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「よき死」をどう選ぶのか - オランダの「安楽死」報告から

終末期をどう迎えるのか。長寿化が進み、病院ではなく在宅で最期を迎えたいという高齢者が増えるなかで、日本の社会もこの問題に向き合わざるを得ない。「安楽死を選ぶ―オランダ・『よき死』の探検家たち」(日本評論社)を出版したオランダ在住の通訳、シャボットあかねさんを招いて行われたシンポジウムからこの問題を考えたい。

「安楽死を選ぶ」 作者シャボットさんを迎えて

 「安楽死を選ぶ―オランダ・『よき死』の探検家たち」(日本評論社)を出版したオランダ在住の通訳、シャボットあかねさんを招いて、年明け1月10日に東京都国立市で「市民から見た望む看取り」と題した講演会とシンポジウムを開いた(主催は国立市在宅療養推進協議会)。

 シンポジストは秋山正子氏(白十字訪問看護ステーション統括所長)、新田國夫氏(医療法人つくし会理事長)、藤原瑠美氏(「ニルスの国の認知症ケア」の著者)、山本秀子氏(国立市在宅ケアを考える会代表)の4人、私がコーディネーターを務めた。

 シャボットさんの話は日本の「常識」から相当に距離を感じさせる内容だった。

年間4,000人以上が安楽死を選ぶオランダ

 オランダの「安楽死法」が成立するまでには長い歴史がある。1973年、実の親を安楽死させた医師の事件をきっかけに安楽死の国民的な議論が始まる。そして、さまざまな事件を経て1993年遺体処理法、さらに2002年、いわゆる安楽死法(正式名称は「要請による生命の終結及び自死の援助審査法」)が成立、施行された。

 安楽死が認められるには、
1. 患者からの任意かつ熟慮された要請
2. 圧倒的に医療的な苦しみがある
3. 他に合理的な解決策がない
4. 独立した医師によるセカンドオピニオン

などの要件を満たさなければならない。これらの要件が満たされれば、医師は薬の投与、注射により患者を安楽死させることが認められる。このほか地域審査委員会という第三者委員会が最終的に判断する。

 2012年度にオランダで認められた安楽死は4,188人、このうち医師による生命の終結3,965件、自死の援助185件。3,251人が末期がんなどの重病を抱えるが、「耐え難い苦しみ」という患者の訴えを医師が認めれば、安楽死が認められるケースもあるという。

 日本では仮に患者が望んでも、医師がそれに手を貸せば自殺ほう助や嘱託殺人に問われるが、ではなぜ、オランダでこうした安楽死が可能になったのか。

 シャボットさんは、“オランダでは個人の自己決定が尊重されていること、関係者が納得できるまで議論を尽くす開かれた議論好きの国民性があること”を挙げた。

「安楽死」を認める国、オランダのケア事情

 「安楽死」が注目されるオランダでは、当然、ターミナルケアへの関心も高く、家庭医制度を柱とした在宅ケアが充実している。

 私は2012年夏、オランダで世界的に注目を集めている在宅ケアチーム「ビュルツォグ(Buurtzorg)」を調査した。「ビュルツォグ」は、最大12人の看護師でつくるチームで、利用者40−60人に対し、訪問看護・身体介護などトータル・ケアを提供する。日本ではケアマネ・看護・介護職が分業しているケアを看護職がトータルで行うのが特徴だ。家庭医と緊密な連携をとりながらケアを利用者に提供していることが、ビュルツォグのめざましい広がりにつながっている。

 国立市でのシンポジウムでも、秋山正子氏は「(安楽死の是非を論じる前に)まず何よりも大事なことは、安心して暮らせる在宅ケアの充実ではないか」と指摘しており、私もこれには同感である。

「よき死」をめぐる日本の課題

 シンポジウムでは、2010年度のオランダの死亡総数のうち、安楽死が2.8%に対し、生命の終結を早める可能性のあった疼痛緩和、症状緩和の強化による死が36%あったというデータが挙げられた。そのデータに対し、新田医師からは「生命の終結を早める可能性のあった疼痛緩和、症状緩和の強化による死の割合は、日本ではもっと多いのではないか」「それが表面化せず、医師の判断で死につながっているケースがあるのではないか」と指摘があった。

 この正確な実態はわかりにくいが、日本の医療は、医師の力が強い父権主義ともいわれる。オランダの安楽死が、本人、家族、医師の納得づくで選択されているのに対し、日本では「よき死」についてのそうした議論、コンセンサスがなかなか進んでいない。その点のもどかしさも痛感させられた。

 「よき死」をめぐる議論が、今後さらに進んでいくことを期待したい。

 最後に、シャボットさんの力作を、ぜひ一読されることをお勧めしたい。
「安楽死を選ぶ―――オランダ・『よき死』の探検家たち」 日本評論社:http://www.nippyo.co.jp/book/6402.html

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