記事

クレーマー主義について

松江市の教育委員会が、学校図書室での『はだしのゲン』の閲覧を制限し、後に撤回した。

この一連の騒動については、様々な意見があってしかるべきだと思う。いまのところ、閲覧制限を行った教育委員会を批判し、制限撤回を支持する見解が優勢のように見える。

私も、この教育委員会は最低だと思う。ただ、最低なのは閲覧制限したことでも、閲覧制限を撤回したことでもない。誰かに何かを言われると、組織的意思決定をころころと変える、そのこと自体が最低だと思う。それに比べたら、閲覧制限の方がマシである。

組織や個人が、依拠(よりどころ)とする行動規範を「主義」という。議論と多数決を意思決定の依拠とするのが「民主主義」で、出資額の多寡を依拠とするのが「資本主義」だ。最近、声の大きな人が意見を言うと、その意見に従う組織が増えているように思う。そのような行動規範を、私は「クレーマー主義」と呼ぶことにしている。

クレーマー主義にたつ組織には、定見がない。「残酷な場面を子どもに見せるのはいかがなものか」と言われると、それに従い、「学問思想の自由に反する」と言われると、それに従う。

クレーマー主義者にとって、判断基準は「声の大きさ」だけだ。中身は関係ない。松江市教育委員会は、閲覧制限を正しいと思ったのでもなければ、制限撤回が正しいと考えを改めたのでもない。単に、「こっちの方が声デカイから、言うこと聞こうね」と考えただけである。

教育委員会がどういう仕事をするのか、私はほとんど知らないが、きっと教育に関する仕事をするところなのだろう。教育の目的が、「声の大きな人に従う」国民を育成することにあるなら、クレーマー主義は賞賛されるべきだが、私は、教育の目的は他にあると思う。教育の目的が、たとえば「民主主義国家にふさわしい自律的な個人を育成する」ことにあるなら、教育委員会のクレーマー主義は最低である。

『はだしのゲン』閲覧制限撤回を歓迎するのは、やめたほうがよい。それは、クレーマー主義を助長するだけだからである。閲覧制限撤回によって、この問題が収束してしまったことこそ、問題なのである。なぜ教育委員会は、堂々と「閲覧制限して何が悪い」との論陣を張らなかったのか、そのことをこそ、しつこく問い続けるべきである。

あわせて読みたい

「はだしのゲン」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    W杯も「安倍が悪い」無能な野党

    かさこ

  2. 2

    竹中平蔵氏が労働者無視の残業論

    国家公務員一般労働組合

  3. 3

    RAD炎上曲を擁護するファンの謎

    WEDGE Infinity

  4. 4

    がん患者へのヤジ議員 差別訴え

    猪野 亨

  5. 5

    「大迫半端ないって」の胡散臭さ

    新井克弥

  6. 6

    メガバンクの時代遅れなリストラ

    城繁幸

  7. 7

    北欧の性教育に女子大生が驚愕

    SmartFLASH

  8. 8

    米国が北に仕掛けた無慈悲な取引

    MAG2 NEWS

  9. 9

    日本の孤立化認めた櫻井よしこ氏

    天木直人

  10. 10

    日大攻撃続けるバイキングに批判

    SmartFLASH

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。