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2014年の日本経済を考える

とうとう師走です。本誌としては、来年の予測に取り掛からなければなりません。いつものことですが、どこかに答えが書いてあるわけではなく、こればかりは手探りでやっていくほかはありません。 まずは日本経済からと行きましょう。2013年はかなり好調な年だったと思いますが、問題はこれが来年も持続するかどうか。持続しないとしたら、その場合の死角はどこにあるのか。何枚もグラフを描きながら考えてみました。家計部門で は「負担増」、企業部門では「モノづくり」がそれぞれの鍵となるように感じています。

●「リーマン前」の水準にようやく届いたが...

最初は本誌愛用の内閣府・月例経済報告の「基調判断」から。今年は上方修正が7回で下方修正はゼロ、据え置きが4回であった。つまり、7勝0敗4引き分けである。

○基調判断の推移

1月:景気は弱い動きとなっているが、一部に下げ止まりの兆しもみられる(↑)
2月:景気は一部に弱さが残るものの、下げ止まっている。(↑)
3月:景気は一部に弱さが残るものの、このところ持ち直しの動きがみられる。(↑)
4月:景気は緩やかに持ち直している。(↑)
5月:景気は緩やかに持ち直している。(→)
6月:景気は着実に持ち直している。(↑)
7月:景気は着実に持ち直しており、自律的回復に向けた動きもみられる(↑)
8月:景気は着実に持ち直しており、自律的回復に向けた動きもみられる(→)
9月:景気は緩やかに回復しつつある(↑)
10月:景気は緩やかに回復しつつある(→)
11月:景気は緩やかに回復しつつある(→)


2013年はわかりやすい景気回復局面だったと言える。ただ、ここへ来て初めて2か月連続の据え置きとなっている点がやや気がかりだ。月例報告の各論部分を見ると、貿易に関する評価が9月、10月、11月と3か月連続で悪化しており、ここに死角があるようである(後述する)。

まことに画期的な点としては、実額ベースで見た実質GDPが、月期にとうとうリーマン前のピークをわずかながら超えたことが挙げられる。

○実質GDP(実額ベース¥)



念のために言っておくと、これは11月14日に発表された7-9月期GDP速報値をもとにした数値であり、週明け12月9日に改定値が出ると下方修正されてしまうかもしれない。とはいえ、足元の10-12月期はプラス成長であろうから、いずれにせよ 2013年内の「ピーク時更新」は確実と言えよう。

米国やドイツなどでは、「リーマン前」の水準はとっくに越えている。ところが日本の場合は、輸出の激減などで他国よりも「リーマン後」の被害が大きかった上に、その3年後に今度は「3/11」震災というもう一つのショックを受けている。さらに2012年にも短い足踏み期間を経て、実に5年間で大・中・小回の「落ち込み」を体験したことになる。

そして、昨年末から四半期連続のプラス成長を経て、やっとここまで到達し、ひとつのマイルストーンを越えたことになる。

他方、名目GDPに着目してみると、7-9月期の実額は483.0兆円と、リーマン前のピーク時(515.2兆円、2007年4-6月期)から大きく見务りしている。つまり物価下落が続く中での成長であったわけで、アベノミクス本来の趣旨から行くとこれで喜んでいるわけにはいかない。すなわち、デフレ脱却への道はまだまだ遠いということになる。

●「雇用者数」に注目してみたら...

もうひとつ、 この夏に マイルストーンを超えたのが「雇用者数」である。

米国経済を見る上で、一番注目度が高いのは雇用統計であろう。特に「非農業部門雇用者増減数」(Nonfarm Payroll)は市場に強い影響力を持つ。ところがまことに奇妙なことに、日本にはこれと同様なデータが存在しない。

日本における雇用統計といえば、いつも報道されるのは失業率と有効求人倍率である。エコノミストの間でも、「前月比、雇用者がどれだけ増えたか」への関心は高くない。正確に言うと、総務省統計局が毎月、労働力調査を発表していて、その中には雇用者数も入っているのだが、変動は前月比ではなく前年同月比で発表されている。

察するに、米国経済は個人消費が主体であるから、雇用者数が増えたか減ったかが関心事となる。逆に日本経済はモノづくりが中心なので、製造業を中心に見た方が分かりやすい。そこで日銀短観や鉱工業生産など、企業の側から経済を見る習慣が浸透しているのであろう。日米の経済を比較する際のひとつのコツと言えるかもしれない。

○雇用者数の推移(季節調整値)



さて、日本の雇用者数をチェックしてみて驚いた。今年8月の季節調整値が、5571万人と史上最高を更新しているのである。人口減少下の日本にあっては、雇用者数は「右肩下がりである」と勘違いしている人は多いのではないだろうか。 最近、この手のデータが取り上げられるときは、「雇用者のうち約3分の1が非正規である」式の議論ばかりなので、総数の増加に気づきにくくなっているのかもしれない。

11月28日発表の10月労働調査によれば、雇用者数(原数値)は5596万人。前年同月比では50万人の増加である。ただしこれを男女比で見ると、女性は2447万人と72万人の増加で、逆に男性は3149万人と22万人の減少である。医療・福祉や 卸売・小売業など、女性が多い職種を中心に雇用が伸びている点が今風の現象と言えよう。

●企業の構成人員は若返っている...

雇用者数の前回のピークは、2007年11月の5565万人であった。そしてリーマンショックがあり、東日本大震災があり、2011年には「半年にわたって被災3県のデータがとれない」という悲惨な状況も出現した。そこから6年目にしてようやく、雇用者数が前回のピークを越えたことになる。

もうひとつ、この指標には重要なポイントが隠れている。それは、前回ピーク時の2007年には、団塊の世代が含まれていた 、ということだ。団塊世代の先頭は1947年生まれだから、2007年にちょうど60歳を迎えた。当時はそれを「2007年問題」と称し、定年を迎えた熟練労働者が企業から居なくなる、ということが懸念されていたのである。

その後の日本企業に、何が起こったかはご高承の通りであろう。企業はベテラン社員に「もうしばらく会社に残って」と繋ぎとめて急場をしのいだ。その間、新卒の採用数を絞り、若者が割を食うことになった。就職氷河期 をいいことに、若者をこき使う「ブラック企業」なるものも跋扈することになってしまった。

最近になって、企業はやっと求人を増やし始め、大卒の内定者数も増えているらしい。他方、団塊世代は既に65歳を超え、さすがに職場に残っている人は少なくなった。つまり2013年の雇用者は、2007年のピーク時に比べてはるかに若返っていることになる。この5年間で、企業内の人口構成の調整が進み、それだけ若返ったことになる。

今後の賃上げの可能性を考える上でも、これは良いニュースといえる。そしてまた「脱デフレの鍵は賃金上昇にあり」ということは、アベノミクスへの肯定派、否定派に共通する認識であるし、2014年の日本経済における最大の関心事と言えるだ ろう。

直近の統計を見ると、10月の失業率は4.0%で先月と変わらずで、かなり良い部類に属する。ちなみに世界各国のデータを見ても1、失業率で日本を下回るのはタイ(0.8%)、シンガポール(1.8%)、韓国(2.8%)、マレーシア(3.1%)、スイス(3.2%)、香港(3.3%)、ノルウェー(3.4%)くらいである。余談ながら、中国の4.0%はさすがに嘘くさい。さらに有効求人倍率は、10月に0.03p改善して0.98倍となっている。仮に数か月先に1倍を超えたとしたら、これまた2007 年以来の快挙となる。

雇用の改善は結構なことだが、若干の懸念も残る。企業内のベテランから若年層への技術やノウハウの伝承はうまく行っているだろうか。最近の日本企業は、「すぐに辞める新卒」の戦力化に手間取っているように見える。JR北海道の最近の問題も、そういう観点から見直す必要があるのではないか。 過去5年間で生じた雇用者数の「歪み」は、日本企業に大きな課題を残しているように思うのである。

●株高と円安は来年も続くのか...

2013年の日本経済は、株価と為替から見ると文句なしの成功ということになるだろう。長年の懸案であった円高が是正され、株価は昨年に比べてほぼ倍近くになった。日本企業の財務諸表は著しく改善された。後は設備投資と賃上げに期待したいところだが、そのためには来年も「株高、円安」が安定的に続いてもらいたいところである。

12月5日夜、日経新聞、テレビ東京、日経センター共催の「エコノミスト懇親会」が行われた。この会の売り物は、参加者全員による1年後の株価と為替予想であるが、今年の筆者予想は「日経平均1万6000円、ドル円レート110円」としておいた。どうやら今年の出席者の中では、かなり「慎重な」数値であったようだ。

為替については、米国経済の堅調さとtaperingを考えると、2014年は緩やかなドル高を見込むのが順当なところだろう。ただし株価に対しては、「東証時価総額が名目GDPを超えるとバブル」といういつもの尺度で見ると、上値はさほどないように思える。

○東証時価総額と名目

GDP11月末の数値は既に9割を超えている。今の日本経済の実力から行くと、日経平均で1万5500円あたりが上限ではないだろうか。むしろ名目GDPを増やして、そこから株高を目指すのがアベノミクスの王道というものであろう。

ちなみに報道にもある通り、特定秘密保護法案の参院審議が大荒れになっていた当夜、安倍首相はこのエコノミスト懇親会 で挨拶し、「去年の政権発足後、日経平均は約6000円も上昇した。ところが専門家の予想平均は1350円だった」「倍返しではなく5倍返しだ!」と述べて会場の笑いを誘っていた。株高という実績があれば、たとえ強行採決をしても内閣支持率は下がらない、と見切っていたのかもしれない。

●貿易動向は構造変化が進行中...

比較的、良い材料が並んでいる2013年末の日本経済であるが、最大の懸念材料は貿易動向であろう。

11月28日、日本貿易会の貿易動向調査が発表された2。2年前に筆者が座長を務めたときの予想は、「日本経済は意外としぶとく、貿易収支の悪化は一時的な現象に留まる」というものだったが3、今年の予想はそれとはかなり違う姿になっている。下記の2つのグラフに見られる通り、貿易赤字は「ふたケタ」兆円台(13年度▲12.1兆円、14年度10.7兆円)になり、経常黒字は「ひとケタ」兆円台(13年度5.1兆円、14年度7.5兆円)に留まるという内容である。往時を思えば、大変な様変わりである。

翌日の新聞報道が非常に興味深く感じられた。朝日新聞は「今年度赤字過去最大12兆円」、NHKは「貿易赤字2年連続で過去最大更新か」という見出しを掲げ、悪い面に着目している。これに対し、日経新聞は「日本の経常黒字3年ぶり拡大」、読売新聞は「14年度の貿易赤字10兆円に縮小見通し」と、明るい面を見出しにしている。

まさに「コップに入った半分の水」。赤字拡大を心配するか、それとも赤字拡大に歯止めがかかりそうなことに安心するか、両様の読み方ができるところである。すなわち、円安にもかかわらず輸出は伸び悩んでおり、その一方で輸入は80兆円台という高い水準で推移することになりそうだ。円安が即座に「日本の製造業復権」につながらないとしたら、これはアベノミクスの盲点ということになりかねない。

この点について、本見通しは以下のようにコメントしている。

* 長期にわたる円高傾向によってつくられた海外生産・需要地生産への流れは、わずか1年程度の円安で変わるものではない。
* 国内における供給能力の拡大抑制ないしは削減が進められる中で、国内需要の回復を受けて輸出余力が低下することも、輸出の拡大を妨げる要因となっている。
* 主な進出先であるアジア新興国において、質の面でも生産能力が高まったところから、生産財の現地調達シフトが進み、現地企業との競争が激化している。
* 一方で、貿易赤字拡大の一因である海外生産移転は、サービス輸出(特許等使用料)拡大や直接投資収益の受け取り増を伴い、経常収支の黒字維持に貢献する。

これらの指摘から浮かび上がってくるのは、言い尽くされたことだが「貿易立国から投資立国へ」の構造変化である。「製造業の復権」は、確かに望ましいことであるが、それが日本経済にとって唯一の道というわけでもあるまい。また、少子・高齢化が続く日本経済において、製品輸入が伸びているのはおそらく正しい方向であろう。

もちろん、海外経済が加速することにより(Synchronized Global Expansion)、輸出が上振れすることは十分にあり得る。輸出数量と鉱工業生産の動向を、引き続き注意深くウォッチしていく必要があるだろう。

●2014年の難関は負担増…

世間的にもっとも関心が高い点については、最後に尐しだけ触れることにしたい。

2014年の日本経済にとっては、4月の消費税3%アップ(約7.5兆円分の負担増)の影響が最大の難関とされる。実はそれ以外にも、「70-74歳の医療費自己負担引き上げ(10→20%)」「公的年金給付額の1%引き下げ」「厚生年金負担料の増額」などの負担増が予定されている(合計すると約1.5兆円分)。2013年の日本経済は、「第2の矢が思ったよりも効いている」と言われたものだが、2014年の財政政策はじょじょに緊縮に向かうことを忘れてはならない。

かといって、「増税による反動減」を恐れ過ぎるのも問題がある。理屈から言って、反動減は駆け込み需要とほぼ等しくなるはずである。駆け込み需要のうち、住宅建設などは2012年頃から始まり、今年9月末でほぼ一巡した。現在は耐久消費財に焦点が移っているようだ。これとは逆に、反動減は増税からほぼ半年くらいの間に集中的に表面化するはずである。従って、経済対策は来年4月から9月の間に効率的に打つ必要がある。

今週発表された5.5兆円という経済対策は、ほぼ十分な金額と言えるだろう。とにかく4-6月期の景気を極端に悪化させないことが、2014年の政策運営の勘所である。

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