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米国の産業別雇用者数の長期的・構造的な変化を見る

目先の景気による小さな動きではなく、長期的・構造的に見て、どういう産業セクターで雇用が拡大していて、どういう産業セクターで雇用が縮小しているかは、国内の産業構成がどのように変化しつつあるかを把握する上できわめて重要です。

Googleで『雇用統計』で検索すると、米国の雇用統計に関する情報ばかりが列挙されてきます。米国では、雇用統計は重要な経済指標と認識されていて、日本の金融経済の専門家たちも常にそれに注目しているからです。ところが、日本の雇用統計に関する情報はあまり出てきません。Googleの検索結果を数ページ繰るとようやく「労働力調査」が出てきますが、この統計に関するニュースや専門家のコメントは非常に少なく、あまり注目されていないように見えます。雇用統計に関する日米のこの大きな違いは、どうして生じているのでしょうか。

米国は、国内で雇用される可能性のある全ての個人にユニークな社会保障番号(Social Security Number, SSN)を付与しています。雇用主は、給与を支払った雇用者にかかる「給与税(payroll tax)<日本の社会保険料と同様の目的税で雇用主と雇用者が折半で負担>」を、雇用者の社会保障番号に基づいて毎月納付します。これによって翌月中には前月に給与支払いを受けた雇用者数の速報値が出てきます。この速報値は「非農業雇用統計(nonfarm payroll)」と呼ばれていて、米国労働省労働統計局(Bureau of Labor Statistics)のHPから誰でも簡単に詳細データを入手することができます。大区分産業セクター別の雇用者数についてはなんと1939年にまでさかのぼって時系列データを入手することができ、より詳細な産業別の雇用者数についても1990年にまでさかのぼって時系列データを入手することができます。また、米国商務省経済分析局(Bureau of Economic Analysis)のHPからは、GDP関連データとして、1998年以降の産業別雇用者数の時系列データを簡単に入手することができます。これらによって、投入産出・付加価値・雇用者数を産業別に時系列で把握することができ、米国の産業構造の時系列的変化の中味を詳しく知ることができます。

米国労働省労働統計局に行ってみる
米国商務省経済分析局に行ってみる

このように、米国には社会保障制度を基盤にした雇用統計の仕組みがありますが、日本では、社会保障の制度ごとに対象者が別々に管理されていて、制度で使わないデータは保有せず、社会保障制度全体の対象者の名寄せ管理も行われていません。コストと手間を沢山かけながら、せっかくのデータを多様に活用できないでいます。日本の産業別雇用者統計は「労働力調査」で、一定の統計上の抽出方法に基づいて選定された全国約4万世帯を対象に毎月行われているサンプリング調査です。統計的有意性は確保されていて、長く続けられている統計調査だとは思われますが、産業分類区分の変更によって過去から連続する時系列データを入手することができません。現在の産業分類区分によるデータは2007年までしかさかのぼれず、また2011年は東日本大震災の影響で調査を行えなかった県があるために全国データがありません。また、内閣府の「国民経済計算」データには、産業別付加価値額(GDP)に対応する産業別雇用者数の統計はありません。「労働力調査」は、短期的な雇用動向をおおまかに知るのには役立ちますが、長期的な産業別雇用構造の変化を把握し分析するためにはきわめて不十分です。

以上のような前置きをしたうえで、あらためて米国の産業別雇用者数の変化の傾向を見てみたいと思います。使用しているデータは米国商務省経済分析局(Bureau of Economic Analysis)のHPからダウンロードしたGDPデータです。

最初のグラフは、1998年を100とした指数にして、産業セクター別の雇用者数の変化を概観したものです。雇用者数が減少している期間を雇用悪化(不況)期と考えてピンクの背景にしてあります。また、この13年間に最も雇用が増加した3つの産業セクターと、最も雇用が減少した3つの産業セクターを点線で囲んであります。

まず、雇用が減った3つの産業セクターから見ます。①製造業(Manufacturing)の雇用は、とくに不況期に大きく削減されていますが、好況期にも増加は見られません。②新聞・放送・出版等情報産業(Imformation)の雇用は、2000年まで急激に増加した後は、一貫して減少が続いており、やはり不況期にとくに大きく減少しています。③建設業(Construction)の雇用は、ほぼ景気の波に連動して大きく増減しており、サブプライムローン破たん以降の減少が著しく大きかったために純減しています。

逆に、雇用が増えた3つの産業セクターを見てみましょう。④教育・健康・社会支援(Educational services, health care, and social assistance)の雇用は、景気に無関係に直線的な増加を続けています。⑤芸術・エンターテイメント・娯楽・宿泊・飲食サービス(Arts, entertainment, recreation, accommodation, and foods services)の雇用は、やはり一貫して増加する傾向にありましたが、リーマンショック後の2009年には減少し、その後またゆるやかに回復する傾向が見えます。⑥専門及びビジネスサービス(Professional and business services)の雇用は、企業向けサービス産業ですから景気に連動して増減していますが、長期的には増加を続ける傾向が見えます。

次に、雇用が増えた3つの産業セクターについてより細かい個別産業にブレークダウンして、同じように1998年を100とした指数で、より細かい産業別雇用者数の変化を見てみます。同じように、雇用不況期間をピンクの背景にして、この1年間に最も雇用が増加した4つの産業と、ほとんど雇用増加のなかった3つの産業を点線で囲んであります。

まず、とくに雇用が増えた4つの産業から見てみます。⑦社会支援(Social assistance)の雇用は、景気に関わらず概ね一貫して増加しており、一時的な雇用減少はむしろ好況期に生じています。⑧システム設計及び関連サービス(Computer systems design and related services)の雇用は、いわゆる「2000年(Y2K)問題」対応で急増した後に激減し、好況期に再び急増に転じ、リーマンショック不況で一時的に減少したものの、すぐにまた急増に転じています。⑨外来健康ケアサービス(Ambulatory health care services)の雇用は、景気とかかわりなくほぼ直線的な増加を続けています。⑩教育サービス(Educational services)の雇用も、やはり景気とかかわりなくほぼ直線的な増加を続けています。

逆に、ほとんど雇用増加のなかった3つの産業を見てみます。⑪宿泊(Accommodation)の雇用は、好況期に少し拡大するものの不況期には減少して、13年間通算でほとんど増加していません。⑫管理及び支援サービス(Administrative and support services)の雇用は、企業向けサービスなので好況期に拡大し不況期に減少していますが、13年間通算ではあまり増加していません。ただし近年の好況では大きく回復しているように見えます。⑬法律サービス(Legal services)の雇用は、景気に関わらず少しずつ拡大を続けていましたが、リーマンショック不況で減少に転じ、近年の好況でも回復する傾向は見えません。

その他のサービス産業は、これらの7つの産業の中間に位置していて、全体として雇用の拡大に貢献しています。

以上では、産業別の雇用増減のトレンドを見てきましたが、次では産業別雇用規模の比較をしてみます。1998年と2011年の産業セクター別の雇用者数構成比を比較し、更に、2011年については、13年間で最も雇用増加の大きかった3つの産業セクターをより細かくブレークダウンして産業別雇用者数構成比を詳しく見てみます。


すでに見たように、1998年から2011年の13年間に3つの産業セクターの雇用が増えて構成比率が拡大し、3つの産業セクターの雇用が減って構成比率が縮小しました。製造業(Manufacturing)は、全体から見ると「小さな雇用セクター」になり、政府(Government)はそれよりずっと「大きな雇用セクター」になっています。

13年間で雇用の拡大が最も大きかった3つの産業セクターは、2011年には民間雇用の半分を占めるようになっています。その内訳をブレークダウンすると、フードサービス及び飲み屋(Food services and drinking places)の<飲食業>が最大の雇用産業になり、病院・看護及び介護住居施設(Hospitals and nursing and residal care facilities)と外来健康ケアサービス(Ambulatory health care services)の<医療介護健康系産業>がそれに次ぐ大きな雇用産業になり、管理及びサポートサービス(Administrative and support services)と多様な専門的科学的技術的サービス(Miscellaneous professional, scientific, and technical services)の<企業向けサービス産業>がそれに並ぶ大きな雇用産業になっています。

雇用成長率の最も大きかった4つの産業のうち、教育サービス(Educational services)社会支援(Social assistance)もかなり大きな雇用産業に成長してきていますが、システム設計及び関連サービス(Computer systems design and related services)はまだそれほど大きな雇用産業にはなっていません。成長が大きかった新しい産業は、まだ雇用の大きな産業にまで成長しきってていないという見方もできます。

以上のような米国の産業別雇用変化に対して、日本の産業別雇用変化がどうなっているのかを、是非とも比較してみたいと思うのですが、残念ながら日本には公に公表される整理された雇用データがありません。これはとても残念なことです。

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