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STAP細胞の問題はどうして起きたのか - 片瀬久美子

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STAP細胞は、画期的な発見として一月末に大々的に発表され、研究者のキャラクターも話題となりメディアに盛んに取り上げられました。ノーベル賞級の発見だとして世間が熱狂ムードにある中、私は違和感を感じ、次のようにツイッターでつぶやきました。

「STAP細胞の研究についての色々な意見を見て思ったのですが、論文の共著者に有名な研究者の名前があるからきっと信用できるだろうという意見が散見されました。共著者に著名な研究者がいるかどうかではなくて論文の中身で判断しないと危ういです。過去の捏造問題から何も学んでいないことになります[*1]」(2014年1月30日)

論文公表直後から、再現できないという報告が相次ぎ、「小保方さんが自分でも意識していないコツがあるのではないか?」「成功に必要な手順が特許の関係で隠されているのではないか?」などという憶測がなされ始めました。残念ながらその後、STAP細胞の論文に多くの疑惑が発覚して、今ではSTAP細胞の存在すら疑われる状況になってしまいました。こうして原稿を書いている間にも、次々と新しい事実が判明してきており、STAP細胞は本当に存在するのか? という疑惑がどんどん深まってきています。

どうして、この様なことになってしまったのでしょう?

今回の件で浮かび上がってきた問題のうち、重要だと思われるポイントを取り上げます。

[*1] https://twitter.com/kumikokatase/status/428754254258388993

杜撰だった大学院教育

研究者は実験サンプルやデータ、それらを記録した実験ノートは簡単に捨てられないし、整理して大切に保管するものです。研究資料の管理は指導教官から指導される基本事項でもあり、データの保管と整理ができずに、論文などで肝心のデータを間違える様なことをすれば、その人の研究そのものが信頼できなくなってしまいます。

Nature論文でSTAP細胞の多能性を示した重要なデータは、小保方氏の博士論文で使われていた別の細胞由来だと説明されている組織画像と同じものと判明しました。これについて、小保方氏は間違って使用したと説明しています。

また、STAP細胞が分化したリンパ球から作られたことを示したDNA電気泳動画像には、切り貼りの操作がされていました。これも小保方氏は認めており、こうした切り貼り操作は、やってはいけない事だと知らずに行ってしまったとのことです。

研究不正には、特に悪質なものとして捏造(fabrication) ・改ざん(falsification)・剽窃(plagiarism)の3つがあり、略してFFPと呼ばれています。

不注意による間違えではなく、故意による操作が入るほど悪質性が高くなります。DNA電気泳動画像の切り貼りは、故意に操作しないとできません。また、多能性を示した組織画像についても、博士論文の画像の文字の部分を黒い四角で塗りつぶしてその上から新たに文字を書き入れており、これも故意の操作がされています。いずれも、STAP細胞の特徴である「分化した細胞から作られた証拠」と「多能性の証拠」となる最も重要なデータで、これらに不適切な画像が使用されていた事は、論文全体の信頼性を大きく損なっています。

また、STAP細胞の論文の中で実験方法を書いた部分に、他の研究者の論文からの剽窃も見つかりました。

STAP細胞の論文とは別に、小保方氏の博士論文にも大量の剽窃が見つかっています。また、彼女の出身大学では、他の研究室の人達も含めて多数の人の博士論文に同様な剽窃が見つかっています。これは指導教官の問題であり、論文の書き方の指導を受けなかった学生達が気の毒でもあります。

小保方氏の博士論文の元になったTISSUE ENGINEERING: Part Aに掲載された論文(筆頭著者は小保方氏、責任著者はハーバード大学教授チャールズ・バカンティー氏)でも、複数のPCRバンド画像の「重複」が見つかり、今年3月13日に訂正(Erratum)が出されました。この様な数々の不適切な行為が見逃されてきたのは、周囲の指導的な立場にいた人達の問題でもあります。STAP細胞論文の共著者でもあり、バカンティー氏の研究グループに所属する小島宏司氏にも過去の論文で複数の不適切な画像の使い回しが指摘されています。

問題の多い論文が、どうしてNature誌に掲載されたのか?

科学誌での論文査読(同じ分野の研究者による論文掲載の可否の審査)は、主に内容に整合性があるか等のチェックを行った上で、内容のレベルや話題性などを判断して掲載するかどうか決定されます。不正がある前提で査読されないので、不正のチェックとしては機能していません。また、再現性があるかどうか実際に実験して確かめるという再現性の検証は論文査読の段階では行われません。

STAP細胞の論文で切り貼りが確認されたDNA電気泳動の画像は、注意深く見れば不自然さが分かるものでしたが、査読では見落とされていました。

また、共著者に権威のある研究者がいるかどうかでも査読の通りやすさが違ってきます。

STAP細胞の論文がNatureに掲載されたのも、笹井芳樹氏・丹羽仁史氏・若山照彦氏というこの分野では実績と権威のある3名が含まれていたことも大きかったと考えられます。 バカンティー氏は幹細胞研究では主流の人ではなく、その分野での信頼性は上記3名の方が上です。

客観的に比較するために、STAP細胞論文を投稿する前の主要科学誌の掲載論文数[総説も含む]と論文の最高引用数を調べてみました。Nature誌に掲載された論文の数は、笹井氏8本、丹羽氏1本、若山氏3本、バカンティー氏0本。Science誌に掲載された論文の数は、笹井氏0本、丹羽氏0本、若山氏2本、バカンティー氏0本。Cell誌に掲載された論文の数は、笹井氏6本、丹羽氏2本、若山氏1本、バカンティー氏0本(主要3誌の合計論文数は、笹井氏14本、丹羽氏3本、若山氏6本、バカンティー氏0本)。

論文の最高引用数(Google Scholarより)は、笹井氏1133回、丹羽氏3965回、若山氏2719回、バカンティー氏595回でした(595回引用されたバカンティー氏の論文は、背中にヒトの耳が生えている様に見えるネズミを牛の軟骨細胞を使って作ったという論文で、「バカンティマウス」として知られていますが、幹細胞研究分野のものではありません)。

これらをまとめたのが次の表です。

業績比較-改

2012年にNatureに投稿して「過去何百年にも及ぶ細胞生物学の歴史を愚弄している」と言われ受理されなかったと小保方氏が話している論文では、笹井氏・丹羽氏は共著者に入っていませんでした。

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