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「成熟した債権国」の入口に立った日本

2006年の「通商産業白書」では、「経常収支発展段階説」(6段階)にあてはめると、(当時の)日本は、貿易・サービス収支黒字、所得収支黒字、したがって経常収支黒字が大きい第四段階の「未成熟な債権国」の状態にあるが、その後、貿易・サービス収支は赤字に転じるものの、対外純資産の蓄積によって所得収支の黒字が拡大するので、経常収支の黒字は確保される第五段階の「成熟した債権国」に移行していくだろうと予測していました(2006「通商産業白書」の該当部分はこちら

経常収支は、貿易収支サービス収支所得収支の合計で、貿易・サービス収支の黒字は国内総生産(GDP)を増加させ、赤字は国内総生産(GDP)を減少させます。国民総所得(GNI)は国内総生産(GDP)と海外からの所得の純受取の合計です(国民総所得(GNI)についてはこちら)。海外からの所得の純受取とは所得収支に他なりませんから、経常収支の増減は国民総所得(GNI)を増減させます

今年(2014年)から国際収支関連統計の見直しが行われました(日本銀行レポート・調査論文「国際収支関連統計の見直しについて」はこちら)。2014年以降の統計を過去の統計と比較できるようにするために、過去の時系列統計についても見直しを反映したデータの公開が行われています。国際収支関連統計の内訳と見直しの内容は下の表のとおりです。
国際収支勘定説明.jpg
仲介貿易商品」「委託加工サービス」「維持管理サービス」が貿易収支とサービス収支の間で振り替えられたので、過去の統計のボリューム感が少し変わってきます。そのことも踏まえながら見直し後の新基準による国際収支の推移をあらためて見なおしてみます。
国際収支.jpg
2011年(暦年)から貿易収支が赤字に転じましたが、第一次所得収支の黒字(海外からの所得の純受取)が貿易収支サービス収支の赤字を上回っているので、経常収支はなお黒字を維持しています。しかし、経常収支の黒字規模はかなり縮小したので、金融収支の赤字(対外純資産の増加)も大きく縮小しています。更に、以下では、貿易収支・サービス収支・第一次所得収支・金融収支について順次見ていくことにします。
貿易収支.jpg
見直しによって、貿易収支の赤字は少し縮小(過去の黒字は少し拡大)しましたが大勢に大きな変化はありません。2009年の大きな縮小から、輸入は過去ピークの2008年を上回る水準まで拡大していますが、輸出はあまり回復していません。そのため貿易収支が赤字に転じています
サービス収支.jpg
見直しによって、サービス収支の内訳が分かり易くなり、貿易収支からサービス収支に変更された委託加工サービスなどによってサービス収支の赤字幅が見直し前より拡大しました。サービス収支の赤字は、主として旅行収支赤字の縮小と知的財産権等使用料黒字の拡大によって年々小さくなってきています。
所得収支.jpg
所得収支(海外からの所得の純受取)は、日本が海外に保有する資産(対外資産)からの受取所得と、外国が日本に保有する資産(対外負債)に対する支払所得の差額です。経常収支の黒字が続いてきたので対外資産が対外負債よりも多く増え続けて所得収支の黒字幅が拡大してきました。所得収支が2008年から2011年まで一時的に落ち込んでいるのは円高によって円ベースの受取が小さくなったためです。

見直しで、第一次所得収支の内訳も分かり易くなりました。直接投資配当金・配分済み支店収益および再投資収益は、それぞれ直接投資に対する対外受取から対外支払を引いたネット受取超過額です。証券投資配当金および債券利子は、それぞれ金融市場投資に対する対外受取から対外支払を引いたネット受取超過額です。2000年頃までは、所得収支の太宗は債券利子によって占められていましたが、徐々に直接投資および(債券以外の)証券投資配当金の割合が拡大してきています。

所得収支(海外からの所得の純受取)の源泉となる対外資産と対外負債の残高の内訳は財務省本邦対外資産負債残高から知ることができます。
対外資産負債残高.jpg
2013年末の対外純資産(対外資産-対外負債)は327兆円で、2013年(暦年)の第一次所得収支(受取-支払)は16兆円でしたから、単純計算ネットリターン率は年5%弱くらいになります。

さて、こうして日本は定義上は「経常収支発展段階説」の第五段階の「成熟した債権国」の仲間入りをして3年くらいたったことになります。対外資産ポートフォリオは、米国債一辺倒からようやく分散投資に少しずつ乗り出し始めたばかりでまだまだ「投資立国」としては未熟さが窺われます。他方、リーマンショック後の欧州金融危機が日本に(あまり)及ばなかったのは、それまでハイリスク・ハイリターン投資に消極的だったおかげだったともいえます。しかし、経常収支黒字幅が縮小したのでネット対外資産の増加も小さくなりますから、「成熟した債権国家」にふさわしい対外資産運用力がどうしても必要になってきます。

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