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そろそろ「戦前は悪」というプロパガンダから脱してミクロネシアとの関わり方をもう一度考え直そう



緊迫する南洋諸島を取り巻く環境

世界は広いもので「ミクロネシア」という地域があります。皆さんも何となく名前は聞いたことがあると思います。しかし、「じゃミクロネシアってどんなところ?」と聞かれると、名前を知っている人でも多分9割以上の人が「う〜ん、なんか平和な感じのあったかい島国」という程度の印象にとどまっているのではないでしょうか。少なくともつい最近まで私はそんな感じでした。

ミクロネシアとはギリシア語で「小さな島々」を意味するそうで、パラオ、ミクロネシア連邦、パウル、マーシャル諸島という4カ国から構成されています。位置は分かりやすく言えばフィリピンの横っちょあたりです。

小さな島々というくらいですから人口は前述のパラオ、ミクロネシア連邦、パウル、マーシャル諸島の四カ国(大ミクロネシア連邦)を併せても人口は20万人に満たず、GDPも800億円程度にすぎません。そんなわけでミクロネシアを「小国の集まり」と断じ、国際政治の舞台の考慮の外においてしまうことは簡単なのですが、少し視点を変えて排他的経済水域(EEZ)という観点で見ると日本を越えて、アメリカ、オーストラリアに次ぐ世界3位のEEZを擁しています。


小さな島国で経済的にも日米豪のODA頼みであるミクロネシア諸国では自力でこのEEZの保安することは困難です。とはいえこの海域は、戦後特段大きな脅威にさらされていたわけでもなく、アメリカやオーストラリアが片手間に見張っていれば平和を保つことができました。しかし、中国の海洋進出や世界的な漁業資源の不足などにより、近年事情が変わりつつあります。メディアなどで散々報じられているように、人民解放軍は空母を取得・製造することで沿海海軍から外洋海軍への脱皮を図り、太平洋に進出しようとしています。具体的には2020年までに「第二列島線」なる伊豆諸島ー小笠原諸島ーグアムーサイパンーパラオーパプアニューギニアまでにいたる対米防衛戦を敷き、台湾を支配圏に組み込むという目標を掲げています。

パラオの海上保安活動を日本が支援

それもあってか、最近では中国漁船がミクロネシア周辺海域で違法操業を繰り返し、フカヒレの材料としてこの地域のサメを乱獲しており国際問題となっています。国力が脆弱で自前の船舶をほとんど有さず、有効な対策を打てないパラオは2011年3月には「毒は毒を持って制す」ではないですが、あの鯨の保護テロで悪名名高いシーシェパードと違法漁船の取り締まりに関して提携しようとしたこともありました。この時慌てて日本外務省がこの提携関係の取り消しを求めたこと、一方で2009年以来日本財団が中心となって民間レベルで日米豪が連携して小型パトロール艇を1隻ずつ(計3隻)供与するなどパラオの海上保安強化策を進めていたこともあり、パラオ政府とシーシェパードの協定は破棄されることになりましたが、パラオの状況は、「平和な感じのあったかい島」から「中国の外洋展開に対抗する最前線」、とその位置づけが変わりつつあります。


去る12月2日、前述の日本財団が中心となり検討してきた民間レベルのミクロネシア地域の海上保安能力強化支援事業が第2フェイズを開始する運びになり、日本財団の笹川陽平理事長とパラオのトミー・レメンゲサウ大統領が調印式に臨みました。今回の日本財団の支援の内容は、ハード面ではパトロール用の小型艇1隻及び通信施設1台を前出の3隻の小型艇に追加して供与し、ソフト面で海上保安人材育成の取り組みをすすめる2億円規模のものですが、併せて観光面で旅客船を一隻、先日の大規模台風からの復旧支援としてチェーンソー12台を供与(1.6億円規模)するなど、海上保安に限定されない多様な目的を含む内容となっています。

もはやパラオにとっては海上保安は将来の懸念ではなく目下の大問題となっており、2012年4月にパラオ警察と中国の違法操業漁船の間で銃撃戦が展開され、中国漁船の乗組員1名が死亡、25名が逮捕された事件も生じています。わずか人口1.8万人の島国が中国の恫喝におびえず(どこかの国と違って)粛々と法律を執行した胆力はさすがですが、そうも言っていられないほど中国とパラオの緊張関係は日々増しています。

日本企業の南洋諸国への投資を促すべき

レメンゲサウ大統領は度々日本に対してこの地域でよりプレゼンスを発揮することを求めています。憲法上・予算上の制約もあり直接に自衛隊が実力を行使することが難しい中で、このような支援活動が民間レベルで行われたことは大変めでたいことです。しかしながら、パラオという国が経済的に自立しておらず、他国から支援に海上保安を依存する状況が続く限りは根本的な問題は解決されないでしょう。

パラオが長年アメリカや日本からの支援を受けながら経済的な自立を図れない最も大きな理由は、多大な支援を受けてもそれを使いこなす多様な人材を1.8万人というわずかな人口では育てきれず、せっかくの観光資源や水産資源が宝の持ち腐れと化しているところにあります。もちろん日本財団が行っているような地道な人材育成というのも大切ですが、それでは時間的にも、資源面でも限界があるでしょう。

この点について、パラオを含む南洋群島が日本の統治下にあった戦前(1914年〜1945年)の時代から学ぶところは大きく、当時「砂糖王」と呼ばれた松江春次の才覚と 政府が開発資金供与、積極的な植民政策を組み合わせる形でこの地に自立的な産業として製糖業を興すことに成功しています。松江が起こした「南洋興発会社」は「海の満鉄」と呼ばれるほどに拡大して最盛期には5万人の雇用を生み出すまでになり、当初は赤字であった南洋群島の経営も、10年以上の歳月をかけて黒字化します。今でも製糖業はフィジーやサイパンなどのマリアナ地域の主力産業として同地域の経済的自立に貢献しています。 そのような民間投資によって自立的・持続的な産業を生み出したという背景があるが故に、南洋諸国は日本の統治下にあったにもかかわらず今でも親日のスタンスを保っています。

現在南洋諸国には中国が急速に近づいており、中国と国交を持つミクロネシア連邦に対しては同国の援助が増えているとされています。(パラオ、マーシャル諸島は台湾と国交を有しており、中国との国交は無い。)政府の財政という面で見たときに今の日本に中国政府ほどの大盤振る舞いをする余裕はもはや無いでしょう。このような中で単に資金の多寡に頼る一時的な援助を続けていては、いつか南洋諸島全域を中国の影響圏に組み入れられてしまう日が来てしまいます。そうなると日本にも直接的な影響が生じ、例えば沖ノ鳥島の国際的地位は損なわれ中国や韓国が主張するように「島ではなくたんなる岩」と化して、小笠原諸島周辺まで中国海軍が進出して来てしまいます。

このような事態を未然に防止するためにも、今後日本としては「戦前の日本の姿勢にならい」一歩踏み込んでこの地域の自立に繋がる産業を興すことを目指した投資政策を進めることが求められのではないかと個人的には考えています。日本政府としてはこれまでのように単発的な資金援助をゴールとするのはなく、より踏み込んで現地に持続的な産業を興すことを目的として総合的な「海外投資政策」を検討する段階に来ているのではないでしょうか。

例えば注目すべき取り組みとして日本国内最大の水産グループであるマルハニチログループがCSRの一貫として、ミクロネシア連邦で現地政府と協力して合弁会社を作り、まき網漁のノウハウを移転する取り組みなどが勧められています。これはミクロネシア連邦としては産業振興となり、日本としては世界的に不足するカツオを安定供給することに繋がるwin-winの関係と言えます。さらには民間投資であるが故に、このような投資は単発のODA政策とは違い持続性を有するものです。このような海外への民間投資に対してなんらかの税制優遇措置を儲けることは、日本の国益にかなうはずです。これまでの租税政策ではもっぱら国内への投資を優遇することが当然の前提とされてきましたが、今後は一歩踏み込んで安全保障的な観点も含めて南洋諸国への日本企業の民間投資を促すことで、より持続的な開発に繋がる支援をすることができるはずです。そしてそれは中国の札束で頬を殴るようなODA政策とは一線を画すようなものとなるはずです。

単純に戦前の日本の海外進出を「悪」と見なして、日本人は日本のことだけ考えていればいいという時代は終わりつつあります。今後は周辺諸国と連携して、エネルギー・食料・安全保障・領土政策も含めた観点でwin-winとなる持続的な投資政策を検討することが我が国として求められるのではないでしょうか。それは決して「膨張主義」と批判されるべきものではなく、むしろ膨張する中国からアジアの民主主義を守る一助となるはずです。

(取材協力:日本財団)

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