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ウォール街と医療業界はブラック企業?アメリカのブラック事情とは

ブラック企業に関するニュースが盛んに報じられていますが、アメリカにもブラック企業は存在するのでしょうか。

アメリカは日本と比べて労働者保護に関する規制が緩く、雇用主は理由を問わず従業員を解雇できます(差別による解雇は雇用機会均等に関する各法で規制)。

労働基準法では最低賃金額(7.25ドル=740円)が定められているものの、外食産業など最低賃金しか支払わない企業の従業員は、その額では生活できないとして頻繁に賃上げデモを行っています。

残業代に関しては、週40時間を超える労働は通常賃金の1.5倍と規制がありますが、残業時間の上限は定められていません。さらに、管理職や専門職などいわゆるホワイトカラーにはこの残業規制が適用されないため、実質的には頭脳労働者の多くが長時間のサービス残業を行っています。特に近年は所得が高くなるほど労働時間が増える傾向があり(NY Times)、その最たる例として、投資銀行の若手アナリストや研修医の劣悪な労働環境が問題視されています。

ウォール街で起こり始めた、過労死の連鎖

昨夏ロンドンで、バンクオブアメリカ・メリルリンチでインターンをしていた21歳の男性が、昼夜なく働いた末、自宅で過労死しました。

これを受け、ゴールドマンサックス、バンクオブアメリカ、クレジットスイスが立て続けに若手アナリストの労働時間を自主規制。JPモルガンは現在、アナリストの雇用人数の増加を検討しています(NYTimesなど)。

ウォール街で働く若手アナリストの長時間労働は今に始まったことではなく、週100時間労働は当たり前とさえ言われています。そのうえ、激しい競争のため常に過度なストレスにさらされ、どの職場でもあることですが上司からの嫌がらせもあり、精神的に苦境に陥る人も少なくありません。

高い給料をもらっているのだから仕方ないのではという意見もありますが、アナリストの入社時の給料はそれほど高くなく、時給換算すれば最低賃金に極めて近いというのが実態のようです(abcなど)。

さらに、昨年から今年にかけて、ニューヨーク、ロンドン、香港など世界各地で金融マンの自殺が相次いで報じられ、業界の過酷な労働環境と行き過ぎた成果主義・競争文化の是非が問われ始めています(Fortuneなど)。

しかし、投資銀行各社が行ったように、労働時間を規制することで問題は解決するのでしょうか。

先行する医療業界の試み

実は、金融業界に先立ち、医療業界が2011年に労働時間規制を行っています。

医療業界では、10年ほど前から研修医の長時間労働(一説では週120~30時間)と過労による医療ミスが問題視されており、2011年にアメリカの医療研修プログラムを統括する医学大学院教育評議会(ACGME)が、研修医の労働時間を週80時間までと制限しました。

ところが、規制の施行から3年が経ち、多くの研究者が追跡調査を行った結果、研修医の睡眠時間が増えたわけでも、幸せを感じられるようになったわけでも、空いた時間にたくさん勉強するようになったわけでもなく、逆に制限時間内に規制以前と同じ量の業務を詰め込もうとするため、治療の質が改善しないどころか、経験が必要とされる外科手術で明らかな技術の低下が見られることが判明しました。当の研修医も、半数近くがこの規制に反対しています。(NY Timesなど)

ニューヨークタイムズ紙でコラムを書くポーリーン・チェン医師は、研修医の健康を維持し、且つ治療の精度を上げるためには、労働時間を規制するよりも、研修医の人数増加、専門分野の早期絞込みなどによる労働負荷の削減、研修システムの効率化などが必要だろうと述べています。

助け合いの精神を取り入れる投資銀行

そして、もうひとつ参考になりそうなのは、ゴールドマンサックスの社風です。

厳しい労働環境で知られる投資銀行でありながら、同社はフォーチュン誌の「働きたい企業ランキング100」で45位にランクインしています。このランキングは社員の意識調査を元に作られたもので、同社はランキングが開始された1998年以来毎年100位以内に入っている数少ない優良企業のひとつとされています。

フォーチュン誌によると、同社が社員から支持されている理由のひとつは、ストレス管理をしっかり行っていることだそうです。「回復力週間」と題して、ストレスの管理法や幸福感、仕事とプライベートのバランスなどに関する指導を一週間にわたり行い、本社ビル内のフィットネスクラブ(有料)ではピラテスや太極拳など70ものクラスを開催し、フィジカルセラピーや医療センターも社内に用意しています。

そして、もうひとつ支持されているのは、競争文化が蔓延る投資銀行でありながら、限りなく競争を排除していることです。どんなに優秀でも自己中心的な人は採用せず、社員同士がチームとして協力し合う文化を浸透させているとのこと。もちろん、成果主義ですからいつ解雇されるかわかりませんし、胃けいれんを起こす人や夜中に叫びながら目を覚ます人もいるそうですから、常時強いプレッシャーに晒されていることは間違いないでしょう。しかし、他人ではなく自己との戦いであれば、極限まで追い詰められることはないのかもしれません。

投資銀行も医療業界も法を犯しているわけではありませんが、人間の限界を超える労働慣行は改められるべきでしょう。

結局のところ、どの企業をブラックと感じるかは個々人の価値観なのでしょうから、インターンシップや社員との面談などで入社前に企業との相性を見定めることが重要なのかもしれません。

ブラック企業は、日本特有の雇用形態から欧米型への変化の過程で起こった歪みと言われていますが、アメリカでも”昔はこの程度の長時間労働は当たり前だった”と嘆く中高年層は多くいますし、ゴールドマンサックスのように日本的な助け合い文化を取り入れる企業もあります。日米共に、”古き良き”昔の社会に戻ることはできないのでしょうから、企業も個人も変化に適応していくしかないのでしょう。

※Yahoo!ニュースからの転載

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