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特定秘密保護法案 徹底批判(佐藤優×福島みずほ)その1

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基本的人権を侵害する憲法違反の悪法と批判の声が上がっている特定秘密保護法案について、自民、公明両党の幹事長・国対委員長は12月4日午前、東京都内で会談し、12月6日の参院本会議で強行可決・成立させる方針を確認したと報道されている。法案のトンデモなさを多角的に浮き彫りにした対談を緊急配信する。

軍機保護法と国防保安法の現代版

福島みずほ/参議院議員。前社民党党首。
佐藤 いま、日本社会は非常に危機的な状況に直面していると思います。しかし、国民に危機感が十分に共有されていない。特定秘密保護法案の問題点については、二〇一三年一一月一三日の『朝日新聞』〈天声人語〉がよかった。

福島 興味深い内容でしたね。

佐藤 防衛省が秘密を取り扱う職員をチェック(適性評価)する時、どういう項目を作っているのかについて書いています。〈天声人語〉の一部を紹介します。
〈本紙が入手し、きのう報じた「身上明細書」という書類がある。防衛秘密をあつかう自衛隊員について、任務に適格かどうかを調べるため本人に書かせるものである。(略)会社を自己都合で退社、という職歴の記入例はだめとされる。給与面の不満とか具体的に理由を書け、とある。交友関係も飲み友だち、交際相手などと細かく書かせ、その住所まで記入させる。住所を把握して何に使うのか▼隊員の上司が書くと思われる「調査票」という書類もある。隊員は正直か、異性関係はだいじょうぶか、借金の取りたてはないか、特定の外国をしばしば訪れていないか、虚言癖や特異な趣味嗜好はないか。いずれも本人に確認せずに記入する〉
 これは、もう本当に一人ひとりの個人情報を調べているということですよね。離婚しているなら元の配偶者はどういう背景を持つ人だったのか、会社はどういう理由で辞めたのかを具体的に書かせる。自己都合退職とかはだめだという。こういった情報を集めないといけない。しかし、裏返して言えば、自主申告に頼らないと調査できないような態勢だということなんですよね。

福島 特定秘密保護法案の適性評価は、公務員もさることながら民間の取引先にも及びます。実施主体はどこかと言えば行政で、実質的には警察となっています。

佐藤 そこが問題なんです。

福島 民間企業のなかに警察の手が入るけれど、秘密裏にやることになるだろうから、尾行などをする。しかも法案のなかには、「飲酒の節度」などという調査項目が入っています。では、個室で飲んでいるのをどうやって外から調査するのでしょうか。
 とてもおかしい。たとえば民間会社のチームが特定秘密に関することを扱うことになったとします。業種は、かりにコンピュータ関連でもいいし軍需産業でもいい。そうしたらその会社の幹部は、そのチームが特定秘密を請け負っているということを知らないわけにはいかない。しかし、先日、政府の担当者に聞いたら、会社の社長が「進捗状況はどうかね」と聞けないと言うんですよ。だから会社の幹部も仕事の内容を把握できない。

佐藤優/作家。元外務省主任分析官。
佐藤 歴史の先例に照らすとわかります。特定秘密保護法案は、まるで軍機保護法(一九三七年に制定)や一九四一年に制定された国防保安法なんですよね。
 これらの法律があった時代、たとえば戦艦武蔵を作っている造船所のチームがどうだったかを考えてみます。武蔵の建造にかんしては、その会社の社長も聞けないのです。なんとなく雰囲気はわかっても、個別のことにかんしては聞けない。
 吉村昭さんの小説『戦艦武蔵』(新潮文庫)を読むとよくわかります。そのなかで、ある設計図を技師が隠してしまう場面があります。そして、特別高等警察(特高。社会運動や言論、思想取り締まりのために設置された警察機構)がどういう拷問を加えて秘密情報が漏れたのかを調べるかが描かれます。
 特定秘密保護法案は、実は、軍機保護法・国防保安法と同じ構成ですよ。
 私は元外交官でしたから、一般論として秘密の保全は必要だと思います。その理由はこういうことです。外務省の局長ぐらいの幹部が、外国情報機関から得た情報を、首相官邸に持っていかないで、与党の特定政治家に流すことがあります。自己の栄達のためです。そういう状況下では、インテリジェンスの情報交換はできないわけです。

福島 情報を持っていることがまさに力であり、官僚たちがそれを私利私欲のためにこれまでも使ってきた。公僕としての意識がまったくありませんね。

官僚の独善的な支配をもたらす

佐藤 そうです。ただ、秘密保全は必要だという前提に立ったとしても、いまの特定秘密保護法案にはいくつもの問題点があります。まず、事実上、警察が適性評価をする体制になっていることが問題です。人事院とか中立的な機関に調査部門を設けるなら話は別です。しかし、警察は、外務省や防衛省と権限の拡大をめぐって争っているわけですよね。

福島 省庁間の縄張り争いはなかなか激しいですからね。

佐藤 警察から外務省への出向者や、海外に出張で来る警察官でも、たとえばモスクワに来ても賭博場やいかがわしい曖昧宿みたいなところに行っている人もいます。日本の官僚機構はとても腐敗しています。国家公務員倫理法では、五〇〇〇円以上の接待を受けたら報告する義務がありますが、すべてを正直に申告している官僚はほとんどいないわけです。つまり、適性評価をすると、ほぼ全員が違反している状態になると思いますよ。
 省庁間の権限争議のなかで、「防衛省のこいつは適性評価に引っかからないことにしてやろう。外務省のこいつは気に食わないから×にしよう」と恣意的な運用がされるのは目に見えてます。

福島 おそらくそうなるでしょうね。

佐藤 それから、まだ問題があります。政治家は適性評価の対象になっていません。

福島 確かに政治家は適性評価の対象外です。

佐藤 情報機関の間ではどういう約束をして情報を送ると思いますか。「適性評価を受けていない人間には情報を回さないでね」という約束になります。
 そうすると、機微に触れる情報のほとんどが官僚のなかで独占されることになります。その結果、政治家が政治判断をできないわけですよ。要するに官僚の元締めの人間が「先生、こうなってます」と説明する。極端な例をいえば、「総理、イラクが大量破壊兵器を持っています」と説明する。首相が「具体的な情報を見せてくれ」と言っても、官僚が「適性評価を受けていないからお見せできません」ということになります。

福島 大臣と副大臣、政務官の政務三役も適性評価しないわけですからね。

佐藤 そうです。だから適性評価を受けていない人間は、もう情報を受け取れる身分ではなくなるわけですよ。そこのところを本当はすごく議論しなきゃいけない。いずれにせよ、国家に秘密を認めるとか、認めないとか以前の問題として、こんな粗雑な法案が国会に上程されていること自体が、日本国家の恥ですね。

福島 おっしゃるとおり、特定秘密保護法案はいろいろな点できわめて変です。
 現状でもこういうことがありました。中井洽さん(民主党顧問)が拉致担当大臣だったとき、「拉致問題についての議事録を出してくれ」と外務省に言ったら「出せない」と断られたそうです。彼は拉致担当大臣だから、本来なら知らないと仕事にならないのに、外務官僚は出しませんでした。
 現状でも官僚が情報をにぎっています。特定秘密保護法案が成立すればもっとひどくなります。官僚の官僚による官僚のための独善的な支配をもたらす法律なのです。三権分立がぶっ壊れる。国民主権が壊れるばかりか、国権の最高機関である国会が、政府を追及したり情報を得たりすることができなくなる。国会論戦のなかでも正式に出てこなくなるんですよ。まして、いまの政治状況では、コロコロと短い期間で替わる大臣に官僚は情報を出さないと思うんですよ。

佐藤 国家運営の基本哲学に大問題が生じてきているわけです。「情報は誰のものか」っていうことなんです。

福島 そうです。情報は国民のものです。

ナチスの手口に学んでいる

佐藤 国会で働く職員は「参事」であるとか、ようするに役職に「官」がつかないですよね。その理由は、国会議員は民の代表だからです。。それに対して裁判所は官がつきます。たとえば裁判官とか書記官とか。もちろん役人には事務官や技官と「官」がつきます。

福島 ああ、確かにそうですね。

佐藤 「官」がついていないということが実は重い意味を持っています。国民の代表である国会の側が情報を持っている必要があります。国会が情報統制から完全に外れ、結果として情報が入ってこなくなるのはおかしい。
 さらに言えば、安倍晋三政権は、麻生太郎副総理がいみじくも発言したように、ナチスの手口に学んでるんじゃないかと思います。ドイツ・ミュンヘン大学の教授だったオットー・ケルロイター(国法学者、一八八三~一九七二年)はこう言っています。「成文憲法の改正はしなくていい。ワイマール憲法と矛盾する一般法をいくつも立てていけばいい。ヒトラー政権になってから成立した一般法の総体を、ナチス憲法とみればいいんだ」。このナチスの手口に本気で学んでるんじゃないか、と感じる法案です。

福島 それはまったくその通りですね。私は、安倍総理の頭のなかには工程表があると思っています。たとえば、(1)今年中に国家安全保障会議(NSC)設置法と特定秘密保護法をワンパッケージで成立させる。(2)その後、首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇、座長は柳井俊二元駐米大使)で集団的自衛権の行使を抜本的に認める。(3)来年の通常国会には国家安全保障基本法案を出す。国家安全保障基本法案のなかで、交戦権の行使も集団的自衛権の行使も、つまり武力行使を認める――石破茂さん(自民党幹事長)はかつて、国家安全保障基本法案は議員立法で出すと言っていたんです。閣法、つまり政府提案立法では出せないからです。なぜならば……。

佐藤 法案が内閣法制局を通らないですからね。

福島 そうです。内閣法制局は、集団的自衛権の行使は憲法上認められないという立場を一貫して取ってきました。私は今年(二〇一三年)の五月一四日、参議院の予算委員会でこの問題を山本庸幸内閣法制局長官(当時)に聞いたんですね。私が「集団的自衛権の行使について、日本国憲法で認められるか」と聞いたら、山本長官は「行使は憲法九条の観点で許されない」とハッキリ言いました。

佐藤 私も議事録を読みました。

福島 安倍総理は山本長官のクビを切って、小松一郎元外務省国際法局長を内閣法制局長官にしました。安倍総理は、ある意味プライドが高い人だから、議員立法なんかで国家安全保障基本法案を出したくないと考えています。閣法として閣議決定をして出すと。つまり、内閣法制局に「合憲」と言わせて、議員立法じゃなく政府提案立法で出したい。
 国家安全保障基本法案は、ご存知のとおり、特定秘密保護法案を条文のなかに組み込んでいます。国家安全保障基本法を成立させてから、憲法改正の発議に必要な各議院での賛成を三分の二以上から二分の一以上に緩和する九六条改憲を狙う。そして、「戦争の放棄」を定めた九条を改憲する。まさにナチスの手口による解釈改憲から明文改憲へと進むのですよね。

佐藤 私も解釈改憲に行くとみています。  ただ、本当に工程表があるということならば、それをおかしいと言って潰していく、あるいは修正させることが可能なんです。しかし、実は工程表はないのではないかと感じます。なんとなく空気で動いている、つまり集合的無意識で動いているとすると、この動きをとどめるのはなかなか難しい。
 国会議員は今回、秘密が得られるという自らの権利を特定秘密保護法に賛成することで投げ捨てているわけですよね。「官僚さまにお任せします」と。民主党の相当部分も集合的無意識にとらわれています。「国難だ、国家の危機だ」という意識に流され、ネズミが集団で川に向かうように、変な方向に進んでいるっていうことじゃないかと思うんですよ。

福島 そうだとすると、大問題ですね。

「必要は法律を知らない」

佐藤 そして、外務省の動向に注意するべきだと思います。私は外交官だったからよくわかるんですけれども、外交官の法律感覚って、法曹資格を持っている人と違うんですよ。日常的に国際法をいじってますからね。国際法の運用では、条文に反しているだけでは義務違反になりません。相手国から文句を言ってこない限り、義務違反にならないのです。それから、最終的には力による解決がありうると考えています。戦争は違法化の傾向にあってもまだ違法ではありません。外交官は発想自体が暴力的なんですよ。

福島 うーん、それは問題じゃないですか。

佐藤 それで国際法の解釈は今までどおり外務省の国際法局長が行なう。そして、国内法は外務省出身の内閣法制局長官が解釈するとなると……。

福島 小松一郎さん。つまり外務省の解釈なんですよね。

佐藤 いま、日本にとって経済の焦眉の国際経済の問題はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)ですよね。首席交渉官は外務省の鶴岡公二さん。国家安全保障局長には、外務省出身の谷内正太郎さん(内閣官房参与)が就任を打診されています。安倍首相の周辺が全員、外務省の人で固まってるんですよ。その外務省の文化は、いま言ったように暴力的な文化なんです。

福島 どのぐらい暴力的なのでしょうか。

佐藤 第一次世界大戦が始まった時、ベルギーの中立をドイツが侵犯したと国際非難が高まりました。それに対して、ドイツ皇帝だったウィルヘルム二世は「必要は法律を知らない」という中世の格言を持ってきて説明しました。この感覚が、外交官たちが主観的に「いまは国難だ」っていう感情があるところで動き出していると思います。

福島 本当に国難があるんでしょうか。でもおっしゃるとおり、安倍首相の周りを固めているのは外務省関係者ですよね。外務省のなかのヒエラルキーで言えば、対米追従というか米国に向かってやるというところはないですか。

佐藤 対米追従の流れとは少し違うと思います。谷内さんは対米追従派ではありません。独自外交路線で、むしろ若泉敬さん(一九三〇~九六年、沖縄返還交渉において、佐藤栄作首相の密使として重要な役割を果たしたとされる国際政治学者)の流れを引く、右翼的な潮流の人です。

福島 安倍内閣はTPPなどさまざまな点で対米追従であると同時に、村山談話や河野官房長官談話を見直したくて仕方がない。近隣諸国との摩擦拡大を恐れる米国の考えとずれているところもあるわけですね。

佐藤 ずれがあります。安倍首相が唱える「戦後レジームからの脱却」とは、戦後の価値観からの脱却です。それを考えている人たちは外務官僚が多いということです。

福島 外務官僚は、戦前との連続意識がやはり強いんですかね。

佐藤 外務官僚の主観的な意識においては、「負ける戦争をした戦争責任は大きい」というところですね。

福島 では、負けない戦争だったら良かったということなのでしょうか。一般の人より外交官のほうが外国を見ているので、違う感覚ではないか、という思いが私にはあるんですよね。

佐藤 いや、私を含めて外交官は、外国を見ているがゆえに、逆に力の論理に非常にとらわれやすいです。外交官の感覚でやっちゃうと、何事もすべて力で決まるというシニシズム(冷笑主義)になってしまう。外交官をギューッと抑えることが政治に期待される役割なんです。

福島 それはそうですね。それから国民主権が当然重要です。情報は国民のものであり、法の支配に則ってやらなければなりません。ですからいま、特定秘密保護法案を通すか通さないかということは、日本の民主主義を守れるかどうかという、ものすごい闘いだと思っています。日本の社会がどうなるのか。国民が情報を持ちながら、主権者としてこの社会にいることができるのかどうかが問われています。

佐藤 その通りだと思います。それがリベラル派、左派のほうからも崩れてしまっている。憲法上、国権に関する権能を有さない方のところに手紙を渡せば世の中は変わるのではないかという意識。こういうような直情的な動きが出ると、錦旗革命、朝敵征伐のときに天皇軍の標章として用いられた錦の御旗を掲げる革命の思想につながりかねません。民主主義の崩壊はあちらこちらで起きていると思うんですよね。
 やっぱり社民党を中心として、本当に今までの蓄積の上に立って、法的に緻密な議論をしたうえで、「今こういう形で国の形が変わるのがいいのか」という根本から議論をしなきゃいけないんですよ。

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