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書評:子どもの貧困−日本の不公平を考える(阿部彩)



本書は、日本における子どもの貧困の存在や、格差の固定、子供の貧困に対する社会保障の不足といった論点に始まって、母子家庭の問題、国の再分配機能全体の問題、学歴社会に対する考察、国民の貧困に対する意識、そして最後には筆者なりの子どもの貧困に対する処方箋まで取り上げられており、教育の機会平等を考える上で極めてインフォーマティブな内容となっている。教育関係者のみならず未成年の子どもを持つ全ての親にとって有用な一冊である。

筆者は人口問題研究所の管理職についており、本書の執筆にあたっても厚生労働省の補助金を受けているが、本書はセクショナリズムに基づいた視野の狭い本ではなく筆者の考える、あるべき社会の姿が理性的に描かれていると感じられる。2008年末という執筆時期も合わせて考えると、厚生労働省の民主党政権を見据えたポジション・トークとの懸念がすぐに頭に浮かんだがそれは杞憂であった。

特に出色の出来なのは、「子どもにとっての"必需品"を考える」と題した第六章である。多くの場所で貧困が「相対的貧困」と言った抽象的な定義を基に語られる中、本書では「最低限必要なもの」を社会調査で調べることによる「合意基準アプローチ」を用いることによって「相対的剥奪」と呼ばれる指標を算出し、日本社会の貧困防止についてのコンセンサスを導き出している。調査の結果は、日本人が全ての人にとって必要だと考える生活水準はイギリス・オーストラリアなどの調査に比べて非常に低い、というものであった。

その背景は必ずしも明らかでない。著者が言うように、日本社会に根強く残る「総中流神話」「機会の平等神話」「貧しくても幸せな家庭神話」といったものが影響している可能性も否定できない。しかしながら結果をそのまま受け止めれば、日本人は社会的弱者の保護には寛容ではなく、コンセンサスは米国型の自己責任の社会になっている。やはり心の底では「努力せぬ者、食うべからず」というのが日本人の価値観ということになるだろう。

こうした興味深い分析結果は、一方で、筆者の理想とする社会と日本国民のコンセンサスとの乖離を浮き彫りにしてしまっている側面もある。筆者の提示する政策的な処方箋は、子どもへの社会保障の更なる充実を理想とすれば建設的なものだが経済成長を重視する人々に対する訴えかけとしてはインパクトに欠けるのも事実だ。

例えば、筆者は「少子化対策ではなく子ども対策を」と訴えているが、政策が少子化対策に偏るのはその経済的な便益が明確だからだ。子どもの貧困対策を訴えるのであれば「教育の機会平等」の先にある人的資本の蓄積や国家の繁栄への道筋を示さなければ、この国の大多数の人を説得する事はできないだろう。

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