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【「メルマ旬報」芸人ミステリーズ・再録】幻のタモリ作品を追う。

しつこく告知しているように、3月26日に『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』が、そして4月3日に「水道橋博士のメルマ旬報」連載「芸人ミステリーズ」の書籍化『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』が発売されます。
そこで、「芸人ミステリーズ」第1回に書いた「タモリ」に関する記事を再録(ブログ用に一部修正)します。

芸人ミステリーズ #1「幻のタモリ作品を追う。」


タモリというのはいったい何者なのだろうか?
もう四半世紀にわたり日本のお昼のお茶の間に君臨し続けているにも関わらず、その実態は掴み切れない。
タモリ自身も「私はどっちかっていうとテレビの中でしか存在してないように思われてますから。半分アニメ化されてるみたいなもん」(『ブラタモリ』)などと語っているとおり、実存すら疑われかねない空気まである。

そんなタモリのことをもっともっと知りたくて僕はこのところずっとタモさん関連の本を読みあさっている。今ではあまり書籍などに関わらないイメージのあるタモリだが、80年代頃には意外と多くインタビューや対談にも登場しているし、自身名義の著作も多い。
それらを読めば読むほど、タモリの正体に辿り着くどころか、僕はタモリという深淵に溺れてしまった。

そんな中、当時のタモリのブレーンの一人である高平哲郎の著作『ぼくたちの七〇年代』の中に気になる記述を発見した。
なんと、かつてテレビ東京(当時・東京12チャンネル)でタモリの“涙と悔恨の日々”を綴ったドキュメンタリー作品が放送されたのだという。
僕は慌てて現在出版されている中でもっとも詳しくタモリの経歴が記された『クイック・ジャパン (Vol.41)』「タモリ特集」を引っ張りだし、該当する頃の年譜を読み返したが、そんな記述はない。さらに「どれだけ詳しいんだ!?」でお馴染みのタモリについてのウィキペディアにあたってみてもそれらしき記述は出てこない。
しかも、この作品は昭和53年度(1978年)ギャラクシー賞の月間賞まで受賞しているというのだ。
ウィキペディアによるタモリの受賞歴も1981年の 第10回「ベストドレッサー賞」スポーツ・芸能部門受賞が最初。(え、そんなの獲ってたの?) 
ギャラクシー賞は「放送批評懇談会が日本の放送文化の質的な向上を願い、優秀番組・個人・団体を顕彰する」賞であり、数少ないテレビ番組を評価する歴史と権威のある賞だ。にも関わらずウィキペディアにも『Quick Japan』にもギャラクシー賞の記載はない。
本当にタモリはそのドキュメンタリーで受賞したのだろうか? そもそもそんな作品は存在したのだろうか?

僕はこの作品について調べていくうちに同じく高平哲郎が上梓した『スラップスティック・ブルース』に行き着いた。
そこにはその作品の概要やその制作の顛末がより詳しく記録されており、前述の『ぼくたちの七〇年代』と併せるとなんとなく全体像が掴めてきた。
その作品は『青春の日本列島』という30分のドキュメンタリー番組で放送されたという。この番組を調べてみるとなんと日曜のお昼12時から放送されていたのだという。(つくづくお昼12時に縁のある人だ!)
そのディレクター陣の中にはあの山路徹もいたようだ。山路は「日活創立100周年記念特別企画 “生きつづけるロマンポルノ”」(横浜シネマジャック&ベティ)でのトークイベントでこの番組について少しだけ語っている。

「(ロマンポルノが衰退してきた頃)僕は『青春の日本列島』という30分ドキュメンタリーテレビ番組を作っていました。当時僕は24、5歳の最年少監督で、崔洋一監督や柳町光男監督などもいました。1本のギャラはそこそこ良かった代わりに、撮影期間は3日。経費として使えるのは5万円。30分番組で貰えるフィルムはその3倍分だけという制約の中で作らなくてはなりませんでしたが、制約が厳しい分アイデアや知恵を絞って作っていました」


そんな制作環境の中で作られた、ギャラクシー賞を獲るほどのタモリのドキュメンタリー。ますます興味が湧いてくる。

           ■■-っ

その作品は普通の眼鏡に地味な格好をしたタモリが、電車で仕事場である新宿に向かうところから始まるのだという。

新宿駅に着くとタモリはコインロッカーに向かう。
ロッカーの前で着替え、髪の毛を七・三からオールバックにする。そしてあのレイバンのサングラスをかけるタモリ。
「ロッカーナンバー1223。この扉が森田一義をタモリに変える」
とタモリ自身によるナレーションが入る。
仕事風景がひとしきり流れると、慎ましい普段の生活をカメラは追う。
奥行き二間の民間アパートにに病弱で寝込んだ妻と五歳の女の子と赤ん坊で住んでいるタモリ。
そのタモリの口から“タモリの真実”が語られるのだ。
仕事を終えたタモリは近所の若者たちを連れ立って酒を飲み交わす。
そして酔うほどに自分の今の仕事への虚しさが強くなる。ついに彼は見えない片目から大粒の涙を流すのだ。


その涙のままストップモーションとなり、エンドマーク---。

           ■■-っ

もちろん、このドキュメンタリーはほぼ全部ウソである。
タモリには子供なんていないし、妻は病弱じゃない。当然、そんなコインロッカーなんてあるわけがない。
『青春の日本列島』でディレクターを務めていたK氏から、タモリを題材にドキュメンタリーを撮りたいという企画が持ち込まれた。普通のドキュメンタリーなど撮る気のないタモリと高平は「ウソでも構わないか?」と訊くと「もちろんウソで構わない」とK氏は答えたのだという。そこで高平らが日曜お昼のお茶の間の主婦たちに「タモリって実は可愛そうなのね」と言わせたい、と目論んで作られたのがこの作品だったのだ。

しかしやはりこの作品は局内で問題になり一部改変を余儀なくされた。
タイトルはタモリ案の「涙と悔恨の日々」から「涙と笑いのウソ」に変わり、タモリが泣いて終わるラストシーンは、その後カットがかかり「もういいかな?」と言って泣くのをやめタモリが大笑いするシーンが付け加えられた。さらに「タモリにはウソも本当もない。このドキュメントは事実に即してはいない。たとえば私、タモリに子供はいない」というタモリのナレーションの後にK氏による「これもまたドキュメントなのである」という注釈が入った。

それでも、まだ70年代後半、メディアリテラシーなんて言葉がなかった時代だ。
そんな時代に通常のドキュメント番組の枠で堂々とタモリたちはフェイクドキュメンタリーを作り放送してしまったのだ。
30分弱の作品のうち、最後の5分まで視聴者を“ダマす”というタモリ流の遊びを見事にやり遂げた。
結果、ギャラクシー月間賞を受賞し、彼らの“遊び”は大成功に終わった。しかしその引き換えのようにK氏は番組を降ろされてしまった。そしてこの早すぎた傑作は“封印”されたように歴史の中に埋もれていった。

タモリはゲスト出演した『SMAP×SMAP』で以下のように語っている。

「よく考えてみるとなんか俺、テレビ出てるほうが本来の自分のような気がするのよ。で、日常生活のほうが俺はなんか演技してるように思えるのよ」


その存在自体が虚実皮膜。
「タモリにはウソも本当もない」という、まさにこのドキュメントそのものだ。
ちなみにこのドキュメンタリー、ほとんどが“ウソ”だが、妻役として本当の妻である春子さんが出演しているという。
やっぱり、見たすぎる……。


※タモリについて書いたのがこちら。

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※「芸人ミステリーズ」の“傑作選”はこちら。

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