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太平洋を大回遊する「クロマグロ」 その資源管理のカギは「日本海」にあった

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東京や大阪、名古屋など、日本の大都市の多くは太平洋側に集中しており、人口も太平洋側に偏っているのが現実です。政治や経済、情報発信といった側面についても、太平洋側が主導権を握っています。そんなことから、太平洋側を「表日本」、日本海側を「裏日本」と呼ぶ言葉も存在するくらいです。

太平洋側に暮らす多くの人々にとって、反対側の「日本海」はときおり旅行で訪れるだけの「遠い存在」なのではないでしょうか。静岡県出身で、いまは東京で生活する私自身がそうでした。日本海を訪れたことは数えるほどしかありませんし、日本海がどんな海であるか、日本人にどんな影響を及ぼしているかを真面目に考えたことはほとんどありませんでした。

海の日に「日本海」をテーマにしたシンポジウムが開かれた


撮影:亀松太郎
撮影:亀松太郎 写真一覧
海の日である7月15日、そんな私が、「日本海」をテーマにしたシンポジウムに出かけました。東京大学海洋アライアンスと日本財団が共同で企画した催しで、東京・日本橋の三越劇場が会場でした。私が参加したのは、日本財団と定期的にイベントを開催しているBLOGOS編集部の誘いによるものでしたが、いままでまともに触れ合ったことがなかった日本海について、これを機に考えをめぐらしてみるのも面白いのではないかと思いました。

シンポジウムの開演直前、会場に着いてみると、約500席ある観客席は7割ほど埋まっていました。その多くは、50代以上とみられる年配の人たちで、男性の比率が高かったです。高齢の聴衆が多いのは、三越本店の6階という場所柄なのか、それとも、「日本海」という地味なテーマのせいなのか分かりません。シンポジウムの内容は幅広い年齢層に訴えかけるものだっただけに、聴衆が高齢世代に偏ってしまったのは、ちょっともったいない気もしました。

この日のシンポジウムは、第1部が大学教授やジャーナリストなど4人の専門家による講演で、第2部がパネルディスカッションという2部構成でした。そのなかで一番印象に残ったのは、第1部の最後に登壇した東大の木村伸吾教授による「日本海を大回遊する水産資源の現状と未来」と題された講演です。我々にとって身近な食材であるマグロが日本海とどのような関係にあるのかを、わかりやすく解説したものです。この木村教授の講演の内容を、ここでは紹介したいと思います。

日本海は、クロマグロの産卵場と生育場を結びつける「交通の大動脈」


太平洋に生息するマグロは主に5種類あり、本マグロとも呼ばれるクロマグロ、インドマグロの別名をもつミナミマグロ、それから、メバチ、キハダ、ビンナガということです。木村教授によれば、この並びは「食べておいしい順」だそうで、必然的に「値段の高い順」ということになります。今回の講演は、その中で最も値段が高く、美味とされるクロマグロの生態についてのものでした。

クロマグロというと、青森県の北端に位置する大間町のマグロ漁が有名ですが、産卵場ははるか南にある沖縄の近くの海なのです。

「クロマグロの産卵場は主に南西諸島海域で、5月、6月が産卵期となります。ここで生まれたクロマグロの赤ちゃん(仔魚)は、太平洋にも流れていきますが、対馬海峡を通って日本海に輸送されていくものもあります。日本海で成長しながら、北側の海峡を通って太平洋に抜けていったり、日本海のなかで回遊したりします。このように日本海は、クロマグロの産卵場と生育場を結びつける『交通の大動脈』としての機能を果たしています」


木村教授は、日本列島周辺の地図をスライドで示しながら、このように説明します。マグロというと「太平洋の魚」というイメージだったのですが、日本海がその成長に大きな役割を果たしているのだということを知りました。

世界の「70分の1の国民」が「4分の1のマグロ」を消費している


クロマグロは特大サイズだと400キロを超えるものもありますが、一般的に流通しているのは70~100キロぐらいが主流ということです。しかし、生まれたばかりのクロマグロ、つまり卵は、1ミリ以下の極めて小さな存在です。その代わり、数は非常に多く、1回の産卵で1000万粒もの卵が生み出されるのだそうです。

「サケの産卵は3000粒ぐらいですが、卵が大きい。逆に、クロマグロの卵は非常に小さいけれど、1000万も生むわけです。しかし最終的には、オスとメスのカップリングで1匹ずつ、あわせて2匹残ればいい。つまり、ものすごい勢いで減耗していくということです」

1000万も生み出された卵のなかで、100キロの巨体に成長するクロマグロは、ごくごくわずか。自然界における生存競争の厳しさをかいまみた感じがしました。そうした厳しい環境を生き延びてきたマグロの一部が捕獲されて、我々の食卓に並ぶことになるわけです。

では、世界の中で日本はどれだけのマグロを消費しているのでしょうか。木村教授は円グラフを用いて、次のように説明します。

「マグロの全世界の総生産量は、2011年の統計で181万トンです。そのうち国内で獲っているのは19万トン。さらに輸入で22万トンが日本に入ってきています。あわせて41万トン。つまり、全世界のマグロの4分の1は、日本人が食べているということです。世界の人口がいま70億人ぐらいで、日本は1億人。つまり、70分の1の国民が、4分の1のマグロを食べているのですから、我々には国際的な責任がそれなりにあるといえるでしょう」


このように数字で示されると、いかに日本人が「マグロ好き」であるかがわかります。最近は大西洋におけるクロマグロの乱獲が問題となっていて漁獲規制もかけられていますが、その出荷先の多くが日本である現状からすると、マグロの資源管理に日本人はもっと関心をもつべきなのでしょう。

日本海の大漁港・境港で「クロマグロの漁獲量」が激増している理由


ここまで、クロマグロの生息海域や成長メカニズムなど基礎的な知識を紹介してきましたが、今回のシンポジウムは「日本海」がテーマということで、話題は「日本海におけるクロマグロ」に移ります。
日本海といえば、境港という大きな漁港が鳥取県にあります。実は、生のクロマグロの水揚げ量はこの境港が日本一なのだそうです。その漁獲量は近年、大きく上昇しています。「2000年代半ばまでは、500トンぐらいしかクロマグロがとれていなかったのですが、最近ドーンと増えています」と木村教授は指摘します。


なぜ、境港でクロマグロの漁獲量が急増しているのか。その理由について、木村教授は2つの仮説をあげていました。

一つは、日本海でクロマグロの産卵が増えているのではないかというものです。本来、クロマグロの産卵場は、沖縄に近い南西諸島海域のはずなのですが、地球温暖化の影響などもあり、産卵場が北にあがって、日本海での産卵が増加している可能性があるというのです。

もう一つは、漁法の変化の可能性です。木村教授によると、クロマグロの漁獲法としてはこれまで、釣り針のついた釣り糸を船から垂らしてひきながら移動していく「曳き縄釣り」が主流だったのですが、最近では、網を巻いて魚を一網打尽に捕える「巻き網」が増えてきました。特に、境港はこの巻き網漁法が中心ということです。

この2つの漁法を比べると、巻き網のほうが曳き縄釣りよりも効率が良いというメリットがあります。しかしその分、乱獲の危険性があるといわれています。大西洋のクロマグロについて乱獲が問題となっているのは、地中海で巻き網漁法によるマグロ漁がおこなわれているためです。それと同じ問題が、日本でも起きつつあるというわけです。

さらに、木村教授によると、巻き網漁法はこれから卵を産もうとする「産卵親魚」を捕獲してしまうというデメリットもはらんでいるそうです。

「クロマグロは、これから赤ちゃんを産もうという親魚になると、エサに食いつかなくなるので、曳き縄釣りの場合は、そういう産卵親魚を獲らなくてすみます。ところが、巻き網の場合は、産卵親魚も一緒に獲ってしまうという問題があります」

つまり、境港で行われている巻き網漁法は、漁獲効率がいいがゆえに「乱獲」につながりやすいだけでなく、次世代のクロマグロを産んでくれるはずの産卵親魚の捕獲によって、将来のマグロ資源を「枯渇」させてしまう可能性があるということです。

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