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映画「風立ちぬ」を批判する

1/3

 宮崎駿監督の『風立ちぬ』を観た。お盆で帰省し、子どもを見てもらっている間に夫婦で。

 ちょっと長くなると思うので、最初に結論書いておこうか。

  1. 恋愛要素は男目線で気持ちがノッた。
  2. 飛行機にかける夢についてはロジックがまったく詰め切れられておらず、面白くなかった。
  3. 零戦をつくった責任について無邪気すぎるという点が最大の批判点。

 えーっとネタバレもありますから、読む人は承知して読んでほしい。

 あらすじを知らない人はここを読まないだろうけど、一応。零戦(零式戦闘機)の設計者として有名な堀越二郎という実在の人物の半生を描き、それに堀辰雄の小説『風立ちぬ』のラブストーリーをまじえ、菜穂子という少女との恋愛をからめて虚構化した作品。

 ジブリの公式のあらすじ解説はこちら。http://kazetachinu.jp/story.html

恋愛要素は男目線で気持ちがノッた

 菜穂子との恋愛は、(;゚∀゚)=3ムッハー!! っていう感じ。

 なんでかというとですね、主人公・堀越二郎が丸めがねだから。ほら、完全にぼく自身だから。声優である庵野秀明の訥訥とした語り口が、知的で内気っぽい、自分の理想的インテリ像をかぶせる上で絶好のオカズだった。

 菜穂子の造形も、「サナトリウム」とか……そういう昭和のインテリっぽい雰囲気が……もう……悶絶っぽくて。

 結婚式のシーンとか、そのあといろいろイチャイチャするのも、ごろごろ転がってしまいたくなった。

 つれあいは恋愛そのものの描き方は悪くないと思っているようだったが、声優=庵野がまったく受け付けられなかったらしい。

 「あの、口ごもった喋り方がひどかった。反知性さえ感じた。キムタクのときは最初違和感があったけどすぐに消えてのめり込めていけた。さすがプロと思ったが、庵野は全然ダメ。終わりまであの声のせいで現実に引き戻された。むしゃくしゃした。ついカッとなった」と最悪のコメント。そのために、恋愛要素全体がぶちこわしになったということである。

 つまり庵野という虚構の入口を通過できたかどうかが、明暗を分けたということだ。そして、昭和インテリの妄想を持つぼくは、この入口を通過できたのである。

風立ちぬ・美しい村 (新潮文庫) ちなみに、堀辰雄の『風立ちぬ』自体についても、つれあいの評価は辛口。激辛。暴君ハバネロ。

「なんだこりゃと思った。世迷いごと。小さい頃、読んだ記憶があるが、やっぱり『なんだこりゃ』と思ったのだろう。全然記憶に残っていない。まあ、サナトリウムでの悲恋、薄幸の少女っていう設定とか、草食系男子みたいな主人公っていうのは、当時はものすごく新鮮だったかも知らんけど、今読んで得る物は何もない。こちらからは以上です」

 ぼくも小説の『風立ちぬ』って初めて読んだけど、似たような感想である。あとがきの解説とか読んでも、女性ファンがけっこういたわけで、女子用メロドラマだったのではないかと愚考する次第です。

 ちなみに、堀辰雄の原作は男性が病身の女性に尽くす話であるが、宮崎映画の『風立ちぬ』は病身の女性が男性に尽くすという具合に書き換えられている。そのような非道い男権主義的逆転が、ぼくの男目線的欲望を刺激したに相違ない。

飛行機にかける夢についてはロジックがまったく詰め切れられておらず、面白くなかった


 さて、物語のもう一つの軸である、「飛行機にかける夢」は、「ロジックがまったく詰め切れられておらず、面白くなかった」というのがぼくの印象。

 ここでもつれあいにご登場願おう。

「堀越二郎がどういう人か知らんけどさ、その凄さって映画の中でなーんも描けとらんよね。新妻との貴重な時間を潰してまで働く、その贅沢さによって、堀越の仕事の凄さを示しているとしか思えんかった。そして、その描写は(゜Д゜) ハア??っていう感じなわけ。中身がないんだもん」

零式戦闘機 (新潮文庫) 吉村昭『零式戦闘機』や堀越二郎『零戦』を読むと、海軍側=戦争の現場のロジックがいかに無茶を設計側に強いてきたかがわかる。要請される能力が相互に矛盾しあうのである。

速度、上昇力、旋回性能、航続力、離着陸性能、それに兵装艤装など、すべての要求項目は、互いにその性能を減殺し合おうとする性格をもち、しかもそれらの項目の一つ一つは、日本はもとより外国の一流戦闘機の水準を越えたもので、それらをすべて小馬力の機に充たすことは至難だった。そしてその中の一項目をみたすだけでも容易ではないし、もしもその項目を強引に実現しようとすると、他の性能が水準以下に転落し、機の性能のもつ均衡もたちまちに崩壊してしまうのだ。(吉村『零式戦闘機』新潮文庫p.48)

 海軍側の要求にそえる方法を、具体的に考えれば考えるほど、その要求の苛酷さが身にしみてわかった。私は毎日、会社の机で呻吟した。昼休みにスチームのきいた部屋にみなで集まって歓談しているときも、若い技師たちは、よく、海軍のだれそれさんはこんなくせがあるなどと話して笑ったりしていたが、私の頭には、ときどきふっと、要求書の項目が現れては消えていった。

「この要求のうちのどれか一つでも引き下げてくれれば、ずっと楽になるのだが――。」

 そういう思いがときどき頭をよぎった。(堀越『零戦 その誕生と栄光の記録』角川文庫p.51)

 しかし、堀越はそれを見事に乗り切り、高性能の戦闘機を創りだす。

 『零式戦闘機』『零戦』の面白さは、この矛盾し合う要求を制御し、その水準を越えていくところにある。

 映画「風立ちぬ」はあえてこのロジックの凝縮を捨てた。どこかに出て来たかもしれないが、ぼくもつれあいも見過ごすほどにわずかなものだったに違いない。兵器オタクである宮崎がその「面白さ」を知らぬはずがない。あえて捨てたのである。

 しかし、その「あえて」が効いているとはとうてい思われぬほどに、物語はぼんやりしてしまった。その責任はあげて宮崎にある。*1

 「がんばりました」「才能があったそうです」というだけで誰が満足するんか。ゼロ戦開発の苦闘がロジカルに示せないのは、それを描けば次節で紹介する戦争との関係が生々しくなってしまうからだろう。「夢」として描くにはギトギトしすぎるからだ。

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