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新興国不安とソチ五輪後のロシア

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今週は円高と株安で市場が荒れました。1月末から新興国の通貨が売られ始め、「中国経済が怪しい」「いや、米国経済にも懸念が」などと不安が拡散したことが原因です。でも、根っこの部分にあるのは、米連銀によるTaperingがいよいよ軌道に乗ったこと。予想されていたこととはいえ、今月から発足したイエレン新議長の手腕が問われます。

「2014年は新興国経済の真贋が問われる年」というのが本誌のかねてからの見方でありますが、今週は昨年に引き続いて日露専門家会議(東京)に参加する機会を得ました。今週末のソチ五輪開会式を控えて、ロシアの有識者との意見交換は非常に有益でありました。後半部分では、日ロ関係についても若干の考察を加えてみたいと思います。

●新興国経済に動揺走る



前号でも紹介した通り、筆者は年明けからいろんな業界の新年会をハシゴしている。「景気を知りたかったら、データを見るより人に訊け」というのはまことに真理であって、わが国産業界には久々の楽観ムードが流れているようだ。おそらく電力業界などを例外とすれば、概ね明るいお正月を迎えていると評して良いのではないだろうか。

それはまことに結構なことながら、ここへきて円高・株安が進んでいる。思わぬ外的ショックにより、お屠蘇気分が吹き飛んだ、という向きも少なくないかもしれない。

問題が発生したのはアルゼンチン、南アフリカ、トルコといった新興国市場である。まずは1月23日にアルゼンチンペソが23%の下落。次いでトルコのリラ、南アのランド、ロシアのルーブルなども下落している。新興国通貨が相次いで売られる展開(Contagion)は、1997年のアジア危機を彷彿とさせる。

そうかと思うと、インドやインドネシアでは通貨安は一時的な現象にとどまっている。この辺は、ユーラシアグループの”Top Risks 2014”が、第2位に掲げた通りの展開だ。すなわち、「新興国市場(Emerging Markets)は多様(Diverging Markets)」なのである。

新興国の対応がDiverge(分かれる)するのは様々な理由による。アルゼンチンはデフォルトの前歴があるだけに、投資家の逃げ足は速い。トルコも政局不安があり、政権と中央銀行の間に不協和音がある。だから急激に金利を上げてもその効果が表れにくい。

他方、インドでは著名な経済学者であるラグラム・ラジャン氏が中央銀行総裁となっている。それが引き締め策に打って出たことでインド・ルピーは底入れした。選挙の年であるにもかかわらず、インド政府が輸入抑制策をとったことも好感された。昨年秋に、日印通貨スワップ協定が拡大されていたことも、一定の歯止め効果があったのだろう。いつものことながら、通貨の世界は「認識のゲーム」なのである。

新興国の不安定な動きはニューヨーク市場にも飛び火し、日経平均も調整している。かかる状況では「安定通貨」である円は買われやすく、為替相場はやや円高に振れている。とはいえ、これが世界経済の不安要因に発展するかといえば、そこまでは考えにくい。なんとなれば、原因が米国のTaperingにあることが見えているからだ。

これまでは米連銀のQE(量的緩和政策)により、全世界にふんだんなマネーが供給されてきた。それが昨年末から緩和策の縮小が始まっている。それまで毎月850億ドルずつ国債や住宅担保債権を買い入れていたものを、少しずつ減らしていく方向に転じている。昨年12月のFOMCではまず100億ドル、そして1月28-29日のFOMCでも、さらに100億ドル減らして650億ドルにすることが決まった。

このことが世界経済にじわりと影を落としている。とはいえ、実際の影響は軽微なはずである。金額が少し減っただけで、なおも巨額の資金供給は続いている。「米国は金融引き締めに転じた」と勘違いしている人が少なくないのだが、実際には水道の蛇口の栓を少し捻っただけで、まだまだ水はふんだんに出続けているのである。

1997年のアジア通貨危機の際は、通貨安に見舞われた各国が問題を否定するところから始まった。国際的な投機筋を非難したりして、危機を認識するまでに時間がかかったのである。ところが現在の事態は、昨年5月頃から「いずれはそうなる」と皆が思っていた。だから新興国では、すばやく金利を上げるなどして対応している。また当時に比べて変動相場制をとる国が増えているし、外貨準備も格段に増えている。

極論すれば、新興国は通貨を切り下げてインフレを甘受すればいい。もちろんそれでは国民が困るので、政治家にはその覚悟がつきにくい。だから「危機」が起きてしまうのだ。

突き詰めれば政治次第である。2014年はタイ総選挙(2/2)、コロンビア大統領選(5/25)、インド総選挙(5月)、南ア総選挙(4~7月)、インドネシア大統領選(7/9)、トルコ大統領選(8月)、ブラジル大統領選(10/5)という7つの大型選挙が予定されている。新興国経済の不安が政治にも波及して、ドミノ倒しみたいなことになると確かに厄介なことになる。が、それさえなければ、1997年型の「連鎖する危機」には至らないだろう。

●「世界同時拡大」シナリオは不変

というわけで、新興国経済がいきなり危機を迎えるというわけではないと思うのだが、本誌が何度も指摘している通り、2014年は「約10年間続いた新興国の時代が終わり、先進国が世界経済の主役に回帰する年」となるだろう。IMFは恒例の”WorldEconomic Outlook”を、1月24日に更新している。2014年と15年の世界経済を3.7%、3.9%と予測しており、2012年、13年の3%台前半より少しだけ成長が高まることになる。この間、先進国は1%台から2%台へとなり、新興国は4%台後半から5%台前半に加速するというシナリオである。

上記をよくよく見ると、以下のようなシナリオが描かれていることに気づく。

*米国経済が、2年連続で3%前後の成長軌道に戻る。2008年以来初めてのことである。
*ユーロ圏は、3年ぶりにプラス成長に回帰する。
*日本は14年、15年と連続で増税が予定されているものの、1%台の成長を持続する。
*中国経済が、わずかながら減速する(7.7%→7.7%→7.5%→7.3%)
*ブラジルとロシアの成長率が、驚くほど低下している。2%台の成長率は、新興国としてはとても物足りない水準であろう。
*世界貿易量も底打ちして増加に向かうが、石油価格は下落に転じる。

つまり実体経済の面でも、じょじょに新興国から先進国への主役交代が進んでいる。それと同時に、資源価格の高騰も一段落するという読み筋である。と同時に、オールドエコノミーを中心とする新興国経済の量的拡大は一服するということになる。産業面で言えば、久々に先進国のハイテクセクターに関心が集中することになるのではないだろうか。

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