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甲子園に棲む“魔物”とは「高野連」である

第95回全国高等学校野球選手権は、前橋育英(群馬)が延岡学園(宮崎)を4対3で破り、初優勝を遂げた。恵まれた188センチの長身を生かした2年生の高橋光成投手の力のあるストレートとキレのあるスライダーは「優勝投手」に相応(ふさわ)しいものだった。

宮崎県民の悲願である「初の全国制覇」を目指した延岡学園は、惜しくも準優勝で終わったが、紙一重の敗北だった。逸した大魚は大きいが、精一杯の戦いは素晴らしかった。

だが、私は、昨日の準決勝で敗退した花巻東(岩手)の2番バッター千葉翔太選手の“無念”を思い、高野連に対して釈然としない思いを抱いて今日の決勝戦を観ていた。

身長156センチの小柄ながら得意のカット打法で好球を待ち、「ヒット」か、あるいは「四球」を得て塁に出る千葉君の存在は、相手投手にとって最大の脅威だった。しかも、準々決勝が終了するまでの15打席のうち、5四球を得ただけでなく、10打数7安打で、史上最高打率の「8割」達成も目前に迫っていた。

つまり、得意のカット打法で好球を待つか、四球で出塁するか、という千葉君の打法は、この野球というスポーツが、たとえ「体格」に恵まれていなくても、「創意と工夫」、そして「努力」によって、大きな選手にも負けない活躍ができるものであることを証明してくれたものだった。

だが、19日の準々決勝の対鳴門高校戦が終わった後、信じられないことが起こった。大会本部と審判部が、ある“通達”を花巻東におこなったのだ。

試合後、選手たちはマスコミの取材が終わった後、控室でストレッチなどのクールダウンを終えて甲子園をあとにする。しかし、この時の控室で、この試合の5打席すべてで出塁する(1安打4四球)という大活躍をした千葉君のカット打法について、事実上の“注意”が与えられたのだ。

控室に来た高野連側が、「高校野球特別規則にある“17”についてご存じですか」と花巻東の佐々木洋監督と流石裕之部長に問うと、2人は、「えっ? 知りません」と答えた。それに対して、高野連側は、「高校野球には特別規則があり、その第17項目にバントの定義が決められています」と言い始めた。

おそらく佐々木監督と流石部長は、この時点で高野連が何を言いたいのか、悟っただろう。予想通り、高野連側はこう続けた。「自分の好む投球を待つために、打者が意識的にファウルをするような、いわゆる“カット打法”は、その時の動作、つまりスイングしたか否かによって、審判がバントとジャッジする場合もある、と決められています」。

佐々木監督と流石部長が受けた衝撃は、想像に難くない。高野連は、最後に「あれをバントと見なす場合があります。わかりますね」と言ったという。 「この打法はやめなさい」という事実上の“禁止勧告”である。

私は、高野連のこの出方を見て、「ああ、またか」と思った。いかにも高野連らしい考え方だからだ。かつて敬遠策すら「高校野球に相応しくない」として、不快感を示した高野連である。カット打法など、「そんな卑怯(ひきょう)なことはやめろ」、そして「試合時間が長くなるようなプレーはするな」という“本音”がそこにはある。

しかし、高野連のこの考え方は、2つの点で明らかに間違っている。それは、千葉君のカット打法は、「卑怯な戦法でもなく、またルール違反でもない」という点である。私は、拙著『甲子園への遺言 伝説の打撃コーチ高畠導宏の生涯』の中で、このカット打法のことを取り上げたことがある。

当時、西武ライオンズにいた春日昭之介という選手に打撃コーチだった高畠氏は、「ファウルを打つ練習」を延々とさせたことがある。それは、「どうせ2割5分しか打てないなら、相手に嫌がられる2割5分のバッターになろう」と2人で話し合い、できるだけ粘って“好球”を待ってヒットを打ち、あるいは四球をもらって、出塁しようという目標を掲げたのである。

だが、この打法を身につけるのは、容易なことではない。ファウルを打つということは、やってみればわかるが、実に難しい。スピード豊かなストレートや鋭い変化球をバットに当ててファウルゾーンに転がすことは、単に努力や精進だけでできるものではない。「誰にでもできる」と思ったら大間違いだ。

私は、この西武の春日選手にも話を聞いたことがあるが、特に難しいのは内角球で、左バッターの春日選手は、自分の内角を突いてくる球でも、絶対に3塁側のファウルゾーンに転がすように練習をしたそうだ。1塁側のファウルゾーンに転がすとしたら、空振りになる可能性が高かったからである。

プロ選手でも難しいこうしたカット打法を千葉君は身につけて甲子園にやって来た。どれだけ努力をしたか、想像もつかない。156センチという小柄ながら123人もの部員の中で堂々とレギュラーの座をつかみ、そして甲子園に来ても、四球で出塁するだけでなく、前述のように「7割」という高打率をマークし、甲子園史上最高打率にあたる「打率8割」達成が目前に迫る活躍をしていたのである。

圧巻は、3回戦で大会屈指の本格派・安楽智大投手(済美)から7回表に放ったライトオーバーの大三塁打だろう。単なるカット打法ではなく、彼が野球選手として“小さな巨人”であることをまぎれもなく示したシーンだった。

好球を待つためのカットは、通常でもおこなわれ、そして、それは「野球の基本」でもあり、さらに言えば、非常に難しい技術であり、会得するには大変な努力を要するものだ。

体格に恵まれない千葉君は、これを人並み外れた精進によって身につけたのである。それは、菊池雄星投手を擁してベスト4に進んだ時の155センチの2番打者・佐藤涼平選手の再来ともいうべきものだった。それは、全国の小柄な野球少年に勇気とやる気を与える大活躍だったと言えるだろう。

千葉君の打法は打つ瞬間に右手と左手のグリップはきちんとついており、バントではなく、明らかにスイングであり、「ルール違反ではない」という点を見逃してはならない。

もし、審判がこれを「バントと判断」するなら、たとえば2ストライクをとられていたら、「スリーバント失敗」でアウトを宣告すればいい。しかし、両手のグリップをきちんとつけたスイングをバントなどとジャッジしたら、たちまち大非難が湧き上がっただろう。

堂々とグラウンドでジャッジするのではなく、試合が終わったあとの控室で、正当なプレーに対して、事実上の禁止勧告をおこなうなど、まさに高野連側が「ルール違反」をおこなっているわけである。

1回戦では、相手投手に34球、3回戦では41球も投げさせた千葉君は、チームの勝利に最も貢献した選手だったが、準決勝の延岡学園戦で、自らの打法を“封印”させられ、相手投手にわずか10球しか投げさせることができず、4打数0安打に終わり、チームも0対2で敗れ去った。

私は、産経新聞からこの問題についてコメントを求められ、こう答えた。「千葉選手の活躍は全国の身体の小さな選手に、たとえ体格に恵まれなくてもこれだけやることができると、“勇気”と“やる気”を与えた。自分の創意と工夫、そして努力でレギュラーを勝ち取り、甲子園の土を踏んだ希望の星だった。このプレースタイルは、誰もができるものではなく、一生懸命精進して初めて会得できたもの。高野連に、その努力が分からないのが残念だ。こうした希望の芽を摘(つ)もうとしている高野連こそ、ルール違反をおこなっていることを自覚して欲しい」。

準決勝の試合後、泣きじゃくった千葉君は「過呼吸」に陥り、車椅子に乗せられて甲子園を去った。私は、ルールを無視してまで選手の可能性を摘んだ高野連には、こう“宣言”して欲しいと思う。「高校野球は恵まれた体格と才能の選手たちによる勝負の世界ですから、体格の劣った人は野球に参加するのではなく、そういう人は是非、別のスポーツをやってください」と。

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