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福島のデータが語る「体内被曝」の現実

英インペリアル・カレッジ・ロンドン公衆衛生大学院疫学・統計学博士課程の野村周平さんは2011年5月から今年9月まで、被災地・福島県南相馬市での内部被曝検査など健康問題に携わってきた。

「内部被曝のリスクを下げるには、出荷制限食物を未検査のまま継続的に食べないようにすることです。『福島県産』だからとレッテルを貼るのではなく、現場のデータにもっと目を向けてほしい」と野村さんは訴える。

週刊朝日10月4日号電子版には、「セシウム検査で判明した子どもの体内被曝の深刻度」と題したこんな記事が掲載されている。Facebookのおすすめが1万9千件、ツィートが7140件に達している。
関東15市町で実施されている最新検査で、子どもたちの尿の7割からセシウムが検出されていたことがわかった。(略)

「初めの10人を終えたとき、すでに9人からセシウム134か137を検出していました。予備検査を含めた最高値は1リットル当たり1.683ベクレル。参考までに調べた大人は2.5ベクレルという高い数値でした。いまも検査は継続中ですが、すでに測定を終えた85人中、約7割に相当する58人の尿から1ベクレル以下のセシウムが出ています」(常総生協の横関純一さん)
セシウム134、137は福島第1原子力発電所事故で拡散した放射性物質である。

野村さんが南相馬市立総合病院の坪倉正治医師のもと携わっている測定結果(南相馬市立総合病院と渡辺病院で実施)は 以下のグラフの通りだ。福島第1原子力発電所からの距離は約30キロである。

セシウム検出率

体内の放射性物質を体外から計測する装置ホールボディカウンターでセシウム134と137を測定。装置の検出限界は250ベクレル/ボディ(体重60キログラムで約4ベクトル/キログラム)。週刊朝日にある尿検査とは測定方法が異なる。

この装置でセシウム134と137が検出されない場合、常時被曝があったとしても、年間約0.01ミリシーベルト以下ということになる。

グラフを見ると、子供のセシウム検出率は昨年6月からゼロが続いている。

第4回目の測定は昨年10月から今年3月末にかけて行われ、中学生以下の子供184人からはやはりセシウム137は検出されなかった。

高校生以上の2681人からは20ベクレル/キログラム以上のセシウム137が検出されたのは1人だけ。

15~20ベクレルが4人、10~15ベクレルが12人、5~10ベクレルが56人、0~5ベクレルが64人だった。

野村さんは「子供の方がセシウムの排泄速度が早く、また、親が子供の食事に気を使っていることがうかがえます」と解説する。

セシウムの生物学的半減期は約100日、100日経てば体内のセシウムの半分は体外に排泄されるので、放射性物質を含んだ食物を食べ続けない限り、検出率は低下する。

農水省によると、福島県と宮城県の一部で行った米の全袋検査で841万点中、放射性セシウム基準値(100 ベクレル/キログラム)を超えていたのは13点。コメ以外の農産物では24年産大豆38点、山菜・キノコ類183点が基準値を上回っていた。

「産地」よりも「種類」が重要だと野村さんは注意を促す。タケノコ、クサソテツ(こごみ)、たらのめ、こしあぶら、ぜんまい、わらび、さんしょう、うわばみそう(みず)、ふき、うど、ねまがりたけ、乾しいたけ、乾燥ぜんまい、原木しいたけ、野生きのこは要注意だ。

ドイツのバイエルン地方ではチェルノブイリ事故から27年が経っても、キノコからは放射性物質が検出されている。

「内部被曝の数値が高いか低いか、安全か安全でないかは、最終的な判断はもちろん個人によると思います。しかし、客観的に見て低い数字と言っていいかと思います」

「しかし、いったん土中に入ってしまったセシウムは除去するのが難しい。また、セシウムの土壌中の深度も時間が経てば変わりますし、それによって汚染されやすい食物も変わってきます。だから、今後も内部被曝の測定を継続する必要があります」と野村さんは注意を呼びかける。

相馬市で乳幼児から中学生、妊婦の計3173人を対象に今年5月から7月にかけて行われたガラスバッジ(外部から被ばくする放射線を測る装置)測定結果は次のグラフの通りだ。

外部被曝
外部被曝の測定結果

検出されなかった人が1349人。年間推定線量が0.2~0.4ミリシーベルトが1344人、0.4~0.6ミリシーベルトが354人、それ以上が126人だった。推定線量は、自然界にもともとある放射線による被曝線量を除いた原発事故後の「追加」被爆線量を指す。

相馬市が設定した目標値、年間推定線量1.6ミリシーベルトを超える人は昨年の16人から今年はゼロになった。

安倍晋三首相は10月、福島県相馬市の松川浦漁港を訪れ、風評被害に苦しむ漁師らと面会し、試験操業で水揚げされたシラスやタコなどを試食した。

安倍首相は東京五輪がかかった国際オリンピック委員会(IOC)総会で福島第1原発の汚染水漏れ問題について「状況はコントロールされている」と断言したことについて一部から批判を浴びた。

内部被曝は食物の種類と検査の有無に気をつければ、安心できるレベルまで状況はコントロールされつつある。しかし、食物検査や内部・外部被曝測定を今後も怠るわけにはいかない。

野村さんは「相馬市と南相馬市の調査は坪倉先生をはじめ、市役所や病院関係者らが持ち出し覚悟でやられたから継続して行うことができました。しかし、福島県全域のデータとなると足並みがそろわず、集まらないのが現実です」と指摘。

「私たち研究者は信頼できる客観的なデータを提示して、みなさんに安全かどうかをそれぞれ判断してもらう努力を続ける必要があります」

原発政策をめぐる対立は福島第1原発事故でさらに先鋭化した。反原発派は放射性物質検出のデータをもとに「原発の危険性」を訴えるため、必要以上に「不安」をあおる傾向がある。

週刊朝日の記事と野村さんが示してくれたデータから受ける印象は大きく異なっている。どうして、こうも違うのか。

Shuhei Nomura
野村周平さん(提供写真)

野村さんは「週刊朝日のデータに関しては、尿検査のセシウム検出限界値が低いので、多くの方が検出されたのだと思います。尿検査では1ベクレル/リットルまで測定できるようですが、尿中から1ベクレル/リットル検出されることが何を意味するのか」と解説する。

「それが常時維持されて年間で何ミリシーベルト程度の被曝量に換算されうるのか。それが自然界からもともとある放射線からの被曝量と比べてどうなのか。日常生活で浴びる被曝量(例えばCT検査や飛行機による移動に伴う被曝量)との比較など客観的、相対的なファクトを示すことが不可欠です」

常総生協が昨年度、食品1788品目を調査したという結果についても、「常総生協の検査方法調べたところ、検出限界値は1~5ベクレル/キログラムでした。農林水産省の検査での検出限界値は50ベクレル/キログラムです。1~5ベクレル/キログラムが検出されたという事実以上に、それがどういった意味合いを持つのかをしっかり情報発信するのが、重要だと思います」という。

メディアは客観的なデータを「反原発」「原発推進」のバイアスをかけずに伝える責任を負っているのではないか。「放射能汚染」のレッテル貼りによる最大の被害者は、風評被害に苦しめられている福島県民だ。

(おわり)

野村さんは今月16日、英国と東日本大震災の被災地をつなぐ団体「TERP London」(下濱愛代表)がロンドンで開いたイベント「Tough It Out: after the Great East Japan Earthquake and Tsunami 2011」で講演した。

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