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現在のネットは「群集」を生成する装置になっている~コラムニスト・小田嶋隆氏インタビュー

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コラムニストの小田嶋隆氏(編集部撮影)
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インターネットの普及やソーシャルメディアの隆盛により、多くの人が自ら文章を書き、ネット上に流通させることが可能になった。こうした傾向は、インターネットや社会にどのような影響を及ぼしたのだろうか。また、こうした状況下で、文章を書く際には、どのようなことに留意すべきだろうか。昨年末に著書「ポエムに万歳!」が発売されたばかりのコラムニストの小田嶋隆氏に、近年のネットを取り巻く言論状況や、自らのコラム観、文章観について語ってもらった。(取材・執筆:大谷 広太、永田 正行【BLOGOS編集部】)

ネットは知識と同時に人間の感情も増幅している

―小田嶋さんは、2008年から日経ビジネスオンラインで連載を続けていらっしゃいますし、Twitterなども積極的に利用されています。ネットの世界の現状について、どのように感じていますか。

小田嶋隆氏(以下、小田嶋):ツールが人間の行動を変えることってありますよね。毛皮の服を着ると歩き方が変わったり、車を買うと行動範囲が広がって性格もアクティブになったりするといったような。インターネットも同様で、ネットという技術のフィルタを通すと、それに関わる人間の様相が変わってしまうという部分があると思います。

一番端的にいうと、日本人は特にだと思うのですが、集まると下品になるんですよ。慰安旅行に行って50人ぐらいで同じ浴衣着ると、もう“ゴミ”みたいな奴になるでしょ(笑)。 祭りで同じ半被着たり、学園祭で同じスタジャン着たりすると、思考能力が2割ぐらい落ちるような気がするじゃないですか。ある制服を着て、ある集まりの中にいると、頭を使わなくなってしまう。これを昔の言葉で「群集」というのですが、現在のネットは「群集」を生成する装置になっていると思います。

1対1で普通に話せば、非常にまともで常識的な人間であっても、ネットの中で発言すると、わりとろくでもない奴になっているということがある。これが一番懸念しているところですね。

―ですが、やはりネットは、ツールとして便利ですよね。

小田嶋:Wikipediaなどが正にそうだと思うのですが、知識の到達範囲、5秒間で調べられるものの範囲が圧倒的に広がった。あるいは、何か発言した際の言葉の到達範囲が非常に広くなった。そういう意味では、人間の知的能力や情報把握の能力を増幅したと思うのですが、同時に怒りや妬みといった感情や残酷さも増幅していると思うんです。

例えば、先日の猪瀬さんの一連の会見。あの吊るし上げみたいな会見をやっている都議会の人間や中継しているテレビの人間が、どうしようもなく残酷で品性下劣だという話ではないでしょう。我々の社会全体が、あの会見を喜ぶようなマインドセッティングにこの20年ぐらいの間になったと思うんですよ。なぜかというと、誰かの欠点、失策、失言を見つけると、ハイエナみたいに寄っていく人間の数とスピードが圧倒的に大きくなったからなんです。

例えば、政治家の失言問題などがありますが、私が覚えている限り、昭和の時代でもバカなことを言っている政治家はたくさんいました。ありえないぐらいバカだったんですよ。しかし、そうした失言は翌日の新聞に載って、読者がお茶の間で「バカだなぁ」と騒いでいるだけで終わった。それが現在では、ネットで取り上げられて炎上して、ワイドショーが追っかけて、国会議員が予算委員で追求するといった流れになる。それで何人ものクビが飛んでいる。現在のインターネットはこうした負の影響を与える装置になっているという問題があります。

ネットメディアに覚える「素人が板場に立って料理しているような違和感」

―こうした傾向には、ネットメディアの影響もあると思いますが。

小田嶋:ネットは“素人”に大きな力を与えたと思います。つまり、ジャーナリズムの訓練を積んだり、既存のマスコミが培ってきた取材ノウハウをまったく持っていない人間が、ふらっと行って情報発信ができるようになった。この善悪を考えると、良い面も多いと思うのですが、やはり弊害も多い。

例えば、新聞においては、一定の権限と責任をもった人間が、どのニュースを一面に掲載するのかを決めます。こうした作業を担当するのは、新聞社の中でも、経験を積んで、記者として一流だった人間の場合が多い。取材能力や記事を読み解く力が高く、この記事が一面である理由を説明できる人間が担当する作業です。我々素人が新聞を読んだときに、重大なニュースとどうでもいいニュースが、そのデスクの目によって編集されているわけです。それが“編集”というもので、新聞には衰えたりといえどもいまだにそういう能力があるわけです。

ところが、ネットメディアというのは、こうした重要度の重み付けをそこらへんの“ニイちゃん”がやっている。Yahoo!ニュースのトップに上がっている記事が、非常にくだらないという事例を私は最近何度も目撃していますが、「あぁ、これはバカが作っているな」と思っています。バカというか何にも考えていないのかもしれない。

一方、新聞記者に会って話を聞くと、最近は記事を書く際にYahoo!ニュースのトップに掲載されることを目標にし始めているというんです。これは圧倒的にPVが多いからなのですが、PVを稼ぐために記事を作るという圧力が、記者の中にも働きつつある。これは非常に不健康なことだと思うんですね。

なぜなら、PVという数字には、いかにバカを引き寄せるかという要素が少なからずあるからです。例えば、中韓をdisるみたいな記事をのっけると、それだけで見に来る人たちがネットの中にはウヨウヨいるわけですよ。単純にPVを稼ごうと思えば、見出しに「キムチが嫌いな小田嶋」とでもつけておけばいいわけですし、実際そうなっている記事がネットメディアには多い。

本来、新聞の整理部のデスクがやっていたような仕事を、Yahoo!ニュースみたいなネットメディアでは、一昨日まで学生だったみたいな奴がやっているように感じます。あるいはネットメディアに就職しただけの、取材経験もなければ、記事をつくったこともなくて、文章を書いた経験もない、もしかしたら自分で新聞を読んでないかもしれない奴が「じゃあ、これトップにあげよう」と決めているかもしれない。そのくせ、その影響力はものすごく大きい。

―センセーショナルな見出しが目立つという傾向が、ネット上で増幅されている部分は確かにあります。

小田嶋:新聞社というのは、この10年disられ続けてきました。記者は、黒塗りの車に旗を立てて、「どけどけ、俺が◯◯新聞だ」という取材をしていると思われている。実際にそういう取材もしているんでしょうし、彼らが偉そうに高い給料をもらって、庶民を見下すように記事を作っていたという部分だってあったのかもしれません。記者クラブというサークルを作って、外部の人間を排除して、自分たちの既得権益の中で情報を回していたというのも半分ぐらい本当のことでしょう。

それでもなお、彼らは記者としての心得や、あるいは基本的な情報を取り扱う人間の最も基礎的なマナーを最低限もっている。だから、嫌な野郎であったり、思い上がっていたりという部分があるとしても、ジャーナリズムに関しての最低限の訓練を受けた上で取材をし、記事を書いている。これは非常に大切なことだと思うんです。

例えば、警官は拳銃を持っていますが、彼らは拳銃を持っている人間がどうふるまうべきか、という常識とふるまい方を知っている。だからこそ、警官が住民に向かって発砲するような事件は、基本的に起こりえないし、誰かを撃ち殺したという事件もめったには起きない。それは、それだけ拳銃に対しての彼らの意識が高いということですよ。

もちろん警官という人たちにはいろんな欠点があるだろうし、権力をもっていることによる思い上がりや腐敗があるのも間違いない。しかし、Yahoo!ポリスという自警団をつくって、「明日からおまわりさんはヤフーがやってくれよ」と、昨日まで学生だった奴がその辺の警備を始めたら、世の中はとんでもないことになると思うんですよ。

それと、同じように記者やジャーナリストにも専門性と覚悟みたいなものがあるわけです。ネットにいる有象無象が情報を右に左にやっているということには、素人が板場に立って料理しているようで、怖さを感じるんですよ。手も洗わないような奴が魚をさばいているんじゃないかという違和感が、ここ最近目立ってきているように思います。

ネット上の発言は、文脈と切り離されて“物騒な言葉”になっていく

―今ですと、Twitterでの発言なども、どこの誰が読むか分からないので、全方向に配慮して慎重になる必要があります。

小田嶋:二者間の会話であれば、おまえの言っていることはちょっと無茶だよとか、俺の言っていることが一貫してないとか、小田嶋ダブスタじゃん、なんてことはよくあるわけです。「おまえ、さっきの話と違うじゃん」と言われて「あ、そうだっけ」みたいなことはよく起こる。でもTwitterは、たとえば私の場合5万人ぐらいフォロワーがいるので、その論争を5万人が見ているわけです。

すると、論争相手のAさんに向けてではなく、5万人にむけて発言しているという状況が出てくる。一種のプロレスみたいなものなので、すごく振りかぶって叩くわけです。本当だったら、「それわかんねぇ」といって終わりなんだけど、見物客がたくさんいるから、意識的な、一種の芸になっていく。だからこそ「普通の会話じゃない」ということを思い知るべきなんです。

実際、私のところにも「キムチ好きですか?」という感じの質問がくるわけです。これは「好き」でも「嫌い」でも、どちらを答えても絶対ろくなことにはならない。質問自体が完全な罠で、「キムチ」という一種の炎上ワードが入っているので、好きだといえば、「あいつやっぱり在日じゃん」といったことを言いたがる奴が出てくる。一方「嫌いです」といえば、また別の炎上の仕方がある。現在のネット上、既に「キムチ」という単語がニュートラルに受け取られない言葉になっているという言論状況では、何かの質問に素直に答えてしまうということ自体が問題なんです。

実際、私は、食べ物としてはキムチが嫌いなんですが、「嫌いです」といったときの反響まで考えなきゃいけない。これがブロッコリーなら違います。「ブロッコリー好きですか?」と聞かれて「あんま好きじゃないです」と答えても“ブロッコリー事件”みたいなものにはならない。でも、きっとキムチだと違ってくる。例えば能年玲奈ちゃんあたりの影響力のデカいアイドルさんが、「キムチ好きですか」と聞かれて「私、大嫌い」といったとすると、これは、大事件になりますよ、きっと。

これは、ネットに集まっている人間のメンタリティーの問題ですね。炎上のネタを探している、ゲシュタポみたいな連中がいるんですよ。私と誰かが「キムチ好き?」みたいな会話していて、「嫌いだよ」と答えると、それをRTして「小田嶋キムチ嫌いだってよ」と2chに貼りに行く奴がいる。そうなると、「こんにちわ、キムチ嫌いな小田嶋さん」みたいに絡んでくる奴が間違いなく出てくる。

さらには、「キムチが嫌いと表明することが、いかに多くの人を傷つけるか。あなたにはその自覚がないのですか」みたいな奴も必ず出てくる。あるいは「あなたは影響力のある立場の人間なのだから、『キムチが嫌い』だということをまっすぐに言っていいお立場だとお考えですか」みたいな奴も…。

私は10年ぐらい前、こんな時代が荒れてなかったころに、「誰もすし屋でキムチを食いたいとは思わない」という比喩を原稿で使ったことがあります。これは、サッカー番組にお笑い芸人を呼ぶことに対して、サッカー番組に笑いを求めていない、ということを言いたかった。すしを食いたいならすし屋に行くし、キムチが食いたいなら焼肉屋に行く。そうした文脈で、サッカー番組にお笑い芸人が出てくるのは嫌だという意味で書きました。そしたら、半年ぐらい前に、誰かがこれを引用して拡散しているのを見つけたんですよ。でも「すし屋でキムチを食いたくない小田嶋」というのだけが拡散されると韓国人大嫌いの国粋主義者みたいじゃないですか。なので、今はもうそういう比喩は使いませんね。

―特にTwitterなどの場合、前後の文脈と切り離されてしまうので、誤解される場合が多いですよね。

小田嶋:これはネット上でなければ、起こらないことです。実際に対面している人間との会話であれば、その発言のおかれている場所がわかるわけです。だから、食べ物の話の中で、キムチがでてきたということがわかる。

「キムチ」という言葉に民族的偏見がこもっているかどうかはその文脈によるわけですが、ネットで発言された言葉というのは、引用されたり、RT拡散されたりする中で、文脈と切り離されて物騒な言葉になっていく。

―猪瀬元都知事も、現在のような状況になって、あらためて昔のTweetを引用されたりしています。

小田嶋:言葉ってある種揮発性があると思うんですよ。自民党の議員さんが、講演会でウケを狙ってちょっと無茶なことを言うみたいなことは昔からありました。それは落語家さんがテレビではできない話を寄席でするのと同じです。

落語家さんは、自分の落語会などでは、差別ネタであったり、放送禁止用語を含んでいるようなやばい話を、下ネタを含めてやるわけですよ。それが、テレビの客とあなたたちは違うんですよ、というサービスの一つだった。それに対して客が「今日はいい話を聞いた」といって喜ぶのは、差別が好きだからというわけではありません。今のテレビは凄く不自由でいろんな言葉が排除されているので、廓話の演目なんてできない。そういう状況の中で、今日はせっかく来てくれたんだからと、落語家さんが「今日は吉原の面白い話をしましょう」という。テレビじゃできないし、ラジオでも掛けられない。だからこそ、客はそれをありがたがるわけです。

同じように、自民党の政治家が自分の講演会に集まっている観衆に対し、「またうるさい左翼がね」みたいなことを言ったりするわけです。左側の政治家であれば、「うるさい、クソ右翼がきましてね」みたいな話をしているかもしれない。講演会の中の話ですから、そうした多少不適切な発言があったとしても、発言をした人間がとんでもない奴だというわけではない。にもかかわらず、こうした発言を全部拾って、「なんとかなう」みたいに拡散されていくのが今の時代ですね。

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