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東京を勝たせたのは「復興への祈り」だった

「ああ、結局、大震災が東京を勝たせてくれたなあ」――私は、「東京決定」が決まった瞬間、そう思った。逆境は人を育てるというが、あの東日本大震災という日本にとって大変な試練こそが、IOC委員に「東京」への1票1票を入れさせた最大の理由になったのだと感じた。

土壇場で福島第一原発の汚染水問題などが現地で大報道され、2日前には、韓国が、「海のない」群馬県を含む8県の「水産物の輸入を禁止する」という露骨な「反東京招致」キャンペーンをおこなったにもかかわらず、日本は圧倒的な勝利を収めた。

この汚染水問題だけでなく、4月にあった猪瀬都知事のイスタンブールに対する失言など、まさに山あり谷ありの中での勝利だった。だが、最後はやはり、あの「大震災」こそが、東京勝利の最も大きな要因になったのだと思う。

私が東京のプレゼンテーションで印象深かったのは、冒頭で挨拶された高円宮妃久子さまの大震災の被災地へのIOCによる支援への感謝の言葉と、それにつづくパラリンピアン佐藤真海さんの「私がここにいるのは、スポーツによって救われたからです」「津波が私の故郷の町を襲いました」というスピーチだった。

そして、滝川クリステルさんがフランス語でおこなった「おもてなし」という言葉の説明と、両手を合わせて拝む姿は、大きなインパクトをIOC委員に与えたと思う。招致委員会の竹田恒和委員長とフェンシングの太田雄貴氏の気迫のスピーチも素晴らしかった。

この時点で、財政赤字のマドリード(スペイン)と反政府運動の懸念を抱えたイスタンブール(トルコ)を「大きく引き離した」ことは間違いないだろう。汚染水問題を糾弾されていた東京は、国のトップである安倍首相が、自らその懸念を払拭するスピーチと質疑をこなして、勝利を「決定的にした」のである。

あの1964(昭和39)年の東京オリンピックで忘れられないシーンが私には3つある。1つは、当時、徳島市に住んでいた6歳の私の目の前を白煙を上げながら聖火ランナーが走っていったことだ。

聖火ランナーは全国の津々浦々を走ったが、私の眼の前の国道11号線も走っていった。そして、その聖火ランナーに“ご近所”が総出で繰り出し、手が痛くなるほど叩いて皆が声援を送ったのである。

2つ目は、その聖火の最後のランナーが、開会式で国立競技場スタンドの一番上に立つ聖火台への長い長い階段を上がっていった時のことだ。自分の眼の前を走った聖火が、最後にあれほどの長さの階段を登らなければならないことに私は言葉を失った。胸が苦しくなって、そのランナーに「頑張れ」「倒れるな」と必死に祈りながら、それを見守ったことを思い出す。

3つ目は、閉会式の時の感動である。開会式で整然と行進した各国の選手たちが、閉会式では一転、みんなが肩を組んだり、手を握り合って、一緒になって行進を始めたのだ。

「ここには、国境も、肌の色も、何もありません!」とアナウンサーが叫び、テレビの前に座っている6歳の私も、その画面を見ながら、感動に満たされた。

あれをきっかけに、日本の経済は“爆発”し、20世紀の奇跡と言われる高度経済成長を成し遂げていく。いま考えてもすごいオリンピックであり、経済効果だった。

前回の東京五輪は、「戦争」と「復興」が決定の最大の要因だったのではないかと思う。連合国と戦った枢軸国の日・独・伊の3国は、ローマ五輪(1960年)、東京五輪(1964年)、ミュンヘン五輪(1972年)で次々と五輪の開催地となっていった。オリンピックの決定には、世界の“優しさ”が込められていたのである。私は、今回は「大震災」と「復興への祈り」がIOC委員の投票行動を決めたと思う。

果たして、今回の東京五輪はどうなるのだろうか。前回のブログでも書いたように東京は、大地震の懸念を抱えている。そして、隣国には、日本への憎悪を剥き出しにする中国と韓国という国も存在し、今後もいろいろな嫌がらせが予想される。

1988年のソウル五輪を阻止するためにさまざまなテロをおこなった北朝鮮の問題もある。また、酷暑の「夏の東京」でのマラソンなど、選手の健康上の心配点もある。

しかし、オールジャパンで英知を結集し、さまざまな問題を乗り越えて欲しいと思う。長くつづく経済低迷とデフレからの脱却、そして震災からの復興――東京五輪をきっかけに、かつてのパワーを日本が是非、取り戻して欲しいと願う。

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