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研究の反倫理行為に関するノート

1. 研究反倫理的問題は理系だけでなく文系も


STAP細胞問題で、研究倫理に関する議論が急浮上している。だが、研究倫理については理系だけでなく、文系の研究分野でも重要な課題である。しかし、その内容や実際については明確に共有されていないのが現状だと思う。私自身、この問題についての理解が不足していることを認識しているが、同時に、他人事ではないと感じている。そこで、当方が関与している学会関係者など、複数の方々と共有すべき課題であると考え、欧州、米国、OECDなどの議論をレビューしてみることにした。
 中でも、わかりやすかったのは、欧州科学財団(http://www.esf.org/home.html)による「研究倫理に関する行動基準」(”The European Code of Conduct for Research Integrity”(2011))やOECD主催のグローバル科学フォーラムの報告書(”Best Practices for Ensuring Scientific Integrity and Preventing Misconduct”(2007))
(http://www.oecd.org/science/scienceandtechnologypolicy/40188303.pdf)であった。
これらが示しているのは、研究における反倫理行為には複数の種類があり、なおかつ、中核部分とその周辺というように濃淡をつけて議論されていることである。

2. 反倫理行為とは


以下は、欧州科学財団の説明をもとに作成したメモであるが、あくまでも私個人の私見である。
また、同財団の説明も財団自身が述べているようにそれ自体がユニバーサルなものでも、統一された定義ではない。他方で、OECD他の報告書と比較しても大きな乖離がないこともわかる。

反倫理行為は「misconduct」と記されている。興味深いのは、それが「misbehaviour」とは区分して説明されている点である。ここでは、「misbehaviour」を不正行為と訳すが、それは研究費の不正受給、不正支出、学生や助手への脅迫や虐待などをさし、これらは法的に明確に罰せられる。他方、研究上の反倫理行為は刑罰で処せられる類のものでないものが多いことから、同財団では概念上の区分をしたのだろう。ちなみに、OECDでは、これらの行為を「その他の反倫理行為」としている。

(1)主たる反倫理行為~FFP~


 同財団は反倫理行為(misconduct)を主たるものとその周辺に分けて説明している。主たる反倫理行為は以下の3つであるとする。

偽造・ねつ造(Fabrication):
研究結果をねつ造したり、あたかもそれが現実のものであるように記すことをさす。

虚偽・曲解(Falsification):
調査方法の改ざんや不都合なデータの排除などをさす。

盗作(Plagiarism):
他者の材料や資料を適切なクレジットを入れずに盗用することをさす。

ちなみに、この説明は他の機関のものとも共通しており、偽造・ねつ造(Fabrication)、虚偽・曲解(Falsification)、虚偽・曲解(Falsification)をあわせて、FFPと呼ばれることがある。

(2)周辺の反倫理行為


FFPに対して、その他の反倫理行為(other misconduct)として説明されているのは次のようなものだ。注意したいのは、これらも反倫理行為(misconduct)の一種のであるという点だ。
では、それは、どのようなものなのか。同財団が示した内容を、大きく、調査手続きに関するもの、データに関するもの、出版に関するものに分けて捉えてみる。例えば、調査の手続きにかかわるものとして、不適切な調査方法や手続きを用いることや、調査計画やその設計が不充分であること、被験者(人間、動物、環境、文化など)への説明やケアが不十分であったり、説明が不充分なまま実験がされること、さらには被験者の守秘義務が遵守されていないことなどが挙げられている。
 データに関するものは、オリジナルデータ保管されていない、保管されていても第三者がアクセスできないような状態になっていること、記録が適正かつ十分になされていないことなどが挙げられる。出版に関するものは、著者としての資格がないのに著者として名前を列挙することを要求すること、あるいはその逆に記載されるべき著者をオミットすること、さらには、同じ論文で複数回投稿したり、協力者や資金提供者に謝辞を示していないことなどが挙げられている。

 また、misconductの行為が意図的であるのか、否かによって、その対処方法が変わる
とされる。つまり、FFPにせよ、周辺にせ反倫理行為(misconduct)が、作為的に行われたのか、知っていたけれど見過ごしてしまったのか、気づいていなかったのかによって、反倫理行為の深刻さの度合いが異なるゆえ、その対処方法も異なるということだろう。
 以上は、研究の反倫理行為の説明の一旦であるが、これだけでも、様々な種類があるだけでなく、不正の深度にもグラデーションがあることがわかる。

3. STAP細胞問題をめぐる争点


 STAP細胞をめぐる問題は複数の視点から批判的に議論されており、同分野に暗い私には、容易に理解できないところがある。
 だが、前述の反倫理行為(misconduct)の分類や説明を参照すると、少し見晴しがよくなる。特に、理化学研究所と小保方氏の見解の一致点と相違点がどこにあるのかという点だ。小保方氏の会見での冒頭の説明に鑑みれば、彼女はデータ管理が不適切であったことなど、反倫理行為のうち周辺に分類される事項について落ち度があったことを認め謝罪している。しかし、中核の反倫理行為(FFP)、特に「偽造・ねつ造(Fabrication)」はないと説明している。他方で、理化学研究所は「偽造・ねつ造(Fabrication)」があったと述べている。したがって、現在のところ、両者の争点の中心は「偽造・ねつ造(Fabrication)」の有無と、それが故意なのか、知っていながら行ったのか、気づかなかったのかという点になるだろう。

 私の周辺にも医療、生物化学などの科学者の知人がいるが、彼らが釈然としないと感じているものの中には、中核のFFPのほかに、その周辺の反倫理行為(misconduct)に対する疑問や科学の基本である再現性や反証性への疑問が含まれている。この問題の複雑さが窺えるゆえんだ。

 今後、STAP細胞問題に関する議論をどのような手順を追って進めてゆくのだろうか。FFPのうち、「偽造・ねつ造(Fabrication)」の有無に絞り議論を進めてゆくのだろうか。そうでないと議論を前に進めにくいかもしれない。だが、その場合であっても、その他の周辺の反倫理行為の問題を視野外においてはならないと思う。
そして、これらの教訓を理系のみならず、文系の研究関係者の間でも共有しなければならないだろう。

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