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お金の価値と人生の価値

投資をする人は「お金が欲しい」という目的が第一義的にあるわけであって、何もレジャーやボランティアでやっているわけではないだろう。もちろんそれでいい。結局のところ、まともに勉強して、まともにリスクマネーを投じない限り、まともなリターンを得られないし、結果的に市場でまともな会社が評価されて株価が上がる(資本コストが下がる)ことが、まともな社会の発展のために寄与することになる。

しかし、往々にして身銭を切って投資を行う個人投資家というのは、その先の目的を持っていない。「何故、お金持ちになりたいのか?」と聞かれて即答できる人は何割くらいいるだろうか?仕事を辞めて、豪邸に住んで、綺麗な格好をして、美味しいものを食べて、、、そう思う人が多いかもしれない。ただ、もし貴方が投資家として大成して実際にお金持ちになったとしたら、その願望はどうでもいいものになっているはずである。人はお金を得るほどに、お金を超えた価値を知ることになるからだ。

マレーシアの貧しい家庭で育った友人のMは、子供の頃、病気に苦しむ母親の治療費を稼ぐために、近隣の住人たちに「何でも屋」を申し出てお金を稼いでいた。貧しい村であったため、隣人も決して裕福ではなかったが、多くの人は善意で彼に仕事を与え、時には食べ物や薬を恵んでくれた。Mはその後、猛勉強をして某アイビーリーグで経営学修士を取得し、ウォール街の投資家として優れた成績を収めるようになった。しかし、若くして大金持ちとなった彼は、ある日突然引退し、全財産をマレーシアで自身が設立した基金へ拠出してしまった。

基金は小さな子供のいる貧しい家庭に対して医療費や学費を支援するものであり、条件として、その子供が将来お金持ちになった場合に、再び同基金にお金を拠出してもらう設計となっている。また、基金の特別条項には、子供の頃のMに施しを与えてくれた村人の名前が記載されており、彼らが病気になった際に全ての医療費を支払うことも明記されている。彼は村人たちの一杯の飯の恩を忘れずに大人になり、それに報いることを人生の目的の一つとした。

人生は誰にとっても一度きりであり、二度目はない。だが、ほとんどの大人は人生の7回裏あたりからそのことに気付く。Mにとって、人生における最良の時間と空間は、貧しくとも家族や隣人の愛に包まれた何気ない日常であった。どんなに富と名声を得ても、遥か先にあると思われた山の頂きに立ってみても、それ以上のお宝はこの世界にはないことを悟った。彼は絶頂のうちにウォール街を去り、今は故郷でファンドマネージャーとして基金から給料を貰い、一方で医大生として勉強に励む毎日を送っている。

お金は大切だ。しかしそれは経済というシステムの中での通行手形のようなものでしかない。そこから切り離した一人の人間としての儚い人生を思う時、胸の中にぽっかり空いた侘しさは、自分以外の命に対して与えることでしか埋められない。お金持ちになって優越感に浸ること、嫉妬や歪んだ自己愛に狂い他人を攻撃すること、己を否定しながら透明な存在に徹すること。そのような人生に価値を見出すことはできない。いつまで経っても。

Mは人生の早い時期から人一倍の悲しみを知り、感謝する心を持っていた。カフェで話をしていた時、私が自分の失敗から得た暗黙知のようなものを話すと、カバンから使い古した分厚いノートを取り出して、蟻のように小さな字で必死にメモを取り始めた。ノートにはびっしりと文字が詰まっていたので「まるでバイブルだね」と言うと、愛おしそうに表紙を手で撫でながら「いいえ、それ以上です」と答えたのをよく憶えている。亡き母からプレゼントされたというそのノートは、彼にとって、お金の価値を知り、そして人生の価値を教えてくれるものとなった。

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