取り戻すべきでしょう。そして、マスコミも早くこのSTAP祭りを終わらせるべきでしょう。世の中には、もっと重要なニュースがたくさんあります。

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